「相続の手続きをしているけれど、相続税の申告に不備があったりして税務調査されないか不安」
「去年相続税の申告をしたら、先日税務署から調査に入る連絡があった。どんな調査をされるのか、準備はどうすればいいのかなどよくわからない」
など、相続税の税務調査についての不安や疑問を抱いてはいませんか?
安心してください!
税務署への申告のしかたや事前の準備次第で、税務調査がなるべく入らないように対策することができるのです。
また、もし調査が入っても、正しく準備して対応すれば問題なく終わるものです。
この記事では、「これから申告するが、税務調査されないか不安」という人のために、
- 相続税の税務調査とはどんなものか:調査内容、調査が入る確率、調査の時期
- 税務調査が入りやすいケース
- なるべく税務調査されないための回避法
を詳しく説明していきます。
さらに、「税務調査されることが決まったが、どうすればいいのか」という人には、
- どんな準備をすればいいのか
- どこで行うのか、何を見られるのか
- 実際の調査の流れ
- 税務調査官から聞かれるであろう質問集
などを細かく解説します。
最後まで読めば、これから申告する人はなるべく税務調査が入られないように事前に対策を講じることができますし、調査が決まっている人は適切な準備と心構えができるでしょう。
この記事で、税務調査に関するあなたの不安が解消されれば幸いです。
1.相続税の税務調査とは
まず最初に、相続税の税務調査とはどんなものなのか、調査される確率はどれくらいあるのかなど、知っておきたい基礎的な知識から解説していきましょう。
1-1.調査の内容
相続税の税務調査は、「相続税を正しく申告したか」をチェックするために税務署が行うものです。
税務署は、相続に関わるさまざまな情報を入手することができます。
例えば、
- 預貯金の流れ
- 不動産の保有状況
- 株式や国債などの保有状況や履歴
- 生命保険
などです。
相続税の申告内容とこれらの情報との間にズレがないかをチェックして、疑問や不審があると調査に入ります。
この調査は、大きく2種類に分けられます。
1)任意調査
任意調査は、調査対象となる人に対して事前に税務署から連絡があり、調査日時を決めて行われます。
場所は、被相続人(遺産を遺して亡くなった人)が最後に住んでいた自宅で行われることが多いでしょう。
その場には、できれば相続人全員、それが無理であればなるべく多くの相続人を集めて、税理士にも立ち会ってもらうことができます。
調査自体は、税務署員からの質問に対して相続人が答え、場合によっては通帳や土地の権利証などの書類を確認します。
無理やり見られたくない部屋を家捜しされるようなことはありませんので安心してください。
ただ、「任意」調査ですが、基本的には断ることはできません。
強硬に断ると、2)の強制捜査に入られてしまう可能性があるのです。
2)強制調査
強制調査は、任意調査を拒否した人や、明らかに悪質な脱税が疑われる人などに対して行われます。
事前に連絡はなく、抜き打ちで自宅などに調査に入ります。
映画やドラマで「マルサ」と呼ばれる国税局査察部の職員が家探しをする場面がありますが、あのイメージが近いでしょう。
とはいえ、強制調査が入るケースは非常に少なく、たいていは任意調査で解決しているので不安に思う必要はありません。
1-2.調査される確率は約2割
税務調査は、贈与税や所得税、法人税などさまざまな税金の申告に対して行われていますが、中でも相続税の場合は非常に調査されやすく、申告数の約20%に対して調査が入ります。5件に1件は調査されるということです。
というのも、相続税は比較的高額なため、申告漏れがあるとその金額も大きくなることが多いからです。
また、相続は一生にそう何度も経験するものではなく、申告慣れしていない人も多いので、間違いも起こりやすいのです。
ちなみに、調査されると約8割は申告漏れを指摘され、追徴課税を支払っています。
言いかえれば、相続税の税務調査は珍しいことではなく、申告漏れをする人も多いので注意しなければいけません。
1-3.調査の時期は申告の翌年または2年後の8〜11月
税務調査が入る時期はだいたい決まっていて、申告の翌年または翌々年の8〜11月の場合が多くなっています。
これは、税務署の人事異動が毎年7月にあるため、その直後に調査を始め、翌年の人事異動前までに1年かけて調査を進めていくためです。
もちろん、これ以外の時期に調査される場合や、3年後以降に連絡がある場合もまれにあります。
が、申告から2年後の11月を過ぎても調査の連絡がなければ、税務調査が入る可能性はかなり低くなると言えるでしょう。
2.税務調査が入りやすい12のケース
税務調査が入るのは、相続税の申告に対して税務署が疑問や不審を抱いた場合です。
特に、「遺産を少なく申告しているのではないか」「財産隠しではないか」と疑われてしまうと
それは具体的にはどんな例があるでしょうか。
この章では、税務調査が入りやすい具体的なケースについて解説していきましょう。
2-1.申告書に不備がある場合
当然ですが、申告書に計算ミスや記載間違い、添付書類不足などの不備があれば調査されます。
税務署は、亡くなった被相続人の預貯金や不動産など、財産とお金の流れを細かく把握していますので、その内容と申告された相続財産に違いがあれば、ミスや財産隠しを疑われてしまうのです。
2-2.相続額が大きい場合(2億円以上)
相続財産の総額が大きい場合、特に2億円を超えると、税務調査が入る確率はグンと上がります。
というのも、財産が多いということはそれだけミスや見逃しのリスクが増えるからです。
例えば、単純な計算ミスだけでなく、不動産や有価証券、美術品や宝飾品などの評価ミス、財産の見落とし、悪質な場合は意図的に財産隠しをしている可能性も疑われます。
税務署は、富裕層のリストを持っていて特に念入りに調査すると言われていますので、資産家の相続には注意が必要です。
2-3.相続財産に預貯金や現金が多い場合、その出入が多かった場合
相続財産に不動産が多い場合に比べると、預貯金が多い場合の方が、税務調査が入りやすいものです。
また、預貯金の出金や入金回数が多い場合も、調査の対象になります。
理由はいくつかありますが、まず不動産は評価額の算定が複雑なため「解釈の違い」が焦点になりやすく、明確な申告漏れを指摘しにくい傾向があります。
それに比べて預貯金は金額がはっきりしているため、申告漏れを見つけやすいのです。
また、預貯金の出入りが多いと、被相続人が生前に相続税対策として財産の移転をしていたのではないかと疑われます。
あるいは、何かを売買していたか、個人間でお金の貸し借りをしていた可能性も考えられますが、これらは遺族でも把握できない場合が多く、知らずに申告漏れしていることがあるため調査されやすいのです。
特に貸付金は、返済されていなくても債権として相続財産とみなされますので、申告していないと追徴課税の対象になってしまいます。
2-4.多額の借入金があるのにそれに見合う相続財産がない場合
被相続人が金融機関などから多額の借り入れをしているのに、その額に見合う財産、例えば不動産や事業設備などが見当たらない場合も、税務調査が入ります。
遺族が財産を把握できずに申告漏れをしている可能性があるからです。
2-5.名義預金や暦年贈与が多くある場合
被相続人の配偶者や子ども、孫などの資産に不審な点があると、それも税務調査の対象になります。
特に多いのが、名義預金と暦年贈与についての調査です。
「名義預金」とは、被相続人が配偶者や子ども、孫などの名義で開設した口座のことです。
たとえ名義が違っても、通帳や印鑑を被相続人が管理していたり、名義人自身が自由にお金を出し入れすることができなければ、それは実質的に被相続人の財産であるとみなされ、相続税の申告が必要です。
専業主婦である妻や学生である子どもなど、収入が少ない相続人の預貯金が多ければ、名義預金ではないか、あるいは生前贈与を受けていたのではないか、と疑われて調査されるのです。
もし名義預金がただの申告漏れではなく、意図的な隠し財産とみなされれば、重加算税として多額の追徴課税が課される可能性もあります。
また、生前贈与には毎年110万円までなら非課税という基礎控除があり、これを利用して少しずつ長期間にわたって生前贈与をするという節税方法があります。
「暦年贈与」と呼んでいますが、これが毎年規則正しく繰り返されていると、税務署から「最初から多額の贈与をするつもりだった」と判断され、一括贈与と同じ贈与税を求められてしまう場合もあります。
暦年贈与については、関連記事「暦年贈与を正しく使って相続税対策~贈与を無駄にしないための2つの注意点~」に詳しく解説されていますので、参照してみてください。
2-6.相続人名義の証券口座に残額が多くある場合
被相続人の配偶者や子どもなど、相続人名義の証券口座があって、収入に見合わない残額がある場合も税務調査される可能性が高まります。
名義預金の場合と同様に、実質的には被相続人のものではないかと疑われるからです。
特に、配当金を被相続人が受け取っていたり、使った実績があると、被相続人の口座とみなされ、追徴課税されます。
2-7.海外資産が多い場合
相続財産の中に、海外資産が多い場合も税務調査されやすいと言えます。
海外の金融商品や外国債に投資するなど、資産運用がグローバル化してきて、税務署も海外資産の把握に努めています。
特に、海外への送金や入金が1回あたり100万円を超えると、金融機関から税務署にその情報が送られますので、そこで把握している資産額と申告内容に違いがあれば、税務調査が入ることになります。(国外送金等調書)
2-8.生前に不動産所得や株式譲渡などがあったのに、申告額が少ない場合
被相続人の生前に、家賃収入などの不動産所得や、株式の譲渡などがあったにもかかわらず、相続税の申告額が少ないと、税務調査されることがあります。
実際は利益が上がっていたのに、申告されていない可能性が考えられるからです。
2-9.家族の資産が多い場合
被相続人の家族への名義預金でなく、家族自身の預貯金口座だったとしても、残高が収入に対して多い場合や、その他の資産を多く持っている場合は、税務調査の対象になることがあります。
これは、相続税対策として生前贈与された可能性があるからです。
もちろん贈与時に贈与税を正しく納めていれば、調査されても問題ありませんが、申告漏れがあった場合は追徴課税されます。
2-10.被相続人が上場企業の社長や重役、医師や弁護士だった場合
亡くなった被相続人が、上場会社の社長や重役、医師や弁護士など、社会的地位が高く高収入な職業の場合、税務署のチェックも厳しくなります。
特に、相続財産が予想されるほど多くなければ、申告漏れや資産隠しを疑われて調査が入るでしょう。
2-11.税理士に依頼せず自分で申告した場合
税理士に依頼せず、自分で申告した人も調査されやすい傾向があります。
相続税の申告は、専門家でなくても相続人本人でできますが、書類の種類が非常に多く、計算間違いや財産の見落としなどが起きやすくなっています。
特に、土地の評価額は、場所や地形などによって判断が難しいものです。
そのため、自分で申告した場合には、よりチェックが厳しくなり、ミスを疑われる可能性が高くなるのです。
一方で、税理士に依頼した申告書には、税理士の署名が入るため信頼度が高くなり、調査される確率は下がります。
2-12.無申告の場合
計算の結果、相続税が発生しなかったために申告をしなかった、無申告の人の場合であっても税務調査が入る可能性があります。
相続税にはさまざまな控除や特例があり、それらを適用した結果、相続税はゼロになるケースがよくあります。
例えば、相続税には基礎控除があって、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」までは非課税です。
相続財産の総額がこの金額以下であれば、申告は必要ありません。
他にも配偶者であれば1億6,000万円まで控除されるなどの制度があります。
が、そもそもこれらの控除や特例が正しく適用されておらず、計算ミスや見落としがあったため、実は相続税が発生していた、というケースもあります。
また、相続財産自体に見落としがあって、それを合算すると相続税が発生する、という場合もあるのです。
「自分は申告が必要ない」と思っていても、税務調査の可能性はゼロではありません。
3.税務調査されないための回避法5つ
「税務調査された人のうち、追徴課税される割合は8割」と聞くと、「できれば調査されたくない」と考えますよね。
この章では、どうすれば税務調査を回避することができるか、対処法を5つご紹介します。
もちろん100%回避できるわけではありませんが、リスクを最小限に減らすことは可能です。
以下の方法を実践してみてください。
3-1.正しく申告する
まず大前提として、正しく申告することがもっとも有効な回避法です。
- 相続財産の見落としがないよう、すべての財産を調査・把握する
- 計算ミスがないか、複数回にわたって検算する
以上2点に気をつけて申告しましょう。
3-2.相続税申告に強い税理士に依頼する
相続税の申告は自分ですることもできますが、税理士に依頼したほうがより税務調査されにくくなります。
プロである税理士の申告であれば、ミスや漏れは少ないからです。
申告書には税理士の署名も入りますので、それがあれば税務署からの信頼度はグッと高まります。
ただし、税理士といっても専門分野はさまざまで、中には相続税申告の経験が少ない人もいます。
依頼するなら相続税申告に強い税理士を探しましょう。
3-3.被相続人の財産を把握しておく
相続税の申告漏れが起きるのは、多くの場合、亡くなった被相続人の財産を遺族が把握していないことが原因です。
配偶者も知らない預貯金口座や、高価な収集品があったり、知人とのお金の貸し借りをしていたり、被相続人名義の賃貸アパートの家賃収入などを本人が握り込んでいたりするケースはよくあります。
そうなると、相続財産をすべて洗いだすのは大変な手間ですし、見落としが生じるリスクも大きいでしょう。
生前からどんな資産がどれくらいあるのか、口座はどれかなど、財産全体を家族が把握しておけば、申告漏れは防ぐことができるはずです。
3-4.生前贈与した場合は証拠を残しておく
相続税対策として、生前贈与で財産を先に配偶者や子どもに分けておき、相続財産をできるだけ少なくするという方法があります。
これを行う場合は、「生前贈与である」という証拠を必ず残すことが大切です。
例えば、現金を手渡しして贈与してしまうと、贈与の証拠は残りません。
大金が引き出されているのに、それが贈与だったことが証明できないと、税務署に不審に思われて調査されるリスクが高まってしまいます。
贈与は銀行振込で記録を残す、相手が家族でも贈与の契約書を作るなど、生前贈与の証拠を必ず残しておきましょう。
3-5.相続に関するやりとりは形に残しておく
相続について、被相続人や遺産をもらう相続人との間で何かやりとりをする場合は、口約束ですませずに必ず記録に残すことも大切です。
遺産を分割する際に、誰がいくらもらうのか、何をもらうのかによって、相続人一人ひとりが納める相続税額が決まります。
この過程についてやりとりの記録が残っていれば、正しい額を納めたことを明確に証明でき、税務署から疑われるリスクを下げることができます。
4.税務調査される場合の対処法
正しく申告したつもりでも、もし税務調査されてしまったら、どう対処すればよいのでしょうか。
税務署からいらぬ疑いをかけられずに問題なく切り抜けるには、堂々と誠実に対応することが大切です。
そのために必要な準備や、知っておくべきことについて、以下に解説していきましょう。
4-1.必要な準備と書類
税務調査の対象になった場合は、まず税務署から連絡があります。
申告を税理士に依頼していれば担当の税理士に、相続人自身が申告していれば相続人に連絡が入るので、そこから調査開始までの間に、必要な準備をしておきましょう。
1)申告書の内容を再確認する
申告の内容に間違いや見落としがないか、あらためて確認しましょう。
記入漏れがないかチェックし、計算ミスがないか検算するなど、細かく見直してください。
申告書の作成を税理士に依頼した場合は、その税理士と一緒に確認するとよいでしょう。
もし依頼せず自分で申告した場合でも、この時点で新たに税理士に依頼して、申告内容の確認と税務調査の立会いをしてもらうこともできます。
不安があれば、相続に強い税理士を探して依頼しましょう。
2)財産の洗い直しをする
見落としている財産がないか、もう一度調べましょう。
まだ気づいていない預貯金口座、不動産、有価証券、現金などはないか、自宅や金庫をよく探してください。
特に見落としがちなのが以下のものですので、注意が必要です。
- タンス預金やへそくりなどの現金
- 名義預金
- 美術品、骨董品、宝石など
- 生命保険金
- 人に貸していて未返済のお金や、商売の売掛金=債権
- 自宅とは別に所有している山林などの土地
- 亡くなる前3年以内に生前贈与された財産
→3年以内の生前贈与は相続財産として申告しなければいけない決まりがあります。
3)申告内容を証明する資料を揃える
税務調査官に対して申告した内容を実際に確認・証明するために、必要な書類や資料を可能な限り揃えましょう。
一般的には以下のような資料が揃っていれば心強いです。
- 相続税申告の際に使用した資料の原本すべて
- 被相続人の預貯金通帳すべて
- 相続人の預貯金通帳すべて
- 相続人が所有している土地の権利証や、不動産を購入した際の資料
- 相続人の認印
ここまで準備したら、落ち着いて当日を待ちましょう。
4-2.調査されるもの・場所
実際の税務調査では、
- 国税調査官による相続人への質問
- 預貯金通帳などの書類の現物を確認する調査
- 金庫やタンス、倉庫など貴重品を保管している場所を実際に見て確認する調査
が行われます。
被相続人が生前使っていた部屋や金庫などは、調査員から開示を求められたときに「金庫が開かない」「部屋が汚くて見せたくない」といったことがないよう、鍵の確認や掃除をしておくとよりよいでしょう。
また、税務調査を受ける場所は、被相続人が生前最後に住んでいた自宅になる場合が多いようです。
ただし、自宅がなかったり、すでに売却してしまっているといった場合は、相続人の自宅などで行います。
調査が必要な被相続人の財産を子どものうちの誰かの家に保管している場合などは、その保管場所で行うこともあります。
4-3.調査の流れと注意点
次に、税務調査の流れを、時間経過に沿って説明します。
その際の注意点も合わせて掲載しているので参考にしてください。
4-3-1.【調査前】
▽ 税務署から、相続人または担当税理士に税務調査に入る旨の連絡が電話で入る
→調査の日時を相談して決める
注1:調査を拒否することは、原則的にできません
注2:調査に立ち会うのは、できれば相続人全員、無理ならなるべく人数を揃えてください
注3:担当税理士も一緒に立ち会います
▽ 必要があれば、税理士に依頼する
→申告を自分でした場合、税務調査が不安であれば、この時点から税理士に依頼することも可能
注:税理士には得意分野があるので、必ず「相続に強い税理士」を探しましょう
▽申告書の内容をあらためて確認、再計算する
→担当税理士がいれば、一緒に確認
▽ 必要な資料・書類を揃える
4-3-2.調査当日 ※時間や内容は一般的な例です
参加者:国税調査官2人(質問係と記録係)、相続人(できれば全員)、いれば担当税理士
▽ 調査官による聞き取り調査
→税務署のマニュアルに基づいた質問をされる(「4-4.聞かれやすい質問」参照)
注:調査官は必ず外に出て昼食をとるので、相続人側が昼食を用意する必要はありません
▽ 現物確認調査
→午前中の質問をふまえて、調査官が通帳などの資料や、貴重品の保管場所などを実際に確認する
注1:揃えておいた資料は、あえて自分から出す必要はないので、求められたものを提出しましょう
注2:無理やり家探しされたりすることはありませんが、「見せてほしい」と求められた部屋や金庫などの開示を拒否すると心証は良くないので、できれば隠さず見せてください
▽ 具体的な指摘や質問
→調査の結果、調査官より不審な点についての質問や、発覚した申告漏れについての具体的な指摘をされる
▽ 質問に対する回答をまとめた書面に署名押印
→調査官が、当日の質問と相続人からの回答を書面にまとめるので、内容を確認して相続人が署名押印する
注:この書面は、のちに何かあれば証拠として使われるので、立ち会いの税理士にも確認してもらうとよいでしょう
注:たいていは1日で終了ですが、調査内容が多岐にわたる場合は別日に再度調査が必要な場合もあります。
4-4.聞かれやすい質問
税務署には、税務調査のマニュアルがあり、調査官はそれをもとにして質問します。
そこで、税務調査の際によく聞かれる質問の例を紹介しておきます。
調査が決まったら、これらの問いに対して事前に回答を用意しておくと安心です。
- 被相続人の出身地、職業、趣味は?
- 被相続人の結婚歴と時期、家族構成は?
- 被相続人の収入源は?(職業による収入や、家賃収入、株式配当といった不労所得など)
- 被相続人はどのようにして相続財産を築いたか?(事業内容や過去の相続など)
- 被相続人と取引のある金融機関と支店名は?(過去に使っていたものも含む)
- 被相続人の出費の状況は?(月々の生活費、趣味や交際費、医療費など)
- 大きな出費があれば、その使途は?(特に相続開始直前のものは重視される)
- 被相続人の投資状況は?(取引のある証券会社や証券口座、投資の種類や投資額など)
- 被相続人が生前にした贈与や寄付の内容は?(相手先、金額、時期など)
- 被相続人が日記や家計簿をつけているか?
- 被相続人が亡くなったときの状況は?(入院していればその時期や病院名など)
- 被相続人にかかった介護費用や医療費は?
- 被相続人が亡くなる前の財産管理の状況は?(通帳や印鑑、書類は誰が管理していたかなど)
- 被相続人の印鑑を見せてほしい(贈与契約書など書類の押印は本当に被相続人のものか確認する)
- 被相続人は貸金庫を持っているか?
- 被相続人の配偶者や子どもの年齢、学校名、職業は?
- 被相続人の配偶者や子どもの財産状況は?
- 相続人の出身校、職業、住まいは?
- 相続人と取引のある金融機関と支店名は?(過去に使っていたものも含む)
- 相続税を納税した金融機関は?(金融機関名、支店名など)
- 相続人の投資状況は?(取引のある証券会社や証券口座、投資の種類や投資額など)
- 相続人の自宅の購入金額や売却金額は?(過去に所有していた不動産も含む)
- 生前贈与を受けたことがあるか?(あれば時期や金額など)
- 相続人は貸金庫を持っているか?
- 相続人と税理士との関係は?
- 相続人の配偶者や子どもの年齢、学校名、職業は?
5.申告漏れがあった場合のペナルティ
税務調査の結果、申告漏れが見つかった場合は修正申告が必要です。
またさらに、大きく分けて3種類のペナルティもあるのです。
3種類のペナルティ
- 延滞税:税金を適切に納付しなかったことに対する利息的な税
- 加算税:税金を適切に申告しなかったことに対する懲罰的な税
- 刑事罰:悪質な脱税と判断された場合は犯罪として裁かれる
最後にこれらについても説明しておきましょう。
5-1.延滞税
延滞税は、納税を期限内にしなかった場合に課せられる延滞利息のような意味を持つ税金です。
相続税の申告・納税は、相続人が相続の開始を知った日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
税務調査の結果、申告漏れが見つかり、それがこの10ヶ月の期限を過ぎていれば、延滞税が課せられることになります。
延滞税率は、納付期限の翌日から2ヶ月以内の場合とそれ以降との2段階でそれぞれ違っていて、年によっても変動します。
ちなみに平成30年1月1日から令和元年12月31日までの期間は、
- 納付期限の翌日から2ヶ月以内:年2.6%
- 納付期限の翌日から2ヶ月経った日以降:年8.9%
となっています。
5-2.加算税
加算税とは、税金を正しく申告しなかった場合に課せられる懲罰的な税金です。
相続税に関する加算税には以下の3種類があります。
1)無申告加算税
本来は申告が必要であったのに、期限内に申告しなかった場合に課せられます。
わざと申告しなかったのではなく、必要ないと思っていたり、うっかり失念していた人は、これに当たります。
税率は、正しい納税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分には20%が加算されます。
2)過少申告加算税
申告はしたが、相続税額が本来よりも少なくなってしまっていた場合に課せられます。
これもわざと申告しなかったのではなく、気づかず申告漏れがあったり、財産の評価や計算を間違えていたりした人に当てはまるものです。
修正申告または更正により納付することとなった税額の10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)に相当する過少申告加算税が課せられます。
3)重加算税
過失ではなく、故意に財産を隠したり少なく偽装したりして、相続税を申告しなかった、または不当に少なく申告した場合に課せられます。
加算税の中ではもっとも重いもので、税率は、無申告の場合は40%、過少申告の場合は35%です。
5-3.刑事罰
故意に財産を隠したり少なく偽装するなど、不正な手段で相続税を逃れた、または少なく申告した場合、特に悪質な脱税事件と判断されると、逮捕・起訴され、裁判によって刑事罰が課せられることもあります。
相続税法第68条により、偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金と定められている重大な犯罪であることを知っておいてください。
6.まとめ
いかがでしたか?
税務調査に関する不安は解消されたのではないでしょうか。
では最後に、記事の内容をまとめて振り返ってみましょう。
◎相続税の税務調査
- 任意調査と強制調査があり、ほとんどの場合は任意調査である
- 調査される確率は、申告件数の約2割
- 調査の時期は、申告の翌年または2年後の8〜11月であることが多い
◎税務調査が入りやすい12のケース
- 申告書に不備がある場合
- 相続額が大きい場合(2億円以上)
- 相続財産に預貯金や現金が多い場合、その出入が多かった場合
- 多額の借入金があるのにそれに見合う相続財産がない場合
- 名義預金や暦年贈与が多くある場合
- 相続人名義の証券口座に残額が多くある場合
- 海外資産が多い場合
- 生前に不動産所得や株式譲渡などがあったのに、申告額が少ない場合
- 家族の資産が多い場合
- 被相続人が上場企業の社長や重役、医師や弁護士だった場合
- 税理士に依頼せず自分で申告した場合
- 無申告の場合
◎税務調査されないための回避法は以下の5つ
- 正しく申告する
- 相続に強い税理士に依頼する
- 被相続人の財産を把握しておく
- 生前贈与した場合は証拠を残しておく
- 相続に関するやりとりは形に残しておく
◎税務調査が決まったら・・・
- 申告書の内容を再確認する
- 財産の洗い直しをする
- 申告内容を証明する資料を揃える
<調査の流れ>
10:00 調査開始
- 調査官による聞き取り調査
12:00 昼休憩
13:00 調査再開
- 現物確認調査
- 具体的な指摘や質問
- 質問に対する回答をまとめた書面に署名押印
15:00〜17:00ごろ 調査終了
◎申告漏れがあった場合のペナルティ
- 延滞税
- 加算税
- 刑事罰
いずれにしろ、故意の財産隠しなどがなければ、税務調査を必要以上に不安に思う必要はありません。
あなたがこれから相続税の申告をするなら税務調査を回避できますよう、もしこれから調査を受けるなら適切な準備をして堂々と対応できますよう、願っています。