相続税の負担を大きく減らす節税方法としてよく知られているのが、不動産を活用する方法です。不動産を購入することで節税できるのは、不動産が取引される時価(実勢価格)と相続税がかかる基準となる価格(相続税評価額)に大きな差があるためです。
適切な相続税対策ができるよう、不動産に関する相続税の仕組みを知り、どのように節税できるのかを具体的な方法も含めて解説します。
1.不動産の評価方法
現金や銀行預金で相続する場合よりも、不動産で相続した方が相続税の負担が小さくなります。その理由は、1億円で購入した不動産が、相続財産としては1億円よりも小さな金額で評価されるためです。どのように不動産を利用しているかでも評価額は変わります。
不動産は土地と家屋(建物)に分けられ、それぞれ評価の仕方が異なりますので、順に解説します。
1-1.家屋の評価方法
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じです。
固定資産税評価額とは、市区町村が土地や家屋のひとつひとつを評価した価格で、固定資産税・不動産取得税・登録免許税などを計算する基準となります。家屋の固定資産評価額は、経年劣化の影響や建築費用の増減などを反映するために、3年に一度評価替え(見直し)されますが、徐々に評価額が下がっていくのが一般的です。
新築物件の固定資産税評価額は、建築費の60%程度になっているものが多いようです。さらに、物件を賃貸に出している場合には、その分だけ固定資産税評価額から減額して評価します。
【賃貸に出している場合の評価額の減少割合】 |
貸家の評価減割合=借家権割合30%×賃貸割合 |
建物全部を貸出している場合は、そうでない場合よりも30%評価額が下がる計算です。
例えば、5,000万円で建築した建物の評価額が3,000万円ちょうど(時価の60%相当)だったとします。賃貸に出していて空室がなければ、評価額がさらに30%減の2,100万円となります。
1-2.土地の評価方法
土地の相続税評価額は、路線価が元になる「路線価方式」と、固定資産税評価額をもとにした「倍率方式」とがあります。
1-2-1.路線価方式
路線価とは、国税庁が公表している土地価格で、相続税や贈与税を計算する基礎となります。不動産売買の参考価格とされる国土交通省が公表している公示価格よりも20%程度低く評価されています。
路線(道路)ごとに価格が決められているため「路線価」と呼ばれ、その路線に面する土地の評価額は、「1平方メートルあたりの価格×面積」で求められます。なお、土地の形などで、奥行価格補正などの補正が入る場合があります。
1-2-2.倍率方式
全ての土地に路線価が定められているのではありません。路線価が定められていない地域については、固定資産税評価額を基にして評価します。ただ、固定資産税評価額をそのまま使うのではなく、これに一定の倍率をかけた金額とされます。
倍率方式の場合は、土地ごとの形状を加味した価格で設定されているため、奥行価格補正などは必要ありません。
1-2-3.土地の評価額の計算方法
土地を所有している場合の評価額は、上記の路線価方式・倍率方式に基づいた金額となります。
建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権がある場合(借地借家法第2条に規定する借地権がある場合)は、借地権割合に応じて評価額が下がります。構築物の所有を目的とする賃借権は含まれません。(※)
また、貸家が建てられている自己所有の土地でも、評価額が下がります。
【土地を貸している場合(※)】
・路線価等とともに定められている借地権割合(30%から90%の範囲)分だけ減少
路線価で1億円の評価となる借地権割合が60%の土地を貸している場合、評価額は4,000万円となります。
【貸家が立っている土地(貸家建付地)の場合】
・貸家建付地の評価減割合=借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合
例えば、路線価で1億円の評価額となる土地の場合、借地権割合が70%で空室がないとすると、路線価から21パーセント少ない7,900万円と評価されます。
路線価、倍率方式での倍率、借地権割合は、国税庁が下記のホームページで公表しています。
https://www.rosenka.nta.go.jp/
2.不動産を活用した3つの相続税対策
上記のように、不動産の評価額が購入価格よりも大きく下がることを活用することで、相続税の節税が可能です。
具体的には、①自宅を利用した節税、②アパートやマンションの経営を通した節税、さらには特殊なパターンですが、③土地を売却して最終的に節税する方法が考えられます。それぞれについて詳しく解説していきます。
2-1.自宅を利用する節税
自宅の土地建物を所有していると、土地や家屋の評価方法によって、現金で保有しているよりも相続財産の評価額を下げることができます。
これに加えて「小規模宅地等の特例」も活用すれば、非常に大きなメリットが受けられます。
2-1-1.小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続開始の直前における被相続人の事業用・居住用宅地について、一定の面積までについて、相続税の課税対象から減額が受けられる制度です。
【居住用宅地での減額率】
330平方メートルまでの部分について80%減額
【特例が適用される主なパターン】(※)
- 被相続人の自宅の敷地等を配偶者が相続した場合
- 被相続人の自宅の敷地を同居していた親族が相続した場合
- 被相続人と生計を一にしていた親族が居住していた宅地をその親族が相続した場合
相続税評価額が5,000万円の宅地等を相続する場合、小規模宅地等の特例を適用することで、課税対象の金額を80%減額した1,000万円まで下げることができます。
※パターンごとの要件があります。また、他にも特例が適用されるケースがありますので、詳しくは税務署や専門家に確認するようにしてください。
2-1-2.相続税とは別の節税効果
相続税の節税ではありませんが、自宅を購入する際に活用できる節税方法があります。
自宅を購入するにあたり、住宅ローンを利用すれば「住宅ローン控除」が受けられ、所得税や住民税が減税できます。
婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、居住用不動産やその購入資金の贈与で最高2,000万円までが非課税となる特例があります。また、子や孫への住宅取得資金の贈与が非課税になる特例もあります。
相続税とは直接の関係はありませんが、詳細を確認してメリットが大きい場合には、検討する余地もあるでしょう。
2-2.アパート・マンションを経営する節税
2つ目の不動産を活用した相続税対策が「アパートやマンション経営をする方法」です。賃貸に出している場合は、ただ不動産を所有している場合よりも更に評価額が減額されることを活用したものです。
2-2-1.メリット
メリットの1つは、相続税の評価額が下げられることです。
土地や家屋の評価額を計算する際に、借地権割合や賃貸割合に応じて評価額が下がります。
人気のエリアでは、相続税評価額や公示価格よりも時価がかなり高くなっていることがあり、評価額の減少幅がとても大きくなるケースもあります。
さらに、「自宅を利用する節税」で紹介した、小規模宅地等の特例を活用することもできます。アパート・マンション経営をしている場合でも、「貸付事業用宅地等」に該当する宅地等について、200平方メートルまでの土地について相続税評価額を50%減額することができます。ただし、被相続人の事業を引き継ぎ、相続税の申告期限までその事業を営んでいること(事業承継要件)、その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること(保有継続要件)の2点を満たしている必要があります。
2つ目のメリットは、借入金を有効活用できることです。
資産運用のテクニックとして、借入金を利用することで、自己資金よりも大きな投資をして大きなリターンを得る方法があります。相続時に借入金が残っている場合は、債務の分だけ相続資産から控除されます。
5,000万円の自己資金に借入金5,000万円を加え、1億円の物件を手に入れたとします。借入金残高が2,000万円の時点で相続が発生し、小規模宅地等の特例なども活用した不動産の相続税評価額が3,000万円であれば、相続税の課税対象となる金額が1,000万円と計算されるのです。
2-2-2.デメリット
一方のデメリットとして一番にあげられるのが、「空室リスク」です。
空室がある状態で相続が開始すると、相続税評価額を計算する際の賃貸割合が下がります。そのため満室の場合よりも相続税が高くなってしまうリスクがあります。
さらに、相続税とは直接関係ありませんが、空室が発生すると、家賃収入が得られないにも関わらず、固定資産税や維持費などのランニングコストがかかり続けるため、アパート・マンション経営の利回りが落ちてしまいます。その他にも、自然災害や家賃滞納などの思わぬアクシデントで出費が発生し、利回りが落ちる可能性もあります。
相続税対策のために不動産経営を始めたにも関わらず、節税効果以上に損失が出てしまうのでは本末転倒です。ただ不動産を購入すればよいのではなく、投資自体もよい結果が得られるようにしたいところです。
もう1つのデメリットは、「税制改正」です。
将来の相続税法改正で、不動産経営の節税効果がゼロになることは考えにくいですが、今よりも少し小さくなってしまう可能性は否定できません。
中でも、節税効果が特に大きいと言われる「タワーマンション節税」は、近年の税制改正によって、節税効果が小さくなってしまいました。一部の節税効果が特に大きな方法については、税制改正のターゲットになりやすいとも言えます。
2-3.土地を売却する節税
3つ目の不動産を活用した相続税対策が、「土地を売却する」という方法です。
不動産を購入することで節税ができるため、土地を売却すると聞いて逆効果ではないかと感じる人もいるかと思います。この方法は、ただ土地を売却するだけではない節税方法です。
2-3-1.売却するケース
土地を売却して相続税の節税をするケースとして考えられるのは、次のような場合です。
- 自宅を売却して、より小規模宅地等の特例の効果が大きいところへ引越しする
- 放置されている土地を売却して、自宅や投資用マンションを購入する
2-3-1-1.自宅を売却する場合のメリット・デメリット
●自宅を売却する場合のメリット
引っ越すことで、土地を売却し、さらに有利な相続税の節税が得られます。
さらに、土地を売却した時の税制優遇を活用することもできます。マイホームを売却した場合は、所有期間に関係なく、譲渡所得から最高で3,000万円までの控除が受けられる特例があります。また、10年以上所有しているマイホームを売却した場合であれば、譲渡所得にかかる税率が特例で軽減されます(軽減税率の特例)。
これらの特例と併用はできませんが、この他に、マイホームを売却した時の譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられる特例(特定の居住用財産の買換えの特例)もあります。ただ、この特例は、前述の「3,000万円の特別控除の特例」・「軽減税率の特例」と併用することはできません。
●自宅を売却する場合のデメリット
自宅を売却する場合のデメリットは、引っ越しや登記など、さまざまな手続きが必要となることです。またメリットで挙げた特例が適用される条件が、併用できるものとできないものがあることなど、制度が複雑であるため、どうするのが最適かを判断するのが難しいこともデメリットと言えます。
2-3-1-2.放置されている土地を売却する場合のメリット・デメリット
●放置されている土地を売却する場合のメリット
空き家にしていたり、更地のままで放置していたりする土地を売却すれば、その不動産に関する税金などのコストや管理の手間が減ります。そして、売却して得たお金を元手に、節税効果がある別の不動産を購入することができます。
●放置されている土地を売却する場合のデメリット
一方のデメリットとして考えられるのは、土地を売却したいと考えても、利用価値が低いために、なかなか買い手が見つからない可能性があることです。また、希望通りの価格で売却できないこともあるでしょう。
売却して得たお金だけでは、別の不動産を購入する資金としては不十分で、さらに自己資金を投入したり銀行からお金を借りたりしなければならないこともあるでしょう。
まとめ
現金で保有しているよりも、自宅や賃貸マンションなどの不動産に変えている方が相続税を節税できます。相続税評価額を抑えるだけでなく、小規模宅地等の特例などの税制の優遇も活用することで、さらに相続税の節税が可能です。
ただ、不動産を購入して賃貸に出す場合では、相続税が下がればそれで良いのではなく、不動産投資としても成果を出さなければなりません。さらに、不動産に関する税制や特例は複雑で、節税方法によっては今後の改正の影響を考慮しておいた方がよい場合もあるでしょう。
効果は非常に大きいですが、失敗した時のダメージも大きくなるのが不動産による節税です。だからこそ専門家のアドバイスを受けるなどして、確実に節税効果が得られるように進めたいものです。