
相続を見据えた資産対策として、「資産組み換え」が注目されています。不動産を中心に資産を保有している場合、資産組み換えによって、相続人の負担軽減や相続税の節税が期待できます。
本記事では、資産組み換えの概要から、不動産を活用した相続対策、節税のポイント、各種特例、注意点までを整理して解説します。
1.資産組み換えについて確認しましょう
資産組み換えを相続対策として検討するにあたっては、基本的な考え方や具体的な方法への理解が欠かせません。資産組み換えの概要と、不動産を活用した代表的な方法について確認していきましょう。
1‐1.資産組み換えとは?
資産組み換えとは、現在保有している資産の種類や配分を見直すことで、収益性の向上や相続時の分割の利便、節税に繋げていくものです。相続対策に当たっては、不動産に焦点をあてるケースが多く、資産全体のバランス調整を目的として検討されます。
相続時、不動産は現金や金融資産と比べて分割しにくく、評価方法も複雑になりがちです。相続財産の中で不動産の比率が高い場合、相続税の納税や遺産分割の調整が課題となる場面も少なくありません。
資産組み換えは、こうした課題を整理し、相続しやすい資産構成を目指すための考え方です。
1‐2.資産組み換えの方法
資産組み換えにはいくつかの方法があり、目的や保有資産の状況によって適した手法は異なります。不動産を活用した代表的な方法を紹介します。
1‐2-1.不動産を売却する
利用予定のない土地や空き家などを売却し、現金化する方法です。生前に不動産を現金へ換えておくことで、相続時の分割が円滑になり、相続税の納税資金も確保しやすくなります。不動産よりも現金の方が相続分に応じた調整が行いやすく、遺産分割をめぐる調整負担の軽減にもつながります。
また、不動産を保有し続けることで発生する固定資産税や維持管理コスト、管理方法を巡る悩みを減らせる点も特徴です。
一方で、売却益には譲渡所得税がかかる場合があり、買い手が見つかるまでに一定の期間を要するケースもあります。売却を検討する際は、タイミングや税金面も含めた判断が求められます。
1‐2-2.不動産を購入する
現金や金融資産を不動産に組み換える方法も、相続対策のひとつです。相続税の計算は時価によるとされていますが、実務上、不動産の評価は建物については固定資産税評価額、土地については路線価等に基づいて算定することとなります。路線価については、地価公示の価額の約8割の水準であるため、現金を保有する場合と比べて評価額が抑えられる傾向があります。
したがって、不動産を取得することで相続財産全体の評価額を抑える方向での調整がしやすくなります。
ただし、節税効果の程度は物件や運用状況によって異なるため、広い視点での検討が欠かせません。
1-2-3.賃貸不動産に変更する
自用地や自宅を賃貸アパートや賃貸住宅として活用し、収益化を図る方法です。居住用として保有する場合と比べ、賃貸化によって相続税評価の算定方法が変わり、土地や建物の評価額が下がる可能性があります。その結果、相続税の負担軽減につながるケースも少なくありません。
一方で、賃貸経営には空室の発生や修繕費、管理費といった継続的なコストが伴います。
収益が安定しなければ期待した効果を得られない場合もあるため、周辺の賃貸需要や家賃水準を確認し、収支の見通しを立てた上で慎重に判断する必要があります。
2.資産組み換えのメリットを確認しましょう
資産組み換えは、単に資産の形を変えるだけでなく、相続にともなうさまざまな課題の軽減が期待できる手法です。相続対策として資産組み換えを行う主なメリットについて解説します。
2-1.相続人の負担を軽減できる
資産組み換えを行うことで、相続手続きや相続人にかかる心理的な負担を軽減できます。
不動産は現金や金融資産と比べて分割が難しく、相続人同士で意見が分かれやすい資産です。相続が発生すると、遺産分割協議に加え、共有となった不動産の管理や処分方法を巡って調整が必要になるケースも少なくありません。
資産組み換えによって不動産を売却して現金化したり、分割しやすい形へ整理したりすることで、相続時の対応はシンプルになります。現金であれば相続分に応じた配分が行いやすく、相続人間の不公平感やトラブルの回避にも繋がるでしょう。
さらに、利用していない土地や老朽化した建物を事前に整理しておけば、相続後に固定資産税や維持管理を引き継ぐ負担も抑えられます。
このように、資産組み換えは、相続人が抱える実務面・精神面の負担を総合的に軽減する手段といえます。
2-2.相続税の節税に繋がる
資産組み換えのメリットのひとつとして、相続税の節税が挙げられます。
相続税の計算では、現金や預金は額面通りに評価されます。一方で1-2-2でも触れたとおり、不動産は路線価や固定資産税評価額の倍率を基準として相続税評価額が算定されますので、一般の取引相場よりも低い評価額となる傾向があります。
こうした相続税評価額の算定方法の違いを活かし、現金や金融資産を不動産へ組み換えることで、相続財産全体の評価額を圧縮できる場合があります。また、不動産を賃貸用として活用すれば、土地や建物の評価に当たっては貸付を前提とした評価額にできるため、さらに評価額が下がるケースも珍しくありません。
ただし、節税効果の程度は、物件の内容や活用方法、小規模宅地等の特例などの適用の可否によっても左右されます。制度の仕組みを踏まえた上で、自身の状況に合った資産構成を検討しましょう。
2-3.相続税の納税資金を事前に準備できる
相続税の納税資金を計画的に準備できる点も、資産組み換えのメリットのひとつです。
相続税は原則として、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、現金で一括納付する必要があります。そのため、不動産の割合が高い資産構成では、納税時の資金確保が大きな課題となりがちです。
あらかじめ資産組み換えを行い、利用していない土地や収益性の低い不動産を売却して現金化しておけば、相続発生後の資金繰りに余裕を持たせやすくなります。納付期限に追われて不動産を急いで売却する事態も避けやすくなるでしょう。
3.資産組み換えに利用できる特例制度を確認しましょう
資産組み換えを検討する際には、税負担を軽減できる特例制度の存在も把握しておきましょう。条件に当てはまれば、相続税や譲渡所得税の負担を抑えられます。相続税の計算において一定の要件に当てはまる居住用宅地、事業用宅地、及び貸付事業用宅地に適用できる小規模宅地等の特例などの特例もありますが、以下では、資産組み換えに関連する主な譲渡所得の特例制度と、適用時のポイントについて整理します。
3-1.事業用資産の買換え特例
事業用資産の買換え特例は、事業に使用している一定の土地や建物などを売却し、一定の要件を満たす事業用資産に買い換えた場合、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられる制度です。
本特例を活用すれば、不動産を売却した時点で多額の税金を支払う必要がなくなり、事業の継続や資産組み換えを円滑に進めやすくなります。ただし、税金が免除されるわけではなく、あくまで課税のタイミングが先送りされる点には注意が必要です。
本特例の適用を受けた場合、譲渡価額や買換資産の取得価額に応じて、譲渡所得の計算方法が通常とは異なります。一定の条件を満たす場合には、譲渡価額の一部のみを収入金額として計算する仕組みが用いられます。
例えば、地方の事業用不動産等で、取得費400万円の事業用不動産を1,000万円で売却し、同額の事業用資産に買い換えたケースを考えてみましょう。この場合、譲渡があったものとみなされる金額は1,000万円ではなく、譲渡金額の20%相当である200万円と取り扱われます。他方で、新たに取得した資産の取得価額は1,000万円ではなく、課税が繰り延べられた譲渡資産の取得費80%相当の320万円を引き継ぐ形で扱われます。このように、売却時点での譲渡所得が圧縮され、税負担が将来へ繰り延べられます。
なお、対象となる資産の種類や売却・取得の期限、取得後に事業用として使用を開始する時期など、適用要件は細かく定められています。制度の仕組みを理解した上で、事前に条件を確認しながら慎重に判断することが重要です。
3-2.特定の居住用財産の買換えの特例
特定の居住用財産の買換えの特例は、自宅として使用している居住用財産を売却し、新たに居住用財産を取得した場合に、一定の要件を満たすことで譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられる制度です。
相続を見据えて住環境を見直す場合や、家族構成の変化に応じて自宅の規模や立地を変更する場面などで活用され、住み替えに伴う税負担を一時的に抑えられる点が特徴です。売却した自宅よりも高額な居住用財産に買い換える場合は、売却年分の譲渡所得に対する課税が実質的に生じないケースもあります。
ただし、税金が免除されるわけではなく、前述した事業用資産の買換えの特例と同様に売却した資産の取得費が引き継がれるため、あくまで課税を将来に先送りする仕組みです。なお、売却価額や買換え資産の金額関係に加え、居住期間や取得期限など、適用要件が細かく定められています。
3-3.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例
居住用財産を売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特別控除の特例があります。本特例を活用すれば、自宅の売却にともなう税負担を大幅に軽減でき、相続を見据えた資産整理や住み替えの場面で有効です。
例えば、子どもが建てた家に移り住む場合や、施設入居に伴って自宅を売却する場合に本特例を適用すると、売却益のうち3,000万円まで非課税となる可能性があります。
適用には居住期間や売却時期等の要件があり、他の特例との併用にも制限があります。また、建物の取り壊しの有無によっても売却までの期間要件が変わりますので、事前の確認が欠かせません。
また、本特例を利用するには確定申告が必須です。確定申告書には本特例を適用する旨、取得資産及び譲渡資産の価額その他必要事項を記載する必要があります。
3-4.交換の特例
交換の特例は、一定の条件を満たす不動産同士を交換した場合に、譲渡があったものとして扱われず、譲渡所得に対する課税が行われない制度です。資産を売却して買い換えるのではなく、不動産を直接交換する点が特徴です。
通常、不動産を交換した場合でも、税務上はそれぞれが不動産を譲渡したものとみなされ、譲渡所得税の対象となります。しかし、交換によって実質的な資産価値が大きく変わらず、金銭の授受も最小限に留まる場合には、「実質的な利益は生じていない」と考えられ、課税を行わない特例が認められているのです。
本特例を受けるためには、同種の固定資産である点や、一定期間以上保有している点、交換後も従前と同じ用途で使用する点など、複数の要件を満たす必要があります。交換する不動産の価額差がある場合でも、差額が一定範囲内(多い価額の20%以内)に収まっていることが求められます。
なお、不動産の時価を客観的に判断するのは容易ではなく、特に親族間での交換では、価額の妥当性が税務上問題となるケースも少なくありません。また、交換に伴い差額を金銭で精算する場合には、当該差額に相当する部分については譲渡所得税が課されますので、注意が必要です。
4.注意点を確認しましょう
資産組み換えは、相続対策や税金対策として有効な手段ですが、進め方によっては十分な効果が得られないケースもあります。資産組み換えを検討する際に注意すべきポイントを整理します。
4-1.不動産を活用する場合は事業計画を入念に行う
賃貸不動産への組み換えなど、不動産を活用する資産組み換えは、投資というよりも事業としての側面を持ちます。そのため、家賃収入の見込みだけで判断するのではなく、空室リスクや修繕費、管理費、税負担等を含めた総合的な判断が求められます。
相続対策や節税効果のみを重視して取得した結果、収益性が低く、資産全体のバランスを損なう恐れもあります。また、不動産は取得時や売却時に各種手数料や税金が発生するため、短期的な視点で判断すると、想定した効果が得られないケースも少なくありません。したがって、長期的な収支や出口戦略まで見据えた検証が欠かせません。
4-2.利回りだけでなくコストやリスクも検証する
不動産投資では利回りが判断基準として注目されがちですが、数値だけを根拠に意思決定すると、見落としが生じる恐れがあります。特に表面利回りは、実際の収支を正確に反映していないケースも少なくありません。
実際には、固定資産税や都市計画税、修繕費、管理委託費といった維持コストを考慮する必要があります。これらの支出は単年では小さく見えても、長期的に積み重なることで収益性に大きな影響を及ぼします。
加えて、空室の発生や賃貸需要の変化によって家賃水準が下落する可能性も否定できません。さらに、将来的に売却する場面では、想定した価格で処分できないリスクもあります。
税金や節税効果の有無だけで判断するのではなく、コストやリスクを含めて資産全体に与える影響を多角的に検証する姿勢が求められます。
4-3.築年数やニーズ、需要度等も判断材料にする
不動産の価値や収益性は、立地だけでなく、築年数や用途、周辺エリアの需要動向によって大きく左右されます。築年数が古い物件では、修繕や設備更新の負担が増えやすく、賃貸ニーズが低下する可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
また、特定の施設や産業に依存したエリアでは、周辺環境や市場の変化によって需要が大きく変動するリスクもあります。現在は安定して見える物件であっても、将来的に空室が増えたり、資産価値が下落したりするリスクも考慮しておきましょう。
5.まとめ
資産組み換えは、不動産を中心とした資産構成を見直すことで、相続人の負担軽減や相続税の節税、納税資金の準備に繋がる可能性がある相続対策のひとつです。対策に当たっては、短期的な節税効果だけに着目するのではなく、各種特例を上手に活用するとともに、中長期的な収益性やリスクなど総合的な検討を進めた上で、その時々で最適な不動産の売却や購入、賃貸への変更等の方法を選択することが特に大切です。
相続に向けた資産の見直しを進める際には、現状の資産バランスを整理した上で、必要に応じて専門家の助言を受けながら検討するとよいでしょう。資産組み換えを正しく理解し、無理のない相続対策に繋げていきましょう。
お困りのことがございましたら、ランドマーク税理士法人までお気軽にご相談ください。





























