「子供に生前贈与を行うべきか悩んでいるが、生前贈与で損をすることはあるのだろうか」「親が生前贈与について相談してきたが、受けたほうがよいのか判断がつかない」
相続税申告相談プラザのお客様の中には「生前贈与をすべきか判断できない」と悩まれている方が多くいらっしゃいます。世間的にも贈与税は税率が高いというイメージがあるからではないでしょうか。
しかしながら、相続税対策の代表格ともいえる生前贈与は、活用の仕方によって大きなメリットがあるのも事実です。
1)贈与に関する控除や特例を適用すれば、贈与税の大幅な節税が期待できる
2)生前贈与により財産総額が減れば、相続税の節税につながる
3)自分の望むタイミングで贈与ができる
4)贈与相手を自由に選ぶことができる
5)生きているうちに財産を分割できるため、相続トラブルの回避につながる
多くのメリットがある生前贈与ですが、その一方でやり方に誤りがあると税務署が生前贈与を認めず、多額の贈与税や相続税が課せられるリスクもあるので注意が必要です。
デメリットとメリットを比べたうえで、「本当に生前贈与をすべきか」の判断を行うためには専門的知識がなければ難しいでしょう。
こちらのページでは税理士の観点から、
◎ 生前贈与における5つのメリット
◎ 生前贈与のデメリットと注意点
◎ 生前贈与をすべき人・しない方がよい人の違い
◎ 生前贈与で気をつけるべきこと
を中心に、生前贈与を行うにあたり知っておきたいポイントをご説明いたします。
1.生前贈与における5つのメリット
生前贈与は相続税の軽減を期待して検討される方が多いかもしれませんが、それ以外にもさまざまなメリットがあります。
例えば、相続では相続税の総額を計算する際の法定相続人が民法で定まっているのに対して、生前贈与では誰にどれだけ贈与するのかも、どのタイミングで行うのかも贈与者が自由に設定することが可能です。また当然ながら、税金の対策としても効果が期待でき、贈与税の特例や控除の制度を活用すれば本来納めるべき相続税よりも少ない額や、場合によっては非課税で財産を贈与できます。
生前贈与を検討するうえで、まずはどのようなメリットが考えられるのかについて押さえておきましょう。
1-1.特例や控除の活用により贈与税の節税が期待できる
財産の承継を推進する目的として、贈与税に関するさまざまな特例や控除があることをご存じでしょうか。これらの特例等をうまく活用すれば、大幅な贈与税の軽減が可能となります。
また、贈与税には1年間に110万円の非課税枠の設定があるため、その仕組みを利用して長期的に贈与を行えば、相続で同じ額を引き継ぐよりも税額を抑えることが期待できるでしょう。
主な控除や特例については以下の通りです。
◎ 暦年贈与により、110万円までの非課税枠を活用
贈与税の課税方式の一つである暦年課税では、年間110万円までの基礎控除が設定されています。この仕組みを利用した贈与の方法が「暦年贈与」です。
この贈与方法は取り組みやすく、年度を変えれば複数回行うこともできるため、行なっている人も多い生前贈与の王道的なものといえるでしょう。
◎ 相続時精算課税制度で2,500万円まで非課税
「相続時精算課税」とは、60歳以上の父母もしくは祖父母が18歳以上の子・孫へ行なった贈与について2,500万円までは非課税にできる課税の制度です。
ただし相続時精算課税制度によって贈与された分については相続時に課税対象として相続税の計算をする必要があるので、場合によっては相続税が発生することも理解しておきましょう。
◎ 居住用不動産を配偶者間で贈与した場合、2,000万円まで控除可能
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、受贈者である配偶者が住むための不動産もしくは購入資金を贈与する場合、2,000万円まで非課税にできます。
◎ 子や孫への教育資金の一括贈与なら1,500万円まで非課税
教育資金を一括贈与する場合には、1,500万円までの非課税枠の利用が認められています。対象は父母や祖父母などの直系尊属から30歳未満の子や孫への贈与です。
ただし、制度のルールとして金融機関にて開設した子や孫名義の口座に入金し、引き出しの際には教育費の領収書の提出が必要となります。
現在のところ、令和5年3月31日までの贈与が適用可能です。
◎ 父母や祖父母からの住宅取得資金贈与は、一定の要件を満たすと1,000万円まで非課税
父母や祖父母などの直系尊属から住宅の新築、購入(中古を含む)、増改築費用の贈与を受ける場合、1,000万円まで(省エネ等住宅の場合、それ以外は500万円)は贈与税がかかりません。
現在のところ、令和5年12月31日までの贈与において対象となります。
*制度についてさらに詳しく知りたい方は、下記リンク先をご参照ください。
関連記事「相続税を節税するために知っておくと役立つ相続税対策13選【税理士監修】」
1-2.生前贈与により遺産を減らすことができる
生前贈与を行えば、当然ながら贈与した人の財産は減ることになります。財産が減るということは必然的に相続時の相続財産額も下がるため、相続税の軽減が期待できます。
相続税の納税額は、相続開始時の相続財産がベースです。生前贈与の特例や非課税枠を活用して生きているうちに次世代に引き継げれば、亡くなった時点での財産も少なくなり、相続人に課せられる税額も減らせます。
1-3.贈与相手を贈与する側が自由に選べる
生前贈与では贈与者が誰に財産を贈与するのかを自由に選択できます。
遺言書でも財産の分割について決めることができますが、内容によっては相続人と受遺者間での相続トラブルを引き起こす恐れがあります。また生前贈与であれば確実に財産が渡ったことを贈与者が確認できますし、贈与の時期や贈与先などの条件によっては遺留分算定に含まれない贈与となる可能性もあるでしょう。
1-4.贈与の時期を贈与者が自由に決められる
相続では財産の所有者が亡くなるまで財産の承継はできませんが、生前贈与は贈与する者と受け取る側の契約で行うので、好きなタイミングでの贈与が可能です。例えば、「進学のタイミングで学費の援助をしたい」「結婚して住宅を購入するので頭金を準備してあげたい」など、お金が必要な時期に、そのつど贈与を行っても問題ありません。
また将来的に値が上がるとされている不動産を価値の低いうちに贈与しておけば、相続税対策にもつながるでしょう。
1-5.相続トラブルの回避として
相続では仲の良かった相続人であっても、利害の不一致により関係がこじれてしまうことは多々あります。その結果、遺産分割協議がまとまらず、いつまでも財産が分割できない事態や、調停等を行わなければならなくなる可能性も考えられるでしょう。
遺言書を作成しておけばご自身で財産の分け方を決められますが、「死の間際に書けばいいや」「死んだ後のことを考えたくない」と作成に抵抗がある方も少なくありません。
生前贈与によって財産を分割しておけば、相続トラブルを未然に防ぐことも期待できるでしょう。
2.生前贈与のデメリットと注意点
上記の通り、生前贈与にはメリットがある一方、贈与の仕方によってはデメリットが発生する可能性があります。
それゆえ、メリット・デメリットの両方をよくよく理解していなければ、結果的に損をしてしまう恐れもありますので、以下の点に注意して行いましょう。
2-1.税務署に生前贈与を認められない可能性がある
当然のことながら贈与税の特例や控除を活用するには、それぞれの要件を満たしていなければいけません。
要件を満たしていないにも関わらず贈与を行うと、税務署に制度の利用が認められず、通常の贈与税が課されたり、相続時に相続税の対象となったりする恐れがあります。場合によっては延滞税や加算税など、ペナルティとしての税金を支払うことになりかねません。
そのようなことが起こらないためにも、贈与の際には以下のことに気を付けて行いましょう。
◎ 生前贈与の成立要件に気をつける
「贈与」は財産をあげる人ともらう人の双方の合意のもとで成り立つことから、あげる側だけでなくもらう側からの承諾も必要です。そしてもらった財産についてはもらう人が管理し、自由に使える状態になっていることが、贈与が成立しているかの判断ポイントになります。
例えば、親が子供名義の口座を作って、定期的にその口座に入金し「贈与をしていた」と思っていても、子供がその口座の存在を知らなかったり、親が管理していて自由に引き出せなかったりした場合、「贈与ではない」と税務署は判断するでしょう。
◎ 定期贈与とみなされないよう証拠を残す
暦年贈与の方法で相続税対策を行う場合、複数年にかけて贈与を行うのが通常となります。その際に注意すべきなのが、税務署に「定期贈与」とみなされないように証拠を残すことです。
一定額を複数年にかけて贈与し続けていると「本来、まとまった額を贈与するつもりであったが、節税のために分割して贈与しているのではないか」と税務署に指摘をうける可能性があります。定期贈与とみなされるとその分について贈与税が課税されてしまうため、対策を用意しておきましょう。
【定期贈与の対策方法】
- 贈与契約書を作成する
- 贈与の手段として銀行振り込みを活用する(現金手渡しを避ける)
2-2.不動産を贈与する際には、贈与税以外の税金に注意
特例や控除の活用により贈与税が非課税になったとしても、不動産を贈与すると贈与税以外の税金が課せられるため注意が必要です。
【不動産贈与時に発生する税金】
- 登録免許税(贈与の場合は固定資産税評価額の1000分の20)
- 不動産取得税(相続は対象外)
その他、登記関連の費用が発生するため、ある程度の費用は準備しておかなければいけません。
2-3.相続開始時点から遡り3年以内の贈与は相続財産に加算される
生前贈与を行ったとしても、亡くなる前3年以内に行われた贈与分については、相続財産と同様に相続税の計算に含む必要があります。つまり死期が迫っているとわかってから焦って生前贈与を進めても、相続税対策としては意味をなさない可能性があるのです。
ただし加算対象となる3年以内の贈与は、相続や遺贈等によって財産を取得した人(相続時精算課税制度の適用者含む)に対して行われた贈与分のみなので、対象者とならない人への贈与は有効的でしょう。
その他、以下の制度を利用して行われた贈与についても加算の対象外です。
- 直系尊属から住宅取得等資金の贈与
- 教育資金の一括贈与の特例(平成31年4月1日以降の提出分に係る管理残額を除く)
- 結婚・子育て資金の一括贈与の特例(管理残額を除く)
- 夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
2-4.相続税の計算が複雑になる
相続税は相続財産の総額を基準として計算しますが、その他にも相続時精算課税制度の利用により贈与された分や、相続開始時から遡って3年以内に行われた生前贈与分も相続財産に加算しなければなりません。
生前贈与を行っていた場合、通常の相続に比べ相続税の計算が複雑になるため、計算間違いや申告財産の見落とし等のリスクが高まるでしょう。
2-5.遺留分侵害額請求をされる恐れがある
きちんと行われた生前贈与であったとしても、他の相続人の遺留分を害する場合には、その分について請求される恐れがあります。
遺留分の算定に含まれる生前贈与は以下の通りです。
- 亡くなる前1年以内に行われた生前贈与(ただし遺留分権利者を害する目的で行われた贈与は1年以内に贈与された財産以外も対象となる)
- 受贈者が相続人であり、贈与が特別受益にあたる場合の生前贈与(相続開始から遡って10年間以内が対象)
生前贈与を検討する場合には、遺留分の侵害がないかも一緒に確認して行うことをおすすめします。
3.生前贈与をすべき人・しない方がよい人の違い
生前贈与のメリットやデメリットは理解したけれども、自分の場合はどうなのかの判断がつかない方もいらっしゃるのではないでしょうか。生前贈与の節税効果は大きいものの、必ずしもすべての方におすすめなわけではありません。税理士としても別の生前対策の方法を提示するケースもあります。
3-1.生前贈与に向いている人
3-1-1.贈与者の年齢が若い
暦年贈与は手軽に始められる半面、毎年110万円までしか贈与できないため、相続税額に影響するほどの贈与を行うにはある程度長い年月が必要です。
また相続開始前3年間に行われた贈与については相続税の計算に含まれるので、高齢の方が緊急に行うには不向きでしょう。
年齢的にも若く、健康面に問題のない方であれば複数年にわたっての贈与が可能なため、非課税枠を最大限活用できる見込みがあります。
3-1-2.複数人に財産を分配することを望む人
贈与税を支払う義務があるのは贈与を受ける側なので、贈与する側には税金は課せられません。そのため、1人あたりの非課税枠は1年間で110万円ですが、贈与先が複数あれば一気に財産を減らすことができます。
仮に孫7人に110万円の贈与を検討するならば、1年間に770万円を贈与できることになるのです。
「110万円の非課税枠だけでは相続税対策として先が長そう…」と思われがちですが、複数人への贈与を希望する場合にはとても有効的な手段といえるでしょう。
3-1-3.特定の人に対して財産をあげたい人
遺留分の問題は残るものの特定の人に財産を確実に渡したい人にとって、生前贈与は非常におすすめです。遺言書がない場合、相続財産は相続人の話し合いをもって分割することになりますが、生前贈与であれば特定の財産が確実に希望する人に渡ったのを見届けられます。
3-1-4.受贈者の望むタイミングで贈与したい人
相続はいつ発生するか誰にもわかりませんが、生前贈与であれば、本人が望むタイミングで贈与ができます。特に、子供や孫への教育費や住宅購入費などの援助が目的ならば、特例により非課税枠が適用できるのでおすすめです。
3-1-5.収益物件の贈与を検討している人
家賃収入が見込める不動産を所有している場合、相続時に引き継ぐよりも生前贈与したほうが良いケースがあります。
収益物件は所有し続ける限り、そこから得る収益が財産として蓄積されるため、その分も相続税の計算に加算されることになるからです。
早い段階で生前贈与をしておけば、贈与以降に発生する収益は、受贈者のものとなるので相続税に関係しません。
3-1-6.価値上昇の見込みがある財産を贈与したい人
相続税は基本的に相続開始時点の財産の評価額を基準として計算します。一方「相続時精算課税制度」によって贈与された財産については、相続税の計算に持ち戻しされるものの、評価額は贈与時のものが採用されます。
将来的には価値が上がりそうな財産であれば、あえて評価額の低いうちに贈与を行うことにより節税につながる可能性があるでしょう。
ただし、「相続時精算課税」によって贈与をおこなうと、相続税の「小規模宅地等の特例」は利用できなくなるため、相続税の軽減を目的とするならば生前贈与の見極めが重要です。
3-1-7.贈与者が事業の経営者の場合
会社経営者が所有する自社株や事業用に使っている不動産などは、相続により分散すると会社経営がままならなくなる恐れがあります。特に株式は会社の決定権を要するために非常に重要なものであり、確実に事業の後継者に承継できるよう準備しておかなければいけません。
株式の譲渡は贈与以外の方法もあるため、元気なうちに、誰にどの割合で株式を渡すのかを明確に定め、事業承継を進めておきましょう。
3-1-8.推定相続人同士の仲がよくない人
相続人同士の仲が良くない場合、話し合いでの遺産分割が困難であることが予想されます。そのような場合、あえて生前のうちに揉め事の発端となる財産を分けてしまうのも手です。
3-2.生前贈与よりも相続で財産を引き継いだ方がよい人
3-2-1.相続税の申告が不要な人
相続税には基礎控除額が設定されているため、基礎控除額を超えない限り、申告・納税とも不要です。
【相続税の基礎控除額の計算式】
基礎控除:3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
また配偶者については1億6,000万円以内もしくは法定相続分相当額以下であれば、相続税は課税されません(ただし申告は必要です)。
そもそも相続税が課税されるほどの遺産がなければ、相続税対策を目的とした生前贈与は必要ないため、生前贈与を行う際にはどの程度の財産を減らすべきか算段してから進めましょう。
3-2-2.生前贈与の控除や特例の要件に合致する受贈者(子どもや孫、配偶者)がいない人
贈与税の特例や控除には、受贈者の要件が定められています。主に要件にあたる人は直系卑属である子や孫、または配偶者です。
そもそも対象となる人がいない場合、生前贈与はあまりおすすめではありません。贈与税の税率は相続税の税率より高く設定されているため、暦年贈与の非課税枠の活用を除けば、相続時に引き継いだほうが税額は少なくなる可能性が高いからです。
4.生前贈与で気をつけるべきこと
生前贈与は活用次第で大幅な節税が期待でき、望む時期に子や孫世代に財産を引き継ぐことができる有効的手段です。前述の部分と重複する箇所もありますが、最後にもう一度生前贈与のポイントをまとめてお伝えします。
生前贈与の成立要件に注意する
税務署に「贈与」と認められなければ、余計な税金を払うことになりかねません。贈与者と受贈者が必ず双方同意のもとで贈与を行いましょう。
生前贈与は、贈与者が元気なうちから
贈与は法律上の契約にあたるため、贈与者が認知症等により判断能力が低下してしまうと行えません。元気なうちから長期的視点をもって行うことをおすすめします。
暦年贈与は必ず契約書を作成し、複数年行う際には金額や時期を一定にしない。
暦年贈与は税務署から定期贈与とみなされると、贈与の総額に対して贈与税が課税されてしまいます。そのようなことにならないよう、毎回贈与契約書を作成し、年度によって金額や時期を変えて「定期的な贈与」とみなされないよう対策しておきましょう。
銀行振り込みなどで贈与の証拠を残す
相続時に生前贈与の証拠がなければ、税務署は相続財産として相続税を加算する恐れがあります。銀行振り込みなどを活用して贈与の証拠は必ず残すようにしておきましょう。
名義預金は厳禁。必ず受贈者が口座の管理を行うこと
「名義預金」は税務署から相続の際に入金した人の財産とみなされて、相続税を課税される恐れが高いものです。
そのリスクを避けるためにも、そもそも名義預金にはせずに子や孫自身が管理している口座に入金しましょう。
上記の点に注意して適切な生前贈与を行えば、相続税や生前対策として非常に役に立ちます。ただし相続税の節税を重視するのであるならば、相続税と贈与税がそれぞれどの程度発生するのかを先にシミュレーションして取り組んだほうが良いので、ランドマーク税理士法人にご相談ください。
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