相続税は累進税率が採用されているため、資産が多ければ多いほど高い税率が適用され重い負担となる税金です。現金や土地など財産を多く保有している方は、相続時に数千万円単位の納税が求められることもあります。そんな中、あえて借金をすることで課税額を下げるという方法が注目されています。本記事では、借金を活用した相続税対策の仕組みと、そのメリット・注意点についてわかりやすく解説します。
1.借金による相続税対策を検討しましょう
相続税は、一定額以上の財産を持つ家庭にとって避けて通れない課題です。中でも現金や不動産などの資産が多い場合、相続人に重い税負担がのしかかることがあります。こうした相続税の負担を軽減する方法の一つが「借金を活用した相続税対策」です。
相続税の課税対象は「総資産から債務を差し引いた正味の財産」で決まるため、借金(債務)を上手に活用すれば課税額を抑えることが可能です。たとえば、現金を使って不動産をローン購入すれば、債務控除と不動産の評価減によるダブルの節税効果が期待できます。
早い段階から専門家と相談し、計画的な対策を講じることが重要です。
2. 借金が相続税対策になる理由
借金がなぜ相続税対策になるのかは、税の仕組みを理解すれば納得できます。ここでは「債務控除」と「不動産評価」の2つの視点から、借金の有効性を見ていきましょう。
2-1. 借金は「マイナスの財産」として差し引けるから
相続税は、被相続人のすべての財産から借金や未払い金などの債務を差し引いた「正味の遺産額」に課税されます。この債務を差し引く仕組みを「債務控除」と呼びます。たとえば、不動産や現金で1億円の資産があっても、借金が4,000万円あれば、実際の課税対象額は6,000万円となり、相続税が軽減されるのです。
この特性を活かし、相続税対策として意図的に借入を行い、その資金で資産を購入するという手法が取られることがあります。ただし、実体のない見せかけの借金や返済意思のない貸付契約などは、税務署に否認される可能性があります。節税対策としての借金活用は、必ず「実際の資産形成・運用を伴う正当なもの」であることが前提です。
2-2. 不動産の相続税評価
不動産の相続税評価は、実際の市場価格(実勢価格)ではなく、土地については、路線価または固定資産税評価額に評価倍率を乗じて評価し、建物については、固定資産税評価額で評価することになりますので、一般的に評価額は市場価格よりも2?3割ほど低く抑えられます。したがって、1億円で購入したマンションでも、評価額は7,000万円程度になるケースがあります。
また、賃貸用不動産であれば、貸家建付地の評価や借家権割合の控除ができるので相続税評価額が下がることによって相続税の節税効果が高まります。この仕組みを利用して、借入をして不動産を購入することで「債務控除」と「不動産評価の圧縮」という二重の節税が可能になります。ただし、空室リスクや管理負担など、実務面の検討も怠らないことが重要です。
なお、居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)については、固定資産税評価額と市場価格の乖離によっては区分所有補正率を乗じて評価する必要がありますので、専門家に相談しましょう。
3. どんな人が検討すべきか
借金を活用した相続税対策は、すべての家庭に適しているわけではありません。効果的に活用するためには、自身や家族の資産状況、将来の相続人の立場を踏まえた検討が必要です。ここでは、特にこの方法が有効と考えられる人の特徴を3つ紹介します。
3-1. 相続税がかかるほどの資産がある人
相続税はすべての家庭に課されるわけではなく、遺産の総額が「基礎控除額」を超えた場合に発生します。この基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、たとえば相続人が3人であれば4,800万円までが非課税となります。つまり、基礎控除額を超える遺産があると課税対象になり、特に資産総額が1億円を超えるような家庭では、相続税の負担が非常に重くなる可能性があります。
そのため、あらかじめ借金を利用した節税対策を講じることで、相続税を大幅に抑えることが可能になります。対策の有無によって、納税額に数百万円から数千万円単位の差が生じることもあるため、資産家ほど早期の準備が求められます。
3-2. 現金を多く持っている人
現金や預貯金は、相続時の残額がそのまま評価額として100%反映されます。つまり、1億円の現金を相続する場合は、そのまま1億円が課税対象となります。一方で、現金を不動産に変えると、相続税評価額は実勢価格よりも低くなり、さらに賃貸用不動産であれば貸家建付地としての評価減や要件を満たせば貸付事業用宅地の小規模宅地の特例が活用できる可能性もあるため、課税対象割合を大きく減らすことができます。
このように、現金資産は節税効果が最も得られにくい形の財産であるため、多額の現金を保有している人は、ローンを活用して資産の一部を不動産へと組み替えることを検討するとよいでしょう。他方で評価を下げながらも流動性を確保することも大切になりますので、次で説明するような将来の相続税負担を軽くする工夫が鍵となります。
3-3. 将来的に相続人の税負担を軽くしたいと考える人
相続税は現金で一括納付する必要があるため、相続人が手元に現金を持っていなければ、相続した不動産を売却したり、借金をしたりして納税資金を工面しなければならないケースもあります。特に相続財産の多くが不動産などの換金しづらい資産で構成されている場合、納税や遺産分割をめぐるトラブルにつながることもあります。
そこで、あらかじめ借入をして収益不動産を取得し、家賃収入を確保しておくことで、将来相続人が受け取ることができる現金収入の基盤を増やすことができます。これにより、相続人の生活や納税への備えが整い、相続後の混乱を防ぐことができます。家族に負担をかけたくないと考える人にとって、計画的な借金活用は1つの選択肢になるでしょう。
4. 借金による対策のメリット
借金を活用する相続税対策には、正しく実行すれば多くの利点があります。特に資産総額が高額で現金比率が高い場合には、非常に効果的な節税手段となり得ます。ここでは主な3つのメリットを詳しく解説します。
4-1. 相続財産の総額を下げられる
借金は「マイナスの財産」として相続税の計算から差し引くことができます。これにより、相続財産の総額が圧縮され、課税対象額が減少します。
例示すると以下のようになります。
- 総資産額(不動産や現金):1億円
- 借金(ローンなど):4000万円
- 課税対象額:6000万円
このように、借金を利用することで本来よりも低い課税対象額で相続税を算出することが可能となります。
4-2. 不動産を購入すれば節税効果を期待できる
現金は評価額が減少せず100%課税されますが、不動産は相続税評価額が市場価格よりも低くなりやすいため、節税効果が見込めます。特に収益物件(アパートやマンションなど)を購入すると、貸家建付地の評価減などによって評価額がさらに圧縮できます。
例:
- 実勢価格:1億円の収益マンション
- 相続税評価額:約7000万円
- 借金:4000万円 → 課税対象額は実質3000万円ほどに
このように、不動産購入と借金を組み合わせることで、評価額を大幅に下げることができ、結果として納税額を圧縮できます。
4-3. 借金は相続財産から控除できる
相続税の計算時には、残された借金を控除することができます。借金には住宅ローン(団体信用生命保険契約が結ばれているものなどは除かれます。)や事業用融資なども含まれます。
借金控除の例:
- 不動産取得にかかるローン:4000万円
- 事業に関する借入:1000万円
- 相続財産から控除可能:5000万円
このように、実質的な資産形成をしながら税金の負担を減らすことができる点は、非常に大きなメリットです。ただし、亡くなった方の確実な債務である必要があります。
なお、生前に購入したお墓の未払金など非課税財産に関する借金は控除することができません。
5. リスク・注意点
借金を活用した相続税対策には大きなメリットがある一方で、見落としてはいけないリスクや注意点も存在します。誤った使い方をすると節税どころか、税務署から否認されて追徴課税のリスクもあります。ここでは、よくある注意点を3つに分けて解説します。
5-1. 税務署は「節税目的のみの借入」を厳しく見る場合がある
借金が実質的に節税のためだけに行われたと判断されると、税務署に否認されるリスクがあります。相続税の負担を減らす目的で相続直前に不動産を購入し、著しく課税の公平を欠くと認定された場合、相続税評価額が否認され時価で課税されることがあります。
節税効果ばかりを追いかけて実体を伴わない対策を行うと、結果として損をする可能性があります。
5-2. 借金の利息に注意する
借金には当然ながら利息が発生します。節税のために多額の借入をしても、利息負担が想定以上に大きくなると、本来の資産が減少してしまう可能性があります。特に変動金利型のローンは、将来的な金利上昇リスクにも備える必要があります。
事前に確認すべきポイント:
- 金利のタイプ(固定・変動)
- 利息総額と返済総額
- 返済期間と月々の負担
節税効果と借入コストのバランスを取った判断が必要です。
5-3. 必ず借金が相続税対策に繋がるとは言えない
すべてのケースで借金による対策が成功するわけではありません。相続人の人数、財産の種類、税務署の判断、そして将来の資産価値の変動など、さまざまな要因が影響します。また、借金を残すこと自体が相続人にとって負担になる可能性もあります。
検討時のポイント:
- 節税額よりも利息や維持費の方が上回らないか
- 相続人が借金を返済できる状況にあるか
- 不動産の価値が将来的に下がるリスクがないか
必ず専門家に相談し、自身の状況に合った戦略を立てることが、リスクを抑えた効果的な相続対策につながります。
6. まとめ
借金を活用した相続税対策は、資産総額が高額となる方にとって有効な節税手段のひとつです。現金のまま資産を保有していた場合、そのままの金額で課税対象とされますが、借金をして不動産を購入することで、実勢価格よりも抑えらえた不動産評価額に圧縮でき、かつ、借入金を債務控除の対象にできるため、二重の節税効果が期待できます。
ただし、この対策はすべての人に万能というわけではありません。借金の金利負担や将来的な不動産価値の変動、税務署の判断など、多くのリスクも伴います。節税目的が明らかすぎる対策や、実体を伴わない借入は否認される可能性もあるため、注意が必要です。
自分や家族の資産状況、相続人の負担、将来の生活設計を総合的に考えたうえで、借金による相続税対策を行うかどうかを判断することが重要です。必要に応じて、税理士や不動産の専門家と連携しながら、慎重に対策を進めていきましょう。早めの準備が、将来の安心と節税成功への第一歩となります。
お困りごとがございましたらランドマーク税理士法人にご相談ください。