親や配偶者が亡くなったとき、「年金は相続財産に含まれるのか?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、公的年金は相続財産に含まれませんが、私的年金は原則として相続財産に含まれます。つまり、年金の種類によって相続の扱いや課税の有無が大きく異なるため、事前に正確な知識を持っておくことが重要です。
本記事では、公的年金と私的年金の相続における取り扱いの違いをはじめ、未支給年金や遺族年金の請求方法、課税対象となるケースまでをわかりやすく解説します。年金をめぐる相続の不安を解消し、手続きをスムーズに進めるための参考として、ぜひ最後までご覧ください。
1.年金は相続財産に含まれる?
年金と一口にいっても、公的年金と私的年金では、年金の相続における扱いが大きく異なります。相続財産に含まれるかどうかは、相続手続きや相続税の申告に直結する重要なポイントです。
例えば、公的年金の「未支給年金」は相続財産に含まれませんが、私的年金では契約内容によって財産として扱われ、相続税の課税対象になることもあります。公的年金・私的年金それぞれが相続財産に該当するかどうかを詳しく解説します。
1-1.公的年金は相続財産に含まれない
公的年金は原則として相続財産には含まれません。公的年金とは、国民年金や厚生年金など国の制度に基づく年金のことです。これらの受給権は本人の死亡で消滅する権利とされているため、死亡時点での所有財産には含まれません。
ただし、亡くなった方が生前に受け取るはずだった「未支給年金」については、遺族が請求できる制度があります。課税関係や手続きの詳細は後述します。
さらに、遺族基礎年金や遺族厚生年金、寡婦年金、死亡一時金などのいわゆる「遺族年金」も、生活保障を目的とした制度のため、相続財産には含まれません。
1-2.私的年金は相続財産に含まれる
私的年金は、原則として相続財産に含まれます。例えば、iDeCo(個人型確定拠出年金)、個人年金基金、企業年金などが該当します。これらは公的年金とは異なり、民間の契約や積み立てによって形成される個人の資産とみなされるためです。
また、私的年金の一部は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となる場合があります。名義上は遺族が直接受け取る場合でも課税されることがあるため、注意が必要です。具体的な課税ルールや制度ごとの違いについては、後述の章で詳しく解説します。
2.公的年金受給者の遺族が行う手続きを確認しましょう
公的年金を受給していた方が亡くなった場合、遺族は速やかに所定の手続きを行う必要があります。死亡の届け出を怠ると、年金の過払いが発生して返還を求められるケースがあるほか、未支給年金や遺族年金の請求にも支障をきたすおそれがあるためです。
遺族が行うべき基本的な3つの手続き「死亡届の提出」「未支給年金の請求」「遺族年金の請求」について、それぞれの流れや注意点を交えながら、順を追って解説します。
2-1.受給権者死亡届(報告書)を提出する
公的年金の受給者が亡くなった場合、速やかに「受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります。年金の支給を停止し、過払いを防ぐための重要な手続きです。
届出の期限は、原則として死亡日から14日以内です。通常は、遺族や同居していた親族などが届け出を行います。提出先は年金の種類や地域によって異なるため、事前に年金事務所や年金相談センターに確認すると安心です。
手続きには、次のような書類が必要です。
- 受給権者死亡届(報告書)
- 亡くなった方の年金証書
- 死亡の事実を確認できる書類(住民票除票、戸籍抄本、死亡診断書の写しなど)
ただし、日本年金機構にマイナンバーまたは住民票コードが正しく登録されている場合、受給権者死亡届の届出は原則として不要です。とはいえ、未登録や登録情報に不備があると提出が求められることもあるため、念のため確認しておくとよいでしょう。
2-2.未支給年金を請求する
公的年金の受給者が亡くなった場合、死亡月までに支給される予定だった年金(未支給年金)は、一定の条件を満たした遺族が請求できます。未支給年金は相続財産ではなく、遺族固有の権利として受け取れるものです。
未支給年金を請求できるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた3親等以内の親族に限られます。請求できる優先順位は法律で定められており、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他の3親等内親族の順です。先順位の人がいる場合、後順位の人は請求できません。
請求の手続きは、最寄りの年金事務所や年金相談センターで行えます。「未支給年金・未払い給付請求書」の提出にあたっては、次のような書類が必要です。
- 亡くなった方の年金証書
- 戸籍謄本など、続柄が確認できる書類
- 住民票除票など、生計同一関係が確認できる書類
- 受取口座の通帳またはキャッシュカードのコピー
※別世帯の場合は「生計同一関係に関する申立書」も必要です。
なお、未支給年金には5年の請求期限(時効)があります。期限を過ぎると受け取れなくなるため、なるべく早めに手続きを進めましょう。まずは年金事務所や相談センターに相談し、必要書類の確認から始めると安心です。
2-3.遺族年金を請求する
故人が公的年金の被保険者であった場合、一定の条件を満たす配偶者や子などの遺族は、遺族年金を受け取れます。遺族年金は、家計の支え手が亡くなった後に遺族の生活を保障するための制度で、主に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
遺族基礎年金は、主に国民年金に加入していた方の遺族で、18歳未満の子どもがいる配偶者などが対象です。一方、故人が厚生年金に加入していた場合は、遺族厚生年金が上乗せで支給されることがあります。受給できるかどうかは、故人の加入状況や遺族の環境によって異なるため、まずは確認が必要です。
遺族年金の請求期限は、原則として故人の死亡日の翌日から5年以内です。期限を過ぎると受給できなくなるため、受給資格があるかどうかをできるだけ早く調べ、必要書類を用意して請求手続きを行いましょう。
なお、請求手続きは最寄りの年金事務所や年金相談センターで受け付けています。請求には戸籍謄本や住民票、死亡診断書などが必要です。詳しい書類の種類や手続きの流れは、日本年金機構の公式ページをご確認ください。
3.私的年金はみなし相続財産として相続税の課税対象となる可能性
私的年金には、iDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金保険、企業年金など、さまざまな種類があります。これらの制度で積み立てられた資産は、本人の死亡後に家族が受け取ることができます。ただし、これらは相続財産に該当しなくても、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるケースがあるため注意が必要です。
「みなし相続財産」は、生命保険金や退職金、私的年金など、死亡を契機として遺族に支払われる財産のうち、法的には遺産に含まれないが課税対象となるものを指します。契約内容や受取人との関係性によって課税の有無が異なる点にも留意しなければなりません。
また、非課税枠や各種控除が適用されることもあるため、制度ごとの相続時の取り扱いについて事前に確認しておくことが重要です。代表的な私的年金制度ごとの課税の有無や扱いの違いについて解説していきます。
3-1. iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、公的年金に上乗せして老後資金を自分で積み立てる制度です。加入者が亡くなった場合、iDeCoの残高は、死亡一時金として一括で受け取るか、年金として分割で受け取るかのいずれかの形で、指定された受取人または法定相続人に支払われます。
死亡一時金として一括受取した場合は、みなし相続財産として相続税の課税対象となるため注意しましょう。ただし、生命保険金などと同様に一定額まで非課税となる枠が設けられています。
一方、年金として分割受取した場合は、雑所得として所得税の課税対象となります。税制上の違いを理解し、自身の状況に合った受取形態を選ぶことが重要です。
3-2.個人年金保険
個人年金保険は、民間の保険会社と契約して老後の生活資金として年金を受け取る仕組みです。被保険者が亡くなった場合、契約内容によっては遺族が年金や一時金を受け取れることがあります。
受取人が被保険者本人とは異なる場合(例:夫が契約者・被保険者で、妻が受取人)には、受け取った年金が「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる可能性があります。また、保険契約の内容によっては、所得税や贈与税の対象になることもあり、課税関係が複雑になりやすい点に注意が必要です。
例えば、確定年金や保証期間付の有期・終身年金では、契約期間内であれば被保険者の死亡後も年金が支給されるケースがあります。このような場合、未収分の年金は、将来もらえる年金の価値として評価され、相続税の対象となります。
なお、個人年金保険の未収年金が相続税の対象となるのは、被保険者が保険料を負担していた場合に限られます。被保険者以外の者が保険料を負担していた場合は、贈与税の課税対象となるケースもあるため注意が必要です。
個人年金保険に関わる税金の扱いは複雑なため、契約内容や課税の扱いについては加入している保険会社に必ず確認してください。
3-3.企業年金
企業年金は、企業が従業員の老後資金を補うために設けた私的年金制度で、厚生年金基金や確定給付企業年金、確定拠出年金(企業型DC)などに分類されます。
被保険者が亡くなると、遺族に対して残額や死亡給付金が支払われることがあり、内容によっては「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるケースもあります。
受給前に死亡した場合
企業年金は退職手当金とみなされ、相続税の対象となります。法定相続人1人あたり500万円の非課税枠が設けられているため、範囲を超える分に課税されます。
受給中に死亡した場合
遺族給付金として支給される残りの年金には、非課税枠が適用されず、全額が相続税の課税対象となります。さらに、在職中に亡くなった際に支給される遺族一時金も、死亡退職金と同様に相続税の対象です。
加えて、死亡月までの未支給年金は、遺族の一時所得として所得税・住民税の対象となるため、確定申告が必要です。
4.年金を相続する場合の注意点
年金に関する相続は、公的・私的年金の種類や手続きの有無によって、受給資格の消失や税金の課題など、思わぬトラブルを招くこともあります。特に注意したいのが、相続放棄後の年金の受け取りや、死亡届の遅れによる過払い金の問題です。
年金を相続・受給するうえで知っておきたい注意点を2つの観点から解説します。
4-1.相続放棄をしても未支給年金や遺族年金を受け取ることができる
「相続放棄をしたから、年金まで受け取れないのでは?」と不安になる方もいるかもしれません。しかし、未支給年金や遺族年金は、相続財産とは異なる「遺族の固有財産」とされており、相続放棄をしていても受け取れます。
未支給年金は、本来故人が受け取るはずだった年金を、相続人としてではなく、遺族固有の権利として請求するものです。同様に、遺族年金も遺族自身の生活保障を目的とした公的給付であり、相続放棄の有無に関わらず受給できます。
なお、未支給年金の請求には期限があるため、必要書類を早めに準備し、速やかに手続きを行うようにしましょう。
4-2.公的年金の相続手続きをしないと過払い年金の返還を求められる
年金受給者が亡くなったにもかかわらず、速やかに死亡の届け出を行わないと、故人に対して年金が継続して支給される「過払い」状態になります。このような場合、日本年金機構などの支給機関から遺族に対して、誤って支払われた分の返還を求められ、思わぬ負担となるおそれがあります。
こうした事態を避けるためにも、年金受給者が亡くなった後は、受給権者死亡届などの必要書類を、国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内を目安に提出しましょう。届出は相続人でなくても可能なため、家族や親族が協力して速やかに対応することが大切です。
なお、未支給年金や遺族年金の請求には時効があります。未支給年金は支払日の翌月初日から5年以内、遺族年金は死亡日の翌日から5年以内が請求期限となるため、こちらの手続きも忘れずに行いましょう。
5.まとめ
年金が相続財産に該当するかどうかは、制度の種類や支給の目的によって取り扱いが異なります。公的年金は基本的に相続財産に含まれませんが、私的年金は原則として相続の対象となり、相続税がかかるケースもあるため注意が必要です。
年金受給者が亡くなった場合には、受給権者死亡届の提出や未支給年金・遺族年金の請求など、遺族が行うべき手続きが多くあります。相続放棄をしていても受け取れる年金もあり、手続きを怠ると過払い金の返還義務が生じることもあるため、早めの対応が大切です。
ご自身やご家族の状況に応じて、税理士や年金事務所などの専門機関への相談も視野に入れましょう。
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