業種別!遺言執行者の7つの報酬相場と報酬額が決まる3つのパターン

遺言執行者への報酬額が決まらなくてお困りでしょうか?

実は、遺言執行人への報酬額は現時点で特に報酬規定がなく、おおよその相場があるだけです。しかも、その相場も弁護士・銀行・司法書士・税理士など依頼先ごとに様々で、わかりにくいのが現状です。

そこで今回は、大切な人に財産を継承するために書いた遺言を責任持って執行してくれる人に、いくら払うのが妥当なのかの判断基準になる、3つの視点を調べました。

  • 遺言執行者の報酬金額の6つの相場
  • 遺言執行者の報酬決定要素3パターン
  • 遺言執行の費用に関したよくあるQ&A

現在、相続手続き中の人、これから遺言状を書く予定の人にも、遺言執行人の報酬額を決める上での参考になると思います。

1.遺言執行者の報酬金額~ 6つの相場と特徴 ~

遺言執行者の報酬額は、遺言に定めがある時はその金額になります。記載がない場合は金額の規定はありませんが、世間相場のようなものはあります。

遺言執行人の報酬に関わる業種等は以下の6つになります。

  1. 弁護士
  2. 銀行
  3. 司法書士
  4. 税理士
  5. 一般人
  6. 家庭裁判所

しかし、全共通した規定や規定がなく報酬額の比較をしてもわかりにくいので、一律、財産総額が以下の場合でおおよその遺言執行者報酬金額の目安を出しましたのでご説明いたします。

  • 300万円
  • 3,000万円
  • 3億円

1-1.弁護士の報酬相場と特徴

弁護士に遺言執行を依頼した場合の報酬は弁護士によってさまざまですが、日本弁護士連合会が平成16年3月まで定めていた「報酬規程」を参考に金額の予想ができます。現在は廃止になっていますが、いまでもほとんどの弁護士が、この規定に近い報酬で遺言執行を引き受けています。報酬は、経済的利益額(マイナスの財産を差し引いた遺産の総額)によって報酬額が変わります。

弁護士に依頼するメリットは、万が一争いが起きた時でも、法的に紛争を解決する方法を熟知していることです。争いが起きた場合は、遺言執行人である弁護士とともに解決していくことになります。

上記の旧弁護士法に則って計算すると、300万、3,000万円、3億円での遺言執行報酬は以下になります。

1-2.銀行の報酬相場と特徴

銀行が遺言執行をするためには遺言信託というプランに申し込みをしていなければなりません。銀行により様々なプランがあり、どのプランでも以下の二種類の金額を支払うことになります。

  • プラン加入時に支払う金額(申し込み時点での遺言作成・目録リストなどがセットになっている)
  • 実際の相続発生時に支払う遺言執行報酬金額(最低報酬金額を超えた分から%が加算される)

銀行での遺言執行報酬は割高だという声がありますが、この理由は、銀行員には遺言執行などをする権限がないので、司法書士・税理士などに執行を業務委託するため、その外注費用が上乗せされるからです。

また、銀行自体には紛争を解決する能力がありませんので、相続争いの可能性がある場合は別途、弁護士にも依頼をすることになります。

上記プランに則って計算すると、300万、3,000万円、3億円での遺言執行報酬は以下になります。

※ 一律30万円プランで表作成。報酬率は左から300万・3,000万・3億。%は財産総額に対してです。表示金額は四捨五入をしてあります。取り扱い金額は各銀行とも10億以上まであります。各プランには遺言作成の費用が含まれています。

1-3.司法書士の報酬相場と特徴

司法書士業界には遺言執行報酬の規定がないため、各事務所ごとに設定がかなりバラバラです。サイトなどに掲載されている料金プランの目安は、その事務所が過去に取り扱ってきた業務規模と比例する部分もありますので、報酬に含まれている作業の詳細はメールや電話などで確認しましょう。

また、報酬額は紛争性の有無によっても違いが出る可能性があります。以下、ランダムに抽出した司法書士事務所が記載している、遺言執行報酬の目安です。全て遺産の積極財産(借金などを除いた部分)の総額に対しての%です。

上記に則って計算すると、300万、3000万円、3億円での遺言執行報酬は以下になります。司法書士事務所は各所、業界での基本報酬金額相場があり30万円程度が目安のようです。

1-4.税理士の報酬相場と特徴

税理士報酬には昔は最高限度額を定めた規定がありましたが、平成14年3月に規定が廃止され、設定が自由化されています。そのため、事務所により税理士報酬は大きく異なり、また相続財産や案件の難易度によっても変わりますので参考価格で検討することになります。

最低保証金額として取り扱い金額に関わらず、業界での相場は基本料金を30万円程度に設定しているところが多く、それ以外に財産総額に対して%の報酬が発生しています。

※他府県への出張は30,000円
上記に則って計算すると、300万、3,000万円、3億円での遺言執行報酬は以下になります。

*日当:公証役場等への出頭・出張1回につき関東近県の場合10,000円で計算しています。今回は1回の日当が発生しています。

1-5.一般人の報酬相場と特徴(簡素な場合20−30万円)

特に決まりはないので、紛争がなく簡素な執行で済んだ場合は一般的な士業の最低報酬に準じて20〜30万円程度を支払うのが通例のようです。

もちろん、遺言執行人が報酬額に不満な場合や、支払い報酬額が決定できない場合は、次項1−6のようにして家庭裁判所で報酬額を決めてもらうことができます。

1-6.家庭裁判所で決定する相場と特徴

遺言に報酬金額の指定がなくて遺言執行人の報酬がわからない、遺言執行人が相続人と協議した報酬額に対し不服がある場合は、家庭裁判所で民法に則った報酬額を決定してもらいます。

家庭裁判所は、相続財産の種類・状況・執行事務の内容・難易度、遺言執行者の地位と収入・遺言者との関係性など全ての背景と状況を考慮した上で報酬額を決めます。その具体的基準は裁判所の裁量に委ねられており、原則として決定された額の当否を争って不服申し立てをすることは許されません。(民法1018条1項)

2.遺言執行者の報酬が決まる3つのパターン

遺言執行者の報酬が決まる場合は、以下の3つのパターンになります。

1. 遺言に書かれている報酬額を承認した場合
2. 遺言に報酬額の記載がなく、相続人と協議の上決める場合
3. 協議で折り合いがつかず、家庭裁判所に決めてもらう場合

① 遺言に書かれている報酬額を承認した場合

遺言書に報酬額が記載されている場合、遺言執行者は記載通りの報酬を受け取ります。 士業の事務所は遺言書の記載内容に従うので、事務所が定めている報酬額が加算されることはありません。

例>下記のような遺言書の遺言執行人の欄で「前条の遺言執行者の報酬は、財産評価額の◯%とする」などが書かれている場合は、報酬額が決定している。

【遺言文例集(http://www7.plala.or.jp/sagae-souzoku/higonbunrei_006.htm)より抜粋】

遺言執行者が報酬金額に納得がいかない場合は、遺言執行者の就職を拒否することが出来ます。(金額の指定がある場合は、遺言執行者は指定されている報酬分しか受け取れません。)

② 遺言に報酬額の記載がなく、相続人と協議の上決める場合

遺言執行者が遺言で指定されていても、遺言執行者の報酬の記載がない場合があります。

報酬の記載がない場合、相続人全員と遺言執行者で協議をして報酬金額を決定します。

一般的に、財産の1〜2%の金額が報酬として妥当だとされています。協議者全員が納得しないと金額が決まらないため、相続が進まなくなることがあります。また、遺言に金額の記載があるものの、内容が承認されなかった場合も含まれます。業者に頼むケースは第1章で紹介した相場になります。

③ 協議で折り合いがつかず、家庭裁判所に決めてもらう場合

②の協議で、相続人と遺言執行者の間で折り合いがつかなかった場合、家庭裁判所へ報酬の決定を申し立てることができます。

民法第1080条:
家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

申立権者は遺言執行者です。家庭裁判所は相続の難しさや複雑さ、遺産の規模で報酬を決定します。この場合の複雑さとは、不動産が複数あり登記手続きに時間が取られることや、相続人の人数が多く財産の分配が難しい場合などを指します。

ある程度の規模の財産になると評価額の3%程度となるのですが、民法には遺産に対する明確な基準がないため、申し立てを行わないと遺言執行者の報酬がはっきりとしないのが現状です。

3.遺言執行の費用に関したよくあるQ&A

Q1. 遺言執行費用(経費)と報酬は別なの?

A. 遺言執行費用(経費)と報酬は別です。

支払う時には、全て合わせて支払いをします。支払い方法は遺言執行者と協議の上、前金または半金を支払うケースが多いようです。

遺言執行費用とは、おおよそ以下の5つを指しており、5番目の「遺言執行者報酬」は費用の中に含まれます。これ以外に遺言内で明示があるものはそれも含みます。(民法第1021条)

① 相続財産の管理費用
死後発生する遺産不動産の固定資産税等。財産内容によって変化する。

② 移転登記費用
不動産名義変更などの諸費用です。

1.登録免許税として不動産価格の0.4%
2.登記簿謄本の書換・抹消に不動産の数×1200円(2回分)

が必要になります。これ以外にも諸手続きの際に以下の書式が必要になる場合があり、相続人数分の費用がかかります。

  • 戸籍謄本→450円(1通あたりの費用)
  • 除籍・原戸籍→750円
  • 住 民 票→ 約300円
  • 評価証明書→約300円

③ 預貯金の解約に必要な費用
主に、銀行への手続き費用です。手続きは各行とゆうちょで違います。手続きに必要な書類は以下のものになります。戸籍謄本や印鑑証明書に関しては、発行からの期間や必要な範囲が異なる場合がありますので、手続き先の金融機関で確認が必要です。

  • 銀行が用意している預金名義書換依頼書や相続届
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本→450円
  • 相続人全員の戸籍謄本→450円(1通あたり)
  • 相続人全員の印鑑証明書→300円(1人あたり)
  • 被相続人の預金通帳、キャッシュカード、証書など
  • 遺産分割協議書(または相続人全員の同意書)や遺言書
    参考:各金融機関(ゆうちょ銀行・三菱UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行)の相続手続きページ

④ 相続財産目録の作成費用
相続される財産全てを記載したリストのようなもので、遺言執行者に作成義務があります。遺言執行者が弁護士事務所・税理士事務所・司法書士事務所などの場合は、費用が7〜10万円程度で発生します。作成様式の義務や法規はないので、エクセルなどで自作をしても問題はありません。

⑤ 遺言執行者の報酬
1、2章で説明した、遺言執行者報酬になります。

Q2. 遺言執行者の報酬は誰が、いつ支払うの?

A. 遺言執行に関した費用負担は民法で規定があります。

遺言の執行に関する費用は、相続財産から負担をすることになります。

遺言相続人は遺言執行の内容が完了してからでないと報酬を受け取れません。

また、途中で放棄した場合も、報酬は受け取れません。

(民法第648条2-3項 参照条文)(民法第1021条)

① 誰がどうやって払うの?
遺言の執行に関する費用は、相続財産から負担をすることになるので、相続財産から(遺留分は除く)支払います。
遺言執行者の報酬について遺言に記載があればそれに従います。
相続財産からまず執行者への報酬を差し引いて、残りを遺言どおりに取得させます。
遺言に報酬の定めがない場合は、家庭裁判所に遺言執行者報酬付与の審判申立てを行い、報酬決定してもらったうえで同様の手続きをします。

② いつ払うの?
遺言相続人は遺言執行の内容が完了してからでないと報酬を受け取れません。また、途中で放棄した場合も、報酬は受け取れません。(民法第648条2-3項 参照条文)

Q3. 遺言で指定されている執行人を変えたい!

A. 基本は、執行者が辞退をしない限りは遺言が優先されます。

(民法1019条1項)

ただし、明らかに受遺者の利益や意思と反することをしているなどの公平性を疑うような事情がある場合は、この利害に関係する人が家庭裁判所に意義申し立てをすることができます。

例えば、相続人の1人が遺言執行人であり、一部の相続人と共謀をして財産などを不公平に分配し、相続人たちに明らかな損失が出るような画策をしている場合などが挙げられます。家庭裁判所は受遺者からの申立てにより、遺言執行者の職務の執行を停止、又はその職務代行者を選任することができます。

(参考:家事事件手続法215条1項 「遺言執行者の解任の審判事件を本案とする保全処分」)

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。遺言執行者の報酬に関して以下の3つの角度からお話ししました。

  • 遺言執行者の報酬金額の6つの相場
  • 遺言執行者の報酬決定要素3パターン
  • 遺言執行の費用に関したよくあるQ&A

遺言に金額がある場合はそれに従い、ない場合は相続人と遺言執行者で協議、それでも決まらない場合は家庭裁判所で審議をして判決をしてもらうことがわかりました。

いったん家庭裁判所で判定された金額は不服があっても覆りません。

報酬相場に関しては、遺言執行人がプロなのか素人なのかという違いと、プロに頼んだ場合でも業種(弁護士・司法書士・銀行・税理士)によって金額がかなり変わることがわかりました。

相続人と遺言執行人が協議の末、全員が納得して相続が進むのがベストですが、うまく行かない場合、最終的に家庭裁判所に申し立てをすれば遺言執行人の金額は必ず決まります。

遺言を書く人も、相続を受ける人も、遺言執行者の報酬金額に頭を悩ませずに相続が着々と進むことのお手伝いになればと思います。

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