遺産分割協議のやり直しはできる?やり直せる条件や再協議の手順を解説

故人の遺産について相続人が複数いる場合は、「どの財産を誰が相続するのか」を遺産分割協議によって決めることになります
しかし、協議書の提出が済んだ後に新たな財産が見つかるなど、協議の前提が崩れるケースは少なくありません。

このような事態に対して泣き寝入りを防ぐには、遺産分割協議の基本手順だけでなく、協議のやり直しに関する規定も一緒に覚えておくことが大切です。
本記事では遺産分割協議のやり直しについて、やり直せる条件およびやり直しの手順を一通り解説していきますので、遺産相続を控えている方はぜひ参考にしてみてください。

1. 遺産分割協議はやり直すことができます

遺産分割協議の効力は、協議書の作成をもって法的に認められ、不動産の名義変更など様々な相続処理に影響します
実印や印鑑証明を伴う遺産分割協議書は、法的な拘束力が高く、協議書の内容を反故にすることは許されません。
しかし、新たな財産・遺言の発見など、協議段階で想定していなかった事態が生じた場合に、遺産分割協議をやり直すことは可能です。
ただし、やり直しの原因によっては時効が生じる場合もあります。

1-1.遺産分割に期限はありません

遺産分割そのものに期限はなく、極論、相続の発生が数十年前だとしても遺産分割協議は可能です。
同時に、遺産分割協議のやり直しにも期限はなく、当時の相続人がすでに亡くなっている場合は、当該故人の相続人が新たに協議へ参加できます。
ただし、配偶者控除など相続税関連の特例を利用するには、相続税の申告期限である相続発生後10か月以内に遺産分割協議書を作成する必要があります。

1-2.取消権には時効があります

遺産分割の取消権とは、協議の中で錯誤があった際に主張できる権利であり、極端なケースでは詐欺や脅迫などの違法行為も取消権の対象となります。
取消権を行使できるのは、遺産分割協議の完了日から20年以内、および取消事由の存在を知ってから5年以内です。
取消事由によっては協議無効確認の訴訟提起が必要になる場合もあるので、取消権の行使を検討する際はできるだけ弁護士等に相談してください。

2.やり直すための条件

まず、遺産分割協議が手続き上無効とされたときには、必ず協議をやり直さなければいけません
単純に新たな遺産や遺言が見つかったときも、相続人が一人でも合意を取り消せば、原則として協議はやり直しになります。
このようなやり直しの義務が一切ない場合には、相続人全員が同意したときのみ再協議が可能です。
以下で詳しく見ていきましょう。

2-1.相続人全員が同意した時

遺産分割協議は協議書への全員の署名・押印をもって完了するものであり、やり直す場合も全く同じプロセスが必要です。
未成年や認知症患者など、判断能力の不足が認められる人を除き、一人でも反対すると協議のやり直しはできません。
また、新たな遺産分割協議書を作るにあたって、古い協議書は必ず破棄しておきましょう。
そうでないと、不動産登記にあたって以前の分割内容が参照されるなど、同意後の相続手続きに支障が出ます。

2-2.遺産分割協議が無効・取り消しになる原因がある時

遺産分割協議が無効になる主な原因としては、協議書への署名・押印が全員分揃っていないケースが挙げられます。
未参加の相続人がいることが分かっていれば、その人を加えて協議をやり直せば済みますが、問題は相続人の存在自体を見落としているパターンです。
普通養子縁組で養子に出された子供や、被相続人に直系血族(祖父母から孫まで)がいない場合の異父・異母兄妹など、相続順位に関する規定を今一度確認してみましょう。

他には、未成年や認知症患者など、判断能力のない人が単独で協議に参加していた場合も協議書が無効になります
この場合は 成年後見開始の申し立て を行い、家庭裁判所が選定した後見人を新たに協議に加えるのが一般的です。
いずれにしても、遺産分割協議が無効・取り消しとなった場合、協議のやり直しは必ず行わなければいけません。

2-3.遺言が見つかった時

遺言とは相続に関する被相続人の意思表示であり、遺言書で指定された相続人は法定相続人よりも優先順位が高くなります
遺言の存在を相続人全員が知った上で、元々の協議書に対する合意を一人でも取り消す場合、「遺言を知っていれば合意しなかった」と認められる限りにおいて遺産分割協議のやり直しが必要となります。

また、非嫡出子の認知や第三者への遺贈など、遺言によって新たに相続人等が追加されている場合も協議をやり直さなければいけません。
遺言の存在を誰かに隠すなどした場合、発見者の相続資格が失われてしまうので注意してください。

2-4.他の新たな財産が見つかった時

遺産分割後に新たな財産が見つかるのも、協議やり直しの動機としてよくあるケースです。
この場合は原則として遺産分割協議を一からやり直す必要はなく、新たに見つかった財産についてだけ話し合っておけば問題ありません。

ただし、財産価値が大きい場合や隠匿があった場合は、相続人のいずれかが錯誤を主張すれば以前の遺産分割協議が無効になります。
また、遺産分割後にマイナスの財産(負債)が出てくると非常に厄介です。
というのも、相続放棄は相続発生から3か月以内かつ、その間一切の遺産を処分・消費していない状態でしか行えません。

つまり遺産分割後に出てきた負債は、相続せざるを得ないケースが多く、金額次第では協議が非常に難航すると予想されます。
大きな揉め事を避けるためにも、このような場合は一刻も早く弁護士等の法律専門家に相談してください。

2-5.手続きや話し合いが進まず、遺産分割できない時

相続人同士の不仲など、シンプルに話し合いが進まないことで遺産分割が滞っている場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるのが一般的です。
調停委員が間に立つため冷静な協議を行いやすく、協議に参加しない相続人がいる場合も裁判所の審判によって相続内容が確定します。

3.遺産分割協議をやり直す手順を確認しましょう

ここからは遺産分割協議のやり直しについて、話し合いから事後手続きまで一通りの流れを解説します。

3-1.相続人全員で話し合う

遺産分割協議は相続人全員の合意をもって成立するものであり、やり直しの際も各相続人に協議を呼び掛ける必要があります。
死亡している相続人がいる場合は、当該故人の相続人全員に連絡を取らなければいけません。
各人のスケジュール上、集まりの場を設けるのが難しい場合も、郵送でのやり取りやオンライン会議など工夫して話し合いを進めましょう。
話し合いに応じない相続人がいる場合の遺産分割調停については、 裁判所ホームページ にて確認してください。

3-2.遺産分割協議書を再度作成する

話し合いがまとまったら、新しい遺産分割協議書の作成に移ります。
まずは被相続人の名前や死亡日、相続人全員が協議内容に合意した旨を冒頭文として記載し、それから具体的な相続内容を並べていきましょう。
最後に相続人全員の氏名・住所を記載し、各人に実印を押してもらえば、協議書の作成は終了です。
作成した遺産分割協議書は印刷し、相続人全員が一人一通ずつ所持しておきましょう。

記載内容に少しでも誤りがあると作り直しになってしまいますから、土地の登記書や車の車検証など、正確な情報の記載に必要な書類をあらかじめ用意してから協議書作成に臨んでください。
なお、銀行預金の相続について記載する際、金額をあまり細かく書きすぎると、利息がつくことで記載内容が誤りとされてしまう恐れがあります。

3-3.贈与税や譲渡所得税等税金を計算する

遺産分割協議のやり直しによって新たに財産を取得した人に対しては、財産の移転に基づく税金が新たに発生します。
新たに発生する税金は原則として贈与税ですが、対価の支払いを伴う財産の取得(代償分割)に対しては譲渡所得税が課される場合があります。

また、不動産を取得する場合は登録免許税や不動産取得税が発生する点にも注意しましょう。
なお、遺産分割協議の無効や取り消しによって、義務的に協議をやりなおす場合、新たな税金は特に発生しません。

3-4.(所有者が変更の場合)不動産登記の名義を変更する

不動産の名義変更は、法務局に所有権移転登記を申請する形で行います。
申請にあたっては登記原因の証明情報として遺産分割協議書の用意が必要なほか、登録免許税を算出するための固定資産評価証明書も必要です。

以前の遺産分割協議によりすでに他の相続人が登記している場合は、先に「合意解除を原因とする所有権抹消登記」を済ませておきましょう。
現金の分割とは比べ物にならないほど手間がかかりますので、不動産の名義変更が必要な場合はぜひとも司法書士事務所を頼ってください。

4.遺産分割協議をやり直す場合の注意点

遺産分割協議のやり直しには費用も時間もかかるため、無効や取り消しに依らない任意のやり直しは慎重に検討すべきです。
以下で詳しく見ていきましょう。

4-1.税金が発生する

遺産分割協議のやり直しにおいては、主に以下の税金を課せられる場合があります。

  • 贈与税:年間受贈額から基礎控除110万円を引いた金額にかかる、10%~55%の累進課税
  • 譲渡所得税:譲渡代金から経費や各種控除を引いた金額にかかる、15% or 30%の分離課税
  • 不動産取得税:不動産価格×3~4%。相続では通常かからないが、任意再協議の場合には課税される
  • 登録免許税:不動産登記に対する課税。通常の相続では不動産価格の0.4%で、任意再協議では2%

4-1-1.贈与税、所得税

遺産分割協議のやり直しによって財産を無償で取得した場合は、贈与税がかかります。
遺産相続とは別件で受け取った資産も含めて、翌年の2月1日から3月15日(土日祝の場合は次の平日)の間に申告しなければいけません。
財産価額に応じて税率が上がる累進課税、という点は相続税と変わりませんが、肝心の税額は贈与税の方が高くなりがちです。

例えば4,000万円の遺産を取得した際、相続扱いなら基礎控除分を除いた1,000万円に10%の税率がかかります。
対して、贈与扱いの場合は基礎控除分を除いても3,890万円となり、そこにかかる税率は55%です。
こういう事情が、遺産分割協議の任意でのやり直しを慎重に検討すべき最大の理由といえます。

一方、財産を有償(代償分割)で取得した場合にかかる譲渡所得税は、通常の確定申告と同じ期間に申告が必要です。
譲渡所得税は個別の税率が適用される「分離課税」ですから、通常の所得税を計算する際に誤って譲渡所得を合算しないよう注意してください。

税率に関しては、譲渡した年の1月1において所持されていた期間が5年超の場合で15%、5年以下の場合で30%となっており、財産の価額は税率に影響しません。

4-1-2.不動産取得税、登録免許税

遺産分割協議のやり直し結果に基づいて土地・建物の相続登記もやり直す場合、不動産取得税と登録免許税が追加でかかります。
不動産取得税は通常の遺産分割において免除されるものですが、やり直しの場合は「相続」ではなく「贈与」「売買」に分類されるため、不動産価格に対して通常通り3~4%の税率が課せられます。
登録免許税に関しては通常の遺産分割においても課されますが、相続扱いと贈与・売買扱いとでは税率が変わってきます。
具体的には相続扱いの場合で0.4%、遺産分割のやり直し等で贈与・売買とみなされる場合は2%です。

4-2.時間もかかる

遺産分割のやり直しを、話し合い・書類作成・税額計算と一通り終えるまでには、順調に進んだとしても月単位の期間を要します。
無論、話し合いの滞りや書類作成の不備など、長期化するケースを挙げればキリがありません。

時効の存在も考えると、やはり遺産分割のやり直しは当人同士だけで解決しようとせず、弁護士や司法書士など専門家を間に挟むのがベストでしょう。

4-3.遺産分割協議がやり直せない場合もある

遺産分割のやり直しに必要な条件を満たしていたとしても、現実的に再分割が行えないケースは少なくありません。
例えば、土地の相続人がその土地を売却するなどし、遺産の権利が第三者に移っている場合、再協議によって返還を求めるのは不可能です。

5.遺産分割協議のやり直しのまとめ

以上、遺産分割協議のやり直しについて、必要な条件や協議の流れなどを解説しました。
分割協議に限らず、遺産相続について何か行き詰まる点があれば、ランドマーク税理士法人にご相談ください。

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