「親族が成年後見人になれるの?」「親族が成年後見人になるのは望ましいことだろうか…」と考えていませんか?
成年後見人は親族がなる事ができますが、近年後見人になった家族による不正問題などを受け、司法書士や弁護士、社会福祉士など専門職後見人の選任が大部分を占めています。
実際、最高裁判所事務総局家庭局の資料「成年後見関係事件の概況(平成30年1月~12月)」によると、成年後見人の約77%は親族以外という数字があります。
その一方、2019年3月に最高裁判所は、“認知症などで判断能力が十分ではない人の生活を支える成年後見制度をめぐり、後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」”との考え方を示すという大きな流れの変化がありました。
ここでは、親族後見人(=親族の成年後見人)について知っておくべき基礎知識から、親族後見人のメリットやデメリット、そしてデメリットの対策にもなり得る複数の後見人で役割分担を行う方法についても触れます。
この文章を読んで、親族が成年後見人になるケースについての理解を深め、ご自身が抱えている不安を解消する糸口が見つかれば幸いです。
1.親族後見人に関する基礎知識
ではまず、成年後見人になりたい親族の方が知っておくべき基礎知識を紹介していきます。
1-1.最高裁判所は「後見人には身近な親族の専任が望ましい」との考えを示している
2019年3月に最高裁判所は、認知症などで判断能力が十分ではない人の生活を支える成年後見制度をめぐり、「後見人には身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示しました。
「専門職の選任が増えていたこれまでの傾向が大きく変わることも考えられます。」
この変更の背景には、従来家庭裁判所が親族の不正を防ぐために専門職の選任を増やした事により、 親族の成年後見制度の利用が低迷しているという事情があると言われています。
(参照サイト:朝日新聞『成年後見人には「親族が望ましい」 最高裁、考え方示す』)
とは言っても、今回の声明には「後見人にふさわしい親族など身近な支援者がいる場合」という条件がついているので、必ずしも全てのケースで親族が成年後見人になるべきとは言えない事に注意してください。
1-2.親族後見人になれない代表的なケース
民法847条で規定されている、親族が成年後見人になれないケースは以下の通りです。
- 未成年者
- 法定代理人(成年後見人を含む)、もしくは保佐人・補助人を解任された人
- 破産者
- 被後見人(本人)に対して訴訟をしたことがある人やその家族など
- 行方不明である人
また親族であっても、成年後見人になるには家庭裁判所に申立てを行う必要がありますが、
家庭裁判所がその親族の選任を認めないケースがあります。
成年後見人への選任を認めず他の者を選任し、または後見監督人等を選任する可能性のある、代表的なケースをいくつか以下に示しておきます。
(1) 親族間に意見の対立がある場合
(2) 本人に賃料収入等の事業収入がある場合
(3) 本人の財産(資産)が多額の場合
(4) 本人の財産を運用することを考えている場合
(5) 本人の財産状況が不明確である場合
(6)後見人が自己またはその親族のために本人の財産を利用しようとしている場合
2.親族後見人のメリット
ここでは、親族が成年後見人になる場合のメリットをみていきます。いくつかのメリットが考えられるなかで、"安心感"と"経済的負担が少ないこと"は大きなメリットと言えます。
2-1.他人ではない安心感
認知症などで判断能力が衰えている高齢者が、司法書士や弁護士、社会福祉士など「本人がよく知らない人」に、自分の財産に関してあれこれ言われたら不安に思うでしょう。
一方、信頼できる親族に財産を管理してもらえるなら、本人は気分的に安心感があるといえます。
また親族であれば、判断力が衰える前の本人の性格や希望を知っている可能性が高く、お金の使い方や日常生活の介護についても、本人の意思を尊重してあげられます。
2-2. 経済的負担が少なくて済む
専門職後見人の場合は、家庭裁判所の判断により報酬(注)の支払いが必要になります。
一方、親族後見人でも報酬の請求はできますが、本人の財産を減らす結果になることに配慮して無報酬とすることも多いようです。
この場合は本人の経済的負担は少なくなります。
(注)成年後見人に対する報酬の基準は法律で決まっているわけではありませんが、標準的な報酬額の目安は以下の通りです。
基本報酬 月額2万円
ただし、預貯金及び有価証券の財産額が高額な場合は、月額5~6万円とされることもあります。
したがって、年間にすると専門職後見人に少なくとも24万円はしはらうことになります。
3.親族後見人のデメリット
ここでは、親族が成年後見人になる場合のデメリットをみていきます。
残念ながら親族であってもトラブルはあります。成年後見人は「法定代理人」であるので、義務を課されることになります。
3-1.着服や横領によるトラブル
親族間の関係が良くない場合は、親族(親・兄弟姉妹など)の誰かが成年後見人になることでトラブルや裁判に発展する可能性があります。
たとえば、長男夫婦が親と同居しており、その親が認知症と診断された際、長男が成年後見人(親族後見人)として選任されたとします。その長男が、遊興費として親の貯金を使い込んでしまった場合、それを許せない次男が裁判を起こせば、長男が後見人を解任されるだけでなく、家庭裁判所が選任する弁護士が新たな後見人となることもあります。そうなると、以後第三者が親の財産を管理していくことになり、別途報酬が発生してしまいます。
また悪意がなくても、親族後見人が本人のために財産を使い切ってしまう場合もあります。その状況を、財産分与される権利がある親族に納得してもらなければ、もめ事になるかもしれません。
3-2.家庭裁判所への提出物等が煩雑
これまで親と同居して、水道・ガス・電気代などの支払いや、親の預貯金の管理をしていた家族であっても、成年後見人になると「法定代理人」という立場に変わります。
人の財産を預かっているという立場なので、年間の収支予測をたてたり、年に1度は家庭裁判所に「財産目録の提出」や「業務報告」を行ったりする義務があります。その報告をしない、または不備があれば、調査が入る可能性もあり、最悪の場合は後見人を解任されることもあります。
4.成年後見人は複数人で役割分担も可能
成年後見人は複数人でもよいという決まり(民法859条の2)があります。「親族間トラブルをどうにもできない…」「1人で後見人としての事務がやりきれない…」などの悩みがある場合は、すでに成年後見人が選任されている場合でも、追加して後見人を選任できる(民法843条の3項)ので、家庭裁判所に申立てを行えます。
成年後見人が2人(親族後見人と専門職後見人)いる場合、1人は身上監護(介護保険や病院など、身の上の手続き)、もう1人は財産管理、のように役割りを分担できます。特に財産管理で専門的知識が必要な場合は、司法書士や弁護士などの専門職後見人を選任するのが有効です。
5.まとめ
この文章では、親族が成年後見人(親族後見人)になる場合のメリットやデメリット、対応策などを中心に紹介しました。
まず、親族は成年後見人に望ましいのかどうかについては、ご自身が置かれている状況によります。
家庭裁判所に成年後見人選任の申立てを行い、希望しない人が成年後見人に選任されても、不服申し立てできないということに注意しましょう。
そして、親族後見人のメリットについては、
- 他人ではない安心感
- 経済的負担が少なくて済む
の2点を挙げました。
また、親族後見人のデメリットについては、
- 着服や横領によるトラブル
- 家庭裁判所への提出物等が煩雑
という2点をみてきました。
デメリットに対する対応策として、成年後見人は複数人で役割分担できるということを紹介しました。解決できないトラブルや煩雑な書類がある場合、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家に任せるという方法もあります。
親族後見人に関する疑問や悩みが、少しでも解消されることを願っています。