
相続手続きの途中で相続人が亡くなってしまった場合、通常の相続とは異なる特有のルールが適用される「再転相続」という複雑な状況が発生します。一次相続の判断をする前に相続人が死亡すると、残された家族は2つの相続手続きを並行して進めなければならず、「誰が申告義務者なのか」「期限はいつまでか」といった判断に迷う方が少なくありません。
当記事では、再転相続の基本的な仕組みから、申告義務者の特定、納付期限の管理、登記手続きの流れまで、専門家の視点で詳しく解説します。適切な判断を行うために必要な知識をお伝えしていますので、再転相続でお悩みの方は参考にしてください。
1.再転相続の相続税申告は注意が必要です
相続人の死亡が重なる「再転相続(※1)」では、相続税の申告や納付の判断が一層複雑になります。「誰が申告義務者になるのか」「どのタイミングで税金が課されるのか」を誤ると、延滞税や加算税のリスクにも直結するため注意が必要です。
ここでは、制度の仕組みと数次相続との違いを踏まえ、申告時に特に注意すべきポイントを整理します。
(※1)「再転相続」という用語は民法上の明文ではなく、実務上・学説上の概念(通称)です。
1-1. 再転相続とは
再転相続とは、最初の相続(一次相続)が発生した際に、その相続人が相続するか放棄するかを決める前に亡くなってしまい、次の相続人(二次相続人)が一次相続に関する判断の権利まで引き継ぐ状態を指します。民法916条では「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続に関する権利はその者の相続人に帰属する」と定めています。
通常、相続人には相続開始を知ったときから3か月の熟慮期間が与えられますが、再転相続はこの期間内に相続するか放棄するかの判断をする前に相続が発生した状況のため、再転相続人(二次相続人)は一次相続と二次相続のそれぞれの相続について新たに熟慮期間が発生します。
例えば、祖父が亡くなった直後に相続するかを判断する前に父が死亡した場合、子は祖父の相続と父の相続について、それぞれ「自分が相続開始を知ったとき」から改めて3か月の熟慮期間を持つことができます。
1-2. 数次相続との違い
再転相続と数次相続(※2)は、どちらも相続人が亡くなることで発生しますが、相続人の死亡したタイミングによって扱いが大きく異なります。
| 項目 | 再転相続 | 数次相続 |
|---|---|---|
| 相続発生時期 | 一次相続人が承認・放棄前に死亡 | 遺産分割や登記前に相続人が死亡 |
| 状況 | 相続判断前の死亡 | 手続き未完了のまま次の相続発生 |
| 特徴 | 熟慮期間がリセットされ、選択権を承継 | 財産承継や書類処理が複雑化 |
| 論点 | 誰が意思表示・申告を行うか | 登記・分割・控除の継承可否 |
再転相続は、一次相続人が相続するか放棄するかの判断をする前に死亡した場合を指します。二次相続人は選択権そのものを引き継ぐため、熟慮期間がリセットされ、誰が意思表示や申告を行うかが重要な論点となります。
一方で、数次相続は遺産分割協議や相続登記といった手続きが完了する前に相続人が死亡した場合を指します。すでに相続する意思は確定しているため、財産の承継自体は進みますが、書類の処理や登記手続き、各種控除の適用可否が複雑になるという特徴があります。
両者は相続発生時期や手続きの進行状況によって区別されるため、税務上の対応や申告義務者の判断も変わります。混同すると適切な手続きができなくなるため、正確な理解が必要です。
(※2)「数次相続」は条文上の概念ではなく、相続登記実務で使用される通称となります。
2.再転相続の注意点
再転相続では、一次相続と二次相続がそれぞれ独立して課税対象として扱われます。「まとめて1件分」と誤解すると、控除漏れや期限超過といった税務トラブルにつながる恐れがあるため注意が必要です。
この章では、申告義務者の特定から控除の適用、申告期限の管理まで、実務で見落としやすい論点を解説します。
2-1. 相続税の申告義務者は誰になるか?
再転相続では、一次相続と二次相続それぞれに対して申告義務が発生します。
●一次相続分の申告義務
本来の相続人が亡くなったことで、再転相続人がその申告義務を引き継ぎ、代理で申告を行う立場になります。
●二次相続分の申告義務
再転相続人自身が被相続人(元の一次相続人)から財産を受け継ぐため、通常の相続人として申告義務者となります。
つまり再転相続人は、「一次相続の代理申告者」と「二次相続の当事者」という2つの役割を担うことになります。現行法ではまとめて1件と考えることはできない点に注意しておく必要があります。
ちなみに、被相続人の死亡日から10年以内に相続が連続して発生した場合には、前回の相続で納付した相続税の一部を今回の相続税額から差し引くことができる「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」と呼ばれる制度の利用が可能です。短期間に相続が重なると税負担が大きくなるため、二重課税を軽減する目的で設けられています。
申告義務者の特定を誤ると、期限超過や控除適用漏れにつながるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。
2-2. 相続税申告の流れ
再転相続における相続税申告は、一次相続と二次相続を明確に分けて進める必要があります。申告手続きの基本ステップは以下の通りです。
1.財産調査と事実確認
一次相続分の財産調査と評価を行い、戸籍や死亡日を確認して再転相続が発生した事実を証明します。
2.財産の整理と個別計算
一次相続分と二次相続分の財産を整理し、それぞれ個別に課税額を計算します。
3.控除の適用
相次相続控除や配偶者控除など該当する控除を適用します。
4.申告書の作成・提出
それぞれの申告書を作成して税務署に提出します。
申告期限は、一次相続・二次相続ともに相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内で、別々に管理する必要があります。一次相続と二次相続の申告期限を混同せず、時系列の整理が重要です。特に再転相続では「二重の開始時点」が存在するため慎重に判断しましょう。
2-3.納付期限
相続税の納付期限は、各相続について「被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内」と定められています。一次相続と二次相続はそれぞれ独立した手続きとなるため、納付期限も個別に管理しなければなりません。
例えば、祖父が1月1日に死亡し、一次相続人である父が3月1日に死亡した場合、祖父分の納付期限は11月1日、父分の納付期限は翌年1月1日となります。期限を混同すると延滞税が発生するため、明確に区別することが重要です。
実務上よくあるミスとして、最初の被相続人の死亡日を基準に全ての期限を計算してしまい、二次相続分の申告を失念するケースがあります。また、相次相続控除の適用漏れや相続放棄・承認手続きの遅延による加算税のリスクも見られます。
やむを得ない特別な事情がある場合は申告期限の延長申請も可能ですが、原則として認めない税務署の.見解が多いため、早めに専門家へ相談することが望ましいでしょう。
3.再転相続が発生したときの流れ
再転相続が起きると、放棄・承認・分割・登記・申告などの複数の手続きを、短期間で進める必要があります。判断を誤ったり手こずったりすると期限を過ぎてしまい、放棄が無効になるケースもあるため注意が必要です。
この章では、再転相続が発生したときに取るべき実務的なステップを、時系列でわかりやすく説明します。
3-1. 相続放棄をするか相続承認するかの判断はできるだけ早く
再転相続人は、一次相続と二次相続の両方について、それぞれ「承認」または「放棄」を選択する権利を持ちます。判断できる期間(熟慮期間)は相続開始を知ったときから原則3か月です。民法第916条および最高裁判決(令和元年8月9日)により、再転相続人の場合は「自己のために相続の開始があったこと、及び再転相続人の地位を承継したことを知った時」から起算されます。
一般的には二次相続の発生を知った時点が起算点となりますが、再転相続人であること自体を知らなかった場合は、知った時点から3か月が与えられます。ただし客観的にやむを得ない事情がある場合には、家庭裁判所へ申立てることで熟慮期間の延長も可能です。
債務超過などの懸念がある場合は、早期に財産と債務を調査し、速やかに放棄または承認の手続きを行うことが重要です。相続放棄をする際は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、申述書や戸籍謄本などの必要書類を提出します。(※3)
(※3)再転相続の場合は一次・二次それぞれで申述が必要となる場合があります。
3-2. 遺産分割協議書や申告書は原則、別に作成する
一次相続と二次相続は、法的にも税務上も異なる独立した手続きです。遺産分割協議書や相続税申告書を一体化して作成すると、相続分の誤認や登記事項の不備が生じやすくなります。
例えば、一次相続で受け取るべき財産と二次相続で受け取る財産を混同すると、誰がどの財産をどれだけ相続するのかが不明確になり、後々のトラブルや税務調査の対象となるリスクが高まります。また、登記申請の際にも、どの相続に基づく権利移転なのかを明示する必要があるため、書類が一体化していると手続きが複雑化します。
各相続ごとに独立した遺産分割協議書と相続税申告書を作成しておけば、財産の流れが明確になり、手続きの正確性も担保することが可能です。書類作成の手間は増えますが、将来的なトラブルを防ぐためにも原則として分けて作成することが推奨されます。
3-3. 登記手続きを省略できる場合がある
不動産登記については、中間者(一次相続人)の名義登記を省略し、最終相続人へ直接移転する「中間省略登記(※4)」が可能な場合があります。通常は祖父から父、父から子へと段階的に登記を行いますが、再転相続では父の名義を経由せずに祖父から子へ直接登記できるケースがあります。
ただし、中間省略登記が認められるのは、相続関係が明確で相続人全員の合意が取れており、争いがないときに限られます。遺言書が存在する場合や相続人間で意見が対立している場合には原則として認められません。
| 条件 | 省略登記の可否 |
|---|---|
|
一次相続人が登記前に死亡 |
可能 |
|
協議書で一貫した相続指定がある |
可能 |
|
遺言書の存在や相続争いがある |
不可 |
中間省略登記の可否は最終的に登記官の判断となるため、必ず司法書士などの専門家へ相談することが推奨されます。省略できれば登録免許税や手続きの負担を軽減できますが、要件を満たさない場合は通常の手続きが必要になります。
(※4)「中間省略登記」という語は、実務上「相続登記の省略(登記研究第495号)」と表現される場合もあります。


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