相続税対策に養子縁組を行うメリットとデメリットを解説

「相続税対策として養子縁組するのは本当に良いのかな?」とお調べ中ですね。

養子縁組での相続税対策はメリットが多いですが、知っておかなければならない注意点もあります。

場合によっては養子縁組が認められず、多額の追徴税を納めなければならないこともあるので要注意です。

今回は相続税対策に養子縁組を行うメリットや注意点、行うための方法をご紹介させていただきます。

養子縁組について正しく理解して、相続に向けて準備を進めていきましょう。

1.相続税対策で行われる養子縁組とは?

相続税対策にはいろいろな手段がありますが、養子縁組で税額を抑えようとする方法もあります。養子縁組というのは、血縁関係がない人とも親子関係を発生させる制度のことです。つまり、養子に迎え入れるための養子縁組の手続きを行えば、養子は実子と同じように法定相続人となります。したがって、養子も実子と同じように財産を相続できるのです。

相続が発生したとき、遺言書が残されていないケースなら法定相続人が全員集まって遺産の分け方をどうするのか話し合います。このことを遺産分割協議と言うので覚えておきましょう。養子縁組をしておけば、養子は遺産分割協議に参加できることになります。

ちなみに、法定相続人には相続順位が決められていて、順位が上の人から順番に法定相続人になっていきます。以下の表をご覧ください。

相続順位 法定相続人
第1順位 子供
第2順位
第3順位 兄弟姉妹

配偶者が表には書かれていませんが、配偶者は必ず法定相続人になります。

たとえば、相続が発生したとき、被相続人に妻、子供2人、両親、兄、弟の7人がいるケースを考えてみましょう。このとき、妻と子供2人が法定相続人になります。もしも第1順位である子供がいなければ、第2順位である両親が法定相続人になるというわけです。

養子縁組をして養子になれば、法的にも子供となります。したがって、相続が発生したときに第1順位として扱われることになるのです。

1-1.孫や子供の配偶者を養子にするケースが多い

養子縁組で相続税対策をする際に選ばれやすいのが、孫や子供の配偶者です。孫の養子は、孫養子とも呼ばれます。子供の配偶者というのは、息子の妻や娘の夫です。特によくあるケースが息子の妻が養子となる場合で、「親切に介護してくれたから財産を残そう」「家のことをしっかり頑張ってくれたからお礼をしよう」という思いで養子縁組が行われます。

また、被相続人に子供がいないときには、姪や甥を養子にして財産を引き継ごうとするケースも少なくありません。ちなみに、養子縁組をしてももともと存在している親子関係や婚姻関係に影響はありません。孫が祖母や祖父と養子縁組をしても、孫の実の両親との親子関係は存在し続けます。したがって、孫は実親が亡くなった場合でも法定相続人です。

2.養子縁組で相続税対策を行うメリット

養子縁組は、相続税対策になります。しかし、どのように相続税が節税できるのかあまり理解できていない方も多いのではないでしょうか。今回は、以下の4つのポイントに分けて、養子縁組での相続税対策について解説していきます。

  •  相続税の基礎控除額が上がる
  •  生命保険金の非課税枠が増える
  •  死亡退職金の非課税枠が増える
  •  相続人に適用される税率が下がる

これらのメリットに魅力を感じて、養子縁組について前向きに検討する人は少なくありません。それぞれのメリットについて、順番に見ていきましょう。

2-1.相続税の基礎控除額が上がる

1つ目のメリットは、相続税を計算する際の基礎控除額が上がることです。養子縁組を行って法定相続人を増やすことによって、相続税の基礎控除額が増えます。基礎控除額というのは、その金額までは税金がかからないという枠のことです。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算できます。つまり、法定相続人が1人増えれば、600万円の基礎控除額が増えるということです。

たとえば法定相続人が1人だけなら「3,000万円+600万円×1人=3,600万円」で、法定相続人が2人いるなら「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」となります。4,000万円を相続するとき、法定相続人が1人なら課税対象額は「4,000万円−3,600万円=400万円」です。一方で法定相続人が2人なら、基礎控除額の4,200万円のなかに4,000万円が収まるので、課税対象額は発生しません。

2-2.生命保険金の非課税枠が増える

2つ目のメリットは、相続が発生したときの生命保険金の非課税枠が増えることです。生命保険金にも、2−1の計算のときと同様に非課税枠があります。生命保険金の非課税枠は、「500万円×法定相続人の人数」で計算可能です。

たとえば法定相続人が1人だけなら「500万円×1人=500万円」で、法定相続人が2人いるなら「500万円×2人=1,000万円」となります。このように、法定相続人が増えることによって生命保険金についても節税になるのです。

2-3.死亡退職金の非課税枠が増える

3つ目のメリットは、死亡退職金の非課税枠が増えることです。死亡退職金も、生命保険金と同様の考え方で節税になります。死亡退職金についても「500万円×法定相続人の人数」の非課税枠が存在しています。したがって、法定相続人が増えれば節税効果があるのです。

2-4.相続人に適用される税率が下がる

4つ目のメリットは、それぞれの相続人たちに適用される相続税の税率が下がることです。まず、相続税の税率についてまとめると以下の表のようになります。

法定相続分に対応する取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% 0円
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

相続税額を計算する際には、遺産の金額から基礎控除額を差し引いた金額を法定相続分で分け、税率を掛けます。つまり、それぞれの相続人が実際に手に入れた相続財産に税率を掛けるわけではありません。したがって、法定相続人が多くなればなるほど、基礎控除額が増えるとともに、1人あたりの法定相続分が減少するために、計算の際に用いる税率が下がりやすくなります。それによって全体の相続税額も安くなるというわけです。

以上、養子縁組で相続税対策を行う際の4つのメリットについてご紹介させていただきました。養子縁組について前向きに考えていこうと思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、注意していただきたいポイントもありますので、解説します。

3.養子縁組で相続税対策を行う際の注意点

養子縁組で相続税対策を行う場合には、注意しておかなければならない点もあります。注意点を知らないまま養子縁組を行ってしまうと後悔するおそれもあるので、気をつけてください。今回ご紹介させていただく注意点は、以下の4つです。

  •  遺産分割協議で揉める可能性がある
  •  相続税額が2割加算されることがある
  •  相続税対策のための養子縁組は否認されることもある
  •  法定相続人が増える人数に制限がある

相続税対策に養子縁組を考えているようでしたら、注意点まで理解した上で実行するようにしてください。それぞれの注意点について、順番にご説明させていただきます。

3-1.遺産分割協議で揉める可能性がある

1つ目の注意点は、遺産分割協議で揉める可能性があるというものです。法定相続人が増えることによって、話し合いに参加する人数が増えて揉めやすくなります。関わる人数が増えれば増えるほど人間関係は複雑になるので、注意しておかなければなりません。

また、たとえば孫を養子にした場合に、「なんで自分は孫養子にしてもらえなかったんだ、不公平だ」と他の孫や孫の親が不満を抱くこともあります。そうなると、遺産分割協議もスムーズに進まなくなるでしょう。最悪の場合は、養子がそもそも無効であると訴えを起こされてしまうケースもあります。

3-2.相続税額が2割加算されることがある

2つ目の注意点は、せっかく養子縁組しても場合によっては相続税額が2割加算されることがあるというものです。たとえば、以下のような人は2割加算になるので注意してください。

  •  被相続人から相続で財産を手に入れた兄弟姉妹や甥、姪
  •  被相続人の孫養子で代襲相続人ではない人

なぜそのような制度があるのか、孫を養子にした場合で考えてみましょう。通常のケースなら親から子、子から孫という2段階で財産を孫に渡すことになりますが、孫を養子にすれば1段階だけで財産を渡せます。そうなると、相続税を納める回数も1回だけになります。しかし、平成15年度の税制改正によって、そういった場合には相続税額が2割加算となることに決まりました。

3-3.相続税対策のための養子縁組は否認されることもある

3つ目の注意点は、相続税対策のためだけの養子縁組だと判断されて否認されるケースがあるというものです。相続税を不当に減少させる目的で養子縁組を行ったと税務署に判断されると、養子縁組による法定相続人の増加が認められなくなります。

どのようなケースが不当だと判断されるのか、明確な基準はありません。しかし、被相続人が亡くなる直前に養子縁組を行った場合には、否認されやすいです。他にも「養子縁組をしたのにもかかわらず、養子に遺産が渡らない」というような基礎控除額や非課税枠を増やすためだけの養子縁組も否認されるおそれがあります。

養子縁組が否認されると節税に失敗するのはもちろんのこと、相続税の申告をやり直したり、追徴課税を納めたりといった事態にもなりかねません。養子縁組による節税については、専門家の意見を聞きながら検討したほうが良いでしょう。

3−4.法定相続人が増える人数には制限がある

4つ目の注意点は、相続税法上では法定相続人が増える人数には制限があることです。人数制限については、2つのパターンに分けて考えます。まず、実子がいる場合には1人の養子の分までが法定相続人として認められます。そして実子がいない場合には、2人の養子の分までが法定相続人として認められるのです。

相続税を節税したいからといって、3人や4人などたくさん養子を増やしても意味がないので気をつけなければなりません。

4.養子縁組を行う方法

養子縁組には、2種類の方法があります。普通養子縁組と特別養子縁組です。それぞれの養子縁組の特徴と、養子縁組を行うやり方について解説させていただきます。

4−1.普通養子縁組

1つ目の方法は、普通養子縁組です。普通養子縁組は、養子縁組届を市区町村の役所に提出することで行うことができます。ちなみに、未成年者を養子縁組するなら、直系卑属を養子にする場合を除き、家庭裁判所の許可審判書が必要です。

一般的に相続税対策で行われるのは、こちらの普通養子縁組の手続きでしょう。

4−2.特別養子縁組

2つ目の方法は、特別養子縁組です。特別養子縁組は、もともとの親との法的関係がなくなります。したがって、血縁上の親の遺産を相続することができなくなる方法です。

特別養子縁組は普通養子縁組よりも厳しい条件があり、相続税対策ではあまり行われることはありません。条件としては、実の父母が同意することや養子縁組する親が夫婦であり少なくとも一方が25歳以上であること、養子になる子供が15歳未満であることなどが挙げられます。

まとめ

今回は相続税対策として養子縁組を活用するメリットや注意点、行う方法について解説しました。養子縁組での相続税対策は節税についてメリットが多いです。特に相続税の基礎控除額が増えることは節税に大きく役に立ちます。しかし、知っておかなければ後悔しやすい注意点もありますのでお気をつけください。

特に、養子縁組が否認されて手続きの手間が増えたり、多額の追徴税を納めなければならなくなったりするケースは絶対に避けたいことだと思います。少しでも心配でしたら、専門家に相談するのがオススメです。

相続税の節税対策は、養子縁組だけではありません。専門家に相談することで、養子縁組を含めたいろいろな方法から、あなたにとって最適な節税対策を知ることができます。少しでも不安があれば、税理士に相談して安心して確実な相続税対策を進めていきましょう。

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