親からアパートを相続した場合、何をどの順番で進めればよいのか迷う方も多いでしょう。ローンや相続税、登記手続きなど、必要な対応を怠ると後々大きなトラブルに発展するリスクもあります。また、相続後にはアパート経営を続けるか、売却や建て替えを検討するなど、さまざまな選択肢が生まれます。
この記事では、アパートを相続したらまずすべきことから、その後の選択肢、注意すべきポイントまで、初心者にもわかりやすく徹底的に解説します。
1. 親からアパートを相続するときの流れ
親からアパートを相続する際には、いくつかの重要な手続きを順番に進める必要があります。特にローンの有無や税金の申告、登記の義務化など、事前に把握しておかないと後からトラブルになるリスクもあります。ここでは、アパートを相続するときに必ず押さえておきたい基本的な流れを詳しく解説していきます。
1-1. ローンの有無を確認
アパートを相続する際、最初に確認すべきはローンの有無です。アパートにローンが残っている場合、基本的には相続人がその返済義務を引き継ぐことになります。そのため、どの程度の残債があるか、金融機関に確認することが第一歩です。また、団体信用生命保険(団信)に加入している場合、ローン残高が保険で完済されることもあります。団信が適用されれば、大きな負担なくアパートを相続できる可能性もあります。もしローンが多額であり、相続による負担が大きすぎると判断した場合には、相続放棄を検討する選択肢もあります。早めに状況を把握し、方針を定めることが大切です。
1-2. 遺産分割方法を決める
次に、アパートの遺産分割方法を決める必要があります。相続人が複数いる場合、誰がアパートを相続するか、もしくは売却するかなど、明確に方針を定めなければなりません。共有名義にすると後々の管理や売却が難しくなるため、一人が単独で相続するか、売却して現金を分配する方法がよく選ばれます。仮に一人が相続する場合、他の相続人に対して代償金を支払うケースもあります。話し合いはスムーズに進まないこともあるため、なるべく専門家を交えて公平な形で進めることが望ましいでしょう。正式な合意が得られたら、遺産分割協議書を作成し、全員が署名押印することが必要です。
1-3. 準確定申告の手続き
被相続人(親)が亡くなった年の所得に対して、相続人が代わりに行うのが準確定申告です。通常の確定申告とは異なり、亡くなった日から4カ月以内に申告しなければなりません。ここでの申告内容には、アパートの賃貸収入や給与所得、年金収入などが含まれます。準確定申告を怠ると、後々の税務調査やペナルティの対象となることもあるため、忘れずに手続きしましょう。準確定申告の際には、相続人全員が連名で申告書を提出する必要があります。所得税の還付が受けられるケースもあるため、収入と支出を丁寧に整理しておくとよいでしょう。
1-4. 相続税を申告し、税金を納付
アパートを含む遺産の評価額が基礎控除を超える場合、相続税の申告と納付が必要になります。相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内と定められています。アパートの評価額は、路線価や固定資産税評価額などを基準に算出されるため、専門家に依頼して正確に評価してもらうと安心です。また、アパートの場合は「小規模宅地等の特例」が適用できる可能性があり、これを使えば評価額を大幅に下げ、相続税を軽減することも可能です。納税資金の確保が難しい場合には、延納や物納という制度もあるので、早めに準備を進めましょう。
1-5. 相続登記をする(2024年4月1日より相続登記が義務化に)
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。アパートを相続した場合も例外ではなく、一定期間内に登記手続きを済ませなければなりません。ここでは、相続登記の具体的な手順、必要な書類、登記を怠った場合のペナルティについて詳しく解説していきます。
1-5-1. 相続登記の手続き
アパートを相続したら、まずは相続登記の手続きを行う必要があります。相続登記とは、亡くなった親名義の不動産を正式に相続人の名義へ変更する手続きのことです。この手続きを行わないと、売却や担保設定ができず、資産の活用が大きく制限されてしまいます。
手続きの流れは、被相続人の戸籍収集と相続関係の確定、遺産分割協議書の作成、不動産の評価額確認、そして必要書類をまとめて法務局に提出するというステップで進みます。特に遺産分割協議書が未完成だと手続きが進まないため、相続人同士で早めに協議をまとめることが重要です。なお、専門家(司法書士)に依頼すれば手続きを代行してもらうことも可能です。
1-5-2. 必要な書類
相続登記に必要な書類は多岐にわたります。正確な書類をそろえることがスムーズな登記完了への近道です。
【相続登記に必要な主な書類】
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 住民票(相続人のもの)
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名押印入り)
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
これらの書類は本籍地の役所や、法務局、税務署など複数の窓口で取り寄せる必要があり、揃えるまでに時間がかかることもあるため、早めに動き出しましょう。
1-5-3. 相続登記をしなかった場合のペナルティとは?
2024年4月以降、相続登記は義務化され、正当な理由なく怠った場合には過料の対象となります。具体的には、相続が発生してから3年以内に登記を完了しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。単なる手続き忘れでも対象になるため、注意が必要です。
また、登記をしないまま放置すると、不動産の名義が曖昧なまま時間が経過し、相続人が増えたり所在不明になったりして、将来的に売却や活用が著しく困難になる恐れもあります。早期に登記を済ませることが、相続財産を守るためにも不可欠です。
1-6. アパートの入居者へ連絡を
アパートを相続した後は、入居者への連絡も忘れてはいけません。名義変更後は、オーナーが変更されたことを速やかに知らせる義務があります。連絡が遅れると、家賃の支払い先が不明になったり、契約違反とみなされるケースも考えられるため要注意です。
通知の際は、名義変更後の新オーナーの名前と連絡先を記載した書面を、全入居者に配布するのが一般的です。また、管理会社を通して通知する場合も、管理会社と十分に打ち合わせをして、スムーズに伝達できるようにしましょう。これにより、入居者との信頼関係を維持し、トラブルを未然に防ぐことができます。
2. もしアパートを相続したら?相続後の選択肢
アパートを相続した後は、その不動産をどのように活用するかを決める必要があります。経営を続けるのか、それとも売却や建て替えを検討するのか、選択肢はさまざまです。それぞれにメリット・デメリットがあり、相続人の状況やアパートの状態によって最適な判断は変わってきます。ここでは代表的な4つの選択肢について詳しく解説します。
2-1. アパート経営を続ける
相続したアパートの経営を続ける選択肢は、安定した家賃収入を得られる点が最大のメリットです。管理会社に運営を委託すれば、日常の管理業務や入居者対応の手間も軽減できます。ただし、建物の老朽化が進んでいる場合は、修繕費用が発生するリスクもあります。加えて、空室リスクや賃料下落リスクも考慮する必要があり、エリアの需要や建物の競争力を冷静に見極めることが大切です。経営を続ける場合は、確定申告による不動産所得の管理や、必要に応じた資産価値向上のためのリフォーム計画も検討しましょう。
2-2. 売却する
アパートを売却するという選択肢もあります。売却すれば、まとまった資金を得ることができるため、相続税の納税資金や他の資産形成に充てることが可能です。特に、築年数が経って老朽化している場合や、立地が人気エリアにある場合には高値売却が期待できます。ただし、売却には一定の期間がかかる場合もあり、固定資産税などの維持費は売れるまで負担しなければなりません。また、売却時には譲渡所得税が発生するため、手取り金額が減少する点にも注意が必要です。売却を検討する際は、不動産会社に査定を依頼し、適正価格を把握してから進めると安心です。
2-3. 解体してアパートを新築する
古くなったアパートを解体して新築する選択肢もあります。新築すれば建物の魅力が向上し、家賃水準を上げることができるほか、空室リスクの低下も期待できます。しかし、建て替えには多額の初期投資が必要なうえ、ローンを組む場合は収支計画をしっかり立てなければなりません。また、建築期間中は家賃収入が途絶えるため、資金繰りにも注意が必要です。将来的な資産価値を重視するなら、新築という選択は大きなメリットになりますが、リスクとリターンのバランスをよく考えることが重要です。資金計画や収支シミュレーションを専門家と一緒に立てることをおすすめします。
2-4. 解体してほかの土地活用を検討する
アパート経営を続けず、土地を別の形で活用する選択肢もあります。たとえば、駐車場経営や貸地、コンビニ用地への転用など、収益を得られる方法はさまざまです。
【アパート解体後の土地活用例】
- コインパーキング運営
- 事業用地として企業に貸し出し
- コンビニや店舗用地に賃貸
- 資材置き場やトランクルーム用地に活用
土地活用を選ぶ場合は、周辺ニーズや立地条件をしっかりリサーチし、収益性や維持管理の負担を踏まえてプランを立てましょう。初期費用が少ない活用法も多いため、リスクを抑えたい人にも向いています。
3. アパート経営を続けるかの判断ポイント
アパートを相続した後、そのまま経営を続けるかどうかを判断するポイントはいくつかあります。まず確認したいのは、アパートの築年数と建物の状態です。築古物件の場合、今後大規模な修繕が必要になるリスクが高く、修繕費用をどう負担するかも検討しなければなりません。
また、立地条件も重要な判断材料です。周辺に大学や駅、商業施設があるなど、入居ニーズが高いエリアなら、今後も安定した家賃収入が見込めます。しかし、人口減少が進んでいる地域や、すでに空室が目立つエリアであれば、経営を続けるメリットは小さくなります。
さらに、自分自身がオーナー業務にどれだけ関わるかも考えましょう。管理会社に委託する場合でも、定期的な判断や支出管理は必要です。管理に手間をかけたくない場合や、本業が忙しい場合は、売却や別の活用方法を検討したほうが良いケースもあります。
最終的には、建物の状態、立地、市場の動向、自身の経営意欲といった複数の要素を総合的に判断して、無理のない選択をすることが大切です。
4. アパートを相続する際の注意点
アパートを相続する際には、事前に知っておくべき重要な注意点がいくつかあります。手続きの遅れや共有名義によるトラブルは、相続後に大きな問題へと発展しかねません。例えば、アパートの相続の際には火災保険、取得時の借入金を併せて相続することが必要です。
このように特に注意が必要なポイントについて詳しく解説していきます。
4-1. 相続登記をしなければ売却できない
アパートを売却したい場合でも、相続登記を完了していなければ売却手続きを進めることはできません。不動産の売買では、登記簿上の所有者が誰かを明確にする必要があり、相続人への名義変更がされていないと、買主への引き渡しが不可能になるためです。仮に売却希望者が見つかったとしても、登記が済んでいないと契約まで至らないケースが多く、結果的に機会を逃してしまいます。また、登記の義務化によって、相続から一定期間を過ぎると過料が発生するリスクもあるため、速やかに手続きを進めることが求められます。なお、古い建物の場合、入居者がいると一般的な相場より安い値段になるケースがあります。
4-2. 一人がアパートを相続しても相続人全員にローン返済の義務がある
相続によってアパートを単独で取得した場合でも、住宅ローンなどの債務は他の相続人にも法的な負担義務が及ぶ可能性があります。これは、相続財産だけでなく、負債も相続対象に含まれるためです。特に、遺産分割協議書で明確に負債負担について定めていない場合、債権者から他の相続人にも請求が及ぶことがあり得ます。そのため、ローン残債がある場合は、遺産分割協議の段階で返済方法や負担者をきちんと取り決め、文書化しておくことが重要です。後々のトラブルを防ぐためにも、相続時には財産だけでなく負債についても十分な確認と話し合いを行うべきでしょう。法律用語で併存的債務引受(へいぞんてきさいむひきうけ)と言います。
4-3. 共有名義にして相続すると売却や解体が難しくなる
アパートを複数人で相続し共有名義とした場合、後から売却や解体を進めるのが非常に難しくなる点にも注意が必要です。共有名義では、原則として共有者全員の同意がなければ、不動産に関する重要な決定(売却・建替え・担保設定など)ができません。ひとりでも反対する共有者がいれば、売却交渉が頓挫する可能性があります。また、相続人がさらに相続を繰り返して代替わりすると、共有者の数が増えて意思統一が困難になり、事実上資産の流動性が失われてしまうリスクもあります。将来的な管理や売却のしやすさを考えるなら、なるべく単独名義にまとめることを視野に入れるべきです。
5. アパートを相続するメリット
アパートを相続することには、いくつかの大きなメリットがあります。まず、何といっても初期費用をかけずに収益物件を手に入れられる点が魅力です。通常、不動産を購入する場合は多額の資金が必要ですが、相続であれば購入資金を用意する必要がなく、すぐに家賃収入を得られる可能性があります。
5-1. 初期費用なく、収益物件を手に入れられる
アパートを相続すれば、初期費用をかけずに収益物件を取得できるという大きな利点があります。本来であれば何千万円、場合によっては億単位の購入資金が必要な不動産を、自己負担なしで所有できるため、資産形成の大きな足がかりになります。もちろん、維持管理にはコストがかかりますが、賃料収入が安定していれば、そのコストを十分にカバーできる可能性があります。今後、別の不動産投資へ広げる足掛かりとすることもできるでしょう。
5-2. 相続税を抑えることができる
アパートを相続すると、相続税を抑えられる可能性が高いというメリットもあります。不動産は現金と違って、課税評価額が実勢価格よりも低く評価されるため、結果として相続税負担が軽くなることが多いです。さらに、賃貸用不動産の場合、貸家建付地として評価額が減額され、小規模宅地等の特例を活用すれば、さらに最大50%の減額が認められるケースもあります。現金資産よりも不動産を相続するほうが、結果的に税金対策に有利に働くことがあるため、相続計画の一環としても有効な選択肢になります。
6. アパートを相続するデメリット
一方で、アパートを相続することにはデメリットも存在します。収益がマイナスの場合、自己資金で補?しなければならないリスクがあるのが代表的な問題です。空室が増えたり、家賃収入よりも修繕費や管理費が上回ったりすると、毎月赤字になるケースもあり得ます。その場合、相続人自身の資金で不足分を補わなければならず、想定外の経済的負担になることもあります。
6-1. 赤字の場合、自己資金から補填が必要
相続したアパートが赤字経営に陥った場合、自己資金から補填しなければならない点には特に注意が必要です。家賃収入だけでは維持費や税金、ローン返済をまかなえないとき、その不足分を自腹で支払う必要が出てきます。築年数が古い物件ほど、修繕費用や空室リスクが高くなるため、赤字のリスクも上がります。収益物件とはいえ、単に所有するだけで利益が出るとは限らないため、事前にしっかりと採算を見極めることが重要です。
6-2. ローンが残っていれば、返済が必要
相続したアパートにローンが残っている場合、その返済義務も相続人に引き継がれます。たとえ収益物件であっても、毎月のローン返済額が家賃収入を上回るような場合、資金繰りが厳しくなる可能性があります。団体信用生命保険(団信)が適用されるケースを除き、相続人はローンを完済するまで支払いを続ける義務を負うため、資金計画を立てたうえで相続を受け入れるかどうかを慎重に判断しなければなりません。ローン返済が難しい場合は、早期売却も視野に入れる必要があります。
まとめ
アパートを相続すると、手続きや判断すべきことが数多く発生します。ローンや相続税、相続登記といった基本的な手続きを適切に進めたうえで、アパート経営を続けるか、売却・土地活用を検討するかを慎重に選ぶことが重要です。また、相続にはメリットだけでなく、赤字リスクやローン返済負担といったデメリットも伴います。後悔のない相続にするためには、早い段階で現状を把握し、必要に応じて専門家に相談することが大切です。将来を見据えた柔軟な判断で、相続後の選択肢をしっかり選び取りましょう。
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