相続が発生した際、現金をどのように扱うべきかは多くの人が抱える悩みです。特に「相続税がいくらからかかるのか」「現金をそのまま相続するメリット・デメリットは何か」といった疑問を持つ方も多いでしょう。この記事では、相続における現金の取り扱いや相続税の基本、現金相続の長所と短所、不動産との比較、生前贈与の有効性などを詳しく解説していきます。この記事を読むことで、相続税と現金に関する正しい知識を身につけ、いざというときに冷静な判断ができるようになります。
1.現金は相続発生後は法定相続人の共有財産となります
被相続人が亡くなった瞬間から、その人の財産はすべて法定相続人全員の共有財産となります。現金についても例外ではなく、相続人が複数いる場合は遺産分割協議が終わるまで単独での使用は認められていません。
相続が開始すると、被相続人の現金や預金などの財産は法定相続人全員の共有物となります。これは民法第898条に基づくもので、「遺産は相続人の共有に属する」とされています。このため、相続人の1人が勝手に現金を引き出したり使ったりすることはできません。仮に使ってしまった場合、他の相続人との間で損害賠償問題に発展する可能性もあります。
また、銀行口座がある場合には、金融機関に死亡届を提出した時点で口座が凍結されます。これは、不正な引き出しを防ぐための措置です。遺産分割協議が成立し、正式な手続きが終わるまでは出金はできません。
2.相続税はいくらからかかるのか確認しましょう
相続税は、相続財産が一定額を超えた場合に課される税金です。しかし、その「一定額」がどれくらいなのか、またどのように計算されるのかは意外と知られていません。この章では、相続税がかかる基準や控除の仕組み、税率の詳細までをわかりやすく説明します。現金を含む相続財産の正しい評価や、節税のポイントも押さえておくことが大切です。
2-1.基礎控除とは何か
相続税が課税されるかどうかの分かれ目となるのが「基礎控除」です。基礎控除とは、一定額までは相続税がかからない非課税枠のことを指します。
基礎控除の計算式は以下の通りです。
項目 | 金額 |
---|---|
固定部分 | 3,000万円 |
法定相続人の人数分 | 600万円 × 法定相続人の人数 |
計算式 | 3,000万円 + 600万円 × 相続人の数 |
たとえば、法定相続人が3人いれば、基礎控除は3,000万円+600万円×3=4,800万円になります。この金額以下であれば、相続税は発生しません。
2-2.総財産の求め方
相続税の課税対象となるのは、「純財産額」です。つまり、単に財産の総額ではなく、債務などを差し引いた正味の財産額で判断されます。
総財産の計算方法
- プラスの財産:現金、預貯金、不動産、有価証券、車、宝石など
- マイナスの財産:借金、未払金、葬式費用など
- 純財産の算出式:プラスの財産 ? マイナスの財産
たとえば、現金5,000万円と借入金500万円があった場合、純財産は4,500万円となります。この額が基礎控除以下であれば相続税は不要ですが、超えている場合は課税対象となります。
2-3.相続税の税率、控除額
相続税は累進課税方式で、財産の金額に応じて税率が段階的に上がる仕組みになっています。以下が主な税率と控除額の一覧です。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~1,000万円 | 10% | 0円 |
~3,000万円 | 15% | 50万円 |
~5,000万円 | 20% | 200万円 |
~1億円 | 30% | 700万円 |
~2億円 | 40% | 1,700万円 |
~3億円 | 45% | 2,700万円 |
~6億円 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
仮に、課税価格が6,000万円であれば、税率は30%で控除額700万円。よって、税額は6,000万円×30%?700万円=1,100万円になります。
このように、相続税の金額は財産の規模や分割の仕方によって大きく異なります。正確な計算をするには、税理士などの専門家に相談するのが望ましいです。
3.現金を相続するメリット
相続財産として現金を受け取ることには、他の資産にはない特有のメリットがあります。たとえば、分割が容易であることや、手間をかけずにすぐ使えることなどが挙げられます。特に相続手続きや相続税の納税においては、現金の柔軟性が大きな強みとなるでしょう。この章では、現金相続の実務的な利点について具体的に解説します。
3-1.法定相続人で分割しやすい
現金は不動産や株式と違い、物理的に分割可能である点が最大のメリットです。法定相続人が複数いる場合でも、現金であれば割合に応じて簡単に分配できます。
たとえば、相続財産に不動産しか含まれていない場合は、売却して現金化するか、誰かが単独で相続して他の相続人に代償金を支払う必要があります。一方で現金なら、トラブルのリスクが格段に低く、円満な分割が実現しやすくなります。
また、相続人間の関係性が複雑で、特定の資産に執着がない場合でも、現金はスムーズな話し合いを促進してくれます。「揉めない相続」を実現したい場合、現金の比重を高めておくのは有効な戦略と言えるでしょう。
3-2.売却等の手間が不要
現金はそのままの形で使用できるため、換金や名義変更といった手続きが一切不要です。これは不動産や株式、車などのように、手続きが煩雑な資産とは大きな違いです。
特に以下のようなケースでは、現金の利便性が際立ちます。
- 相続税の納付:相続税は基本的に現金一括払いが原則であり、納付期限も10か月と短いため、現金が手元にあることで迅速な対応が可能です。
- 葬儀費用や初期費用の支払い:被相続人の死後すぐに必要になるこれらの出費にも現金は柔軟に対応できます。
- 遺産分割後の生活費:生活資金としてすぐに使えるのは、受け取った相続人にとって大きな安心材料となります。
このように、現金は「そのまま使える」という点で圧倒的に実用性が高い資産です。特に相続発生後すぐに必要な費用の支払いにおいて、現金の存在は大きな意味を持ちます。
4.現金を相続するデメリット
現金の相続にはメリットが多い一方で、注意すべきデメリットも存在します。特に、現金は評価額が下がる要素がなく、税金面での負担が重くなりやすい点や、申告漏れのリスクが高い点などが挙げられます。この章では、現金相続の落とし穴や対策のポイントについて詳しく解説していきます。
4-1.減額要素がない
現金の最大の弱点は、評価額がそのまま相続税の対象となる点です。不動産や株式など他の資産は、相場や路線価によって実勢価格よりも低く評価されることがありますが、現金の場合は「1万円は1万円」として評価されます。
このため、相続財産の中に現金が多く含まれていると、課税額が高くなりがちです。たとえば、同じ5,000万円でも不動産であれば評価額が6~7割になることがありますが、現金は満額そのまま計上されます。
課税額を軽減できる工夫が少ないため、結果的に高い相続税を支払うことになる可能性があります。資産構成を見直すことや、生前贈与を活用するなどの対策が必要になるでしょう。
4-2.タンス預金など申告漏れが起きやすい
現金の中でも特に問題になるのが「タンス預金」や名義預金です。これは、銀行に預けずに自宅などで保管していた現金や、形式的には他人の名義だが実質的には被相続人のものである預金を指します。
これらは以下のようなリスクを伴います。
- 申告漏れのリスク:現金は証拠が残りにくいため、うっかり申告し忘れることがあります。しかし、税務署は現金の流れを厳しくチェックしており、見つかった場合は追徴課税や延滞税の対象になります。
- 税務調査の対象になりやすい:特に高齢の被相続人のケースでは、生活費に見合わない現金の出入りがあれば、名義預金やタンス預金を疑われることがあります。
現金を安全に相続するためには、きちんとした記録や管理を日頃から行うことが大切です。被相続人が生前に資産の整理をしておくことで、相続人のリスクを大きく減らすことができます。
5.現金と不動産では相続税にどのくらい差があるのか
同じ金額の資産でも、現金と不動産では相続税の負担額に大きな差が出ることがあります。これは評価方法の違いや、適用される特例の有無によるものです。
まず大前提として、現金は額面通りに評価されるのに対し、不動産は「相続税評価額」で評価されます。これは実際の市場価格よりも低く設定されることが多く、結果的に課税対象額が少なくなるのです。
資産の種類 | 評価方法 | 評価額の目安 |
---|---|---|
現金 | 額面そのまま | 100% |
不動産(自宅) | 路線価や固定資産税評価額 | 実勢価格の60~80%程度 |
不動産(貸家) | 借地権割合や貸家評価減適用 | 実勢価格の50~70%程度 |
たとえば、5,000万円の現金はそのまま5,000万円として課税対象になりますが、同じ価値の不動産であれば評価額が3,500万円程度になることも珍しくありません。
6.現金を相続人に残すためには生前贈与も有効です
相続税対策として、生前贈与は非常に有効な手段です。特に現金はそのまま贈与しやすいため、計画的に活用することで大きな節税効果が期待できます。ただし、贈与には条件やルールがあり、誤った運用をするとかえって税負担が増えるケースもあります。
「暦年贈与」とは、毎年一定額まで非課税で贈与できる制度のことです。年間110万円までの贈与であれば贈与税がかかりません。これを利用して、毎年少しずつ現金を子や孫に贈ることで、相続発生時の財産総額を減らすことが可能です。
暦年贈与のポイント
- 受贈者1人につき、年間110万円まで非課税
- 何人に対しても同時に贈与できる
- 贈与契約書などの記録を残すことが重要
- 現金は振込にすることで贈与の証拠を明確にできる
例えば、子供2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、2,200万円を非課税で移転できることになります。これだけでも相続税の負担軽減に大きく貢献します。
暦年贈与の他にも、特定の条件下では一括での生前贈与が認められる制度があります。「相続時精算課税制度」は、2,500万円までの贈与を非課税で行い、相続時に精算する仕組みです。
項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税制度 |
---|---|---|
非課税枠 | 年110万円まで | 2,500万円まで(令和6年1/1より110万の基礎控除創設) |
対象年齢 | 制限なし | 贈与者60歳以上、受贈者18歳以上の子など |
贈与後の扱い | 贈与完了として確定 | 相続時に再度合算される |
メリット | 柔軟な贈与が可能 | 一度に多額の移転が可能 |
この制度は、特に住宅資金や教育資金の支援を目的とした贈与に適しています。ただし、相続時に財産として再計算される点には注意が必要です。
まとめ
相続税と現金の関係について理解を深めることで、相続時のトラブルや無駄な税負担を回避することが可能になります。この記事では、現金が相続開始と同時に共有財産になる点や、相続税がかかる基準、評価の仕組み、現金相続のメリット・デメリット、そして不動産との税額差、生前贈与の活用方法などを詳しく解説しました。
最も重要なポイントは、現金はそのままの金額で評価されるため、相続税の節税効果が期待しにくいという点です。その一方で、分割や納税の利便性では非常に優れています。相続税対策としては、不動産の活用や生前贈与の導入を併用することで、よりバランスの取れた資産構成を目指すことができます。
お困り事がございましたら、ランドマーク税理士法人までご相談ください。