借家権が設定されている不動産を相続した場合、借家権の評価や相続税がどのようになるのか解説

借家権の設定されている不動産を相続した場合、相続税の評価額がどのようになるのか気になる方がいるのではないでしょうか?

被相続人が賃貸マンションなどの部屋を賃貸借契約で借りている場合、借家権も相続の対象になるか疑問が生じると思います。

また、賃貸マンションやアパートを所有していた場合も不動産は相続され、相続税の対象となりますが、自己で使用するマンションよりも相続税評価額が下がるのが一般的です。

この記事では、借家権の設定されている不動産が相続されたとき、相続税評価がどのようになるか、また、借家権割合とはなにかについて解説します。

1.借家権とは

借家権とは、賃借権のうちのひとつです。 賃借権には、土地を建物所有の目的で借りる「借地権」と、建物や建物のなかの1室を借りる「借家権」があり、借地借家法が適用されます。 賃貸借契約を結ぶことで、借主は賃料を貸主に支払う義務を負い、その対価として、借りた土地や建物の使用収益権が発生します。

1-1.借地権との違い

借家権と借地権は、どちらとも賃借権ですが、借りるものが建物や部屋なのか、または土地なのかといった点に違いがあります。
ただし、どちらとも、賃貸借契約によって権利を取得し、借りるものが土地であれ、建物であれ、所有者が借主とは別にいることがポイントです。
また、借地権は、賃借権だけでなく、地上権が含まれる場合がありますが、一般的には土地賃借権を指します。

借地権には、現在、旧法賃借借地権と新法で規定されている普通借地権、定期借地権があります。
旧法賃借借地権は、廃止された借地法によって規定された借地権をいい、経過措置として、旧法で設定された借地権は旧法の規定が適用されます。
旧法と現行法では、賃借契約更新後の存続期間などが異なり、旧法の方が、より借主の権利が強いといえるでしょう。

借地権は、借りた土地の上に自宅などの建物を建てて利用することが主な目的であるため、契約の期間は30年以上(契約期間の定めが無い場合は30年)と長期間になります。
一方、借家権は、存続期間について、最長·最短の定めがなく、最短については1年未満の期間は期間の定めのないものみなすなど、短期間での賃貸借が想定された内容が規定されています。
 

2.借家権割合とは

賃借マンションの1室を相続した場合、賃貸借契約の当事者の地位を承継することになります。この場合、家賃を支払う義務も承継します。

一方、被相続人が賃貸マンションやアパートの建物を所有していた場合、こちらも相続されますが、自己使用の建物より相続税評価額が下がります。

なぜなら、賃貸物件に入居者がいる場合、借家権が設定されているので所有者であっても不動産の売却などが容易ではなく、自由に使うことができないということから、所有者が自由に使用できる自用建物よりも価値が低いとされているからです。

借家権割合とは貸家や貸家建付地の相続税評価額の計算式に算入される借家権の割合のことです。
借家権割合は、全国一律で30%と定められています。

 

3.借家権が設定されている土地・建物は相続税対策になります

借家権が設定されている賃貸マンションやアパートは、相続税対策に繋がると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。

借家権が設定されている建物とその敷地は自己使用の土地と比べて、相続税評価額が下がるため、相続税対策に効果があります。
詳しく解説していきます。

3-1.自用地よりも相続税評価額が減額

借地権が設定されている土地や、借家権が設定されている賃貸マンション、アパートといった建物とその敷地は、自己で所有し、使用する土地や建物よりも、一般的に相続税評価額が下がります。

前述の通り、賃貸マンションやアパートに入居者がいる場合、自用地と比べて処分できる自由に制限があるので自用の土地や建物よりも相続税評価額が低くなるからです。
貸家の相続税評価額は、固定資産税評価額に借家権割合の30%を控除して、具体的な額を計算します。

また、賃貸割合も評価額の計算に影響を与えます。
空室が多ければ多いほど賃貸割合が下がり、満室に近ければ近いほど賃貸割合は上がり、節税の効果が見込めるといえるでしょう。

賃貸割合を算出する際の賃貸状況は、原則相続日が基準ですが、一時的な空室の場合、賃貸されていた部屋に含めることが可能な場合があります。
相続が発生した日からおおよそ1ヶ月前に空室になったような状況であれば、一時的な空室と判断することができるかもしれません。
該当する、または類似の状況の場合は、一度専門家に相談されることをおすすめします。

3-2.貸付事業用宅地等に該当する可能性がある

貸付事業用宅地等とは、小規模宅地等の特例という相続税の特例の対象となる宅地等のことで、要件に該当すると、最大50%の相続税評価額の控除の減額が出来ます。

貸付事業用宅地等は、第三者に土地を貸していたり、賃貸マンションやアパートなどの賃貸用の建物を建てたりしていると該当します。
貸付事業用宅地等は、被相続人の相続が発生する前から、不動産貸付業を行っていなければならず、相続人が相続税の申告期限の時点まで、不動産貸付業を継続していなければなりません。

減額される割合については、利用区分と面積によって変動します。

3-3.売買取引時価よりも相続税評価額の方が低い

一般的に、不動産は売買取引時価よりも、相続税評価額の方が少ない額で算出されます。
貸家の相続税評価額は以下のように計算されます。

  • 家屋や建物の相続税評価額の計算方法

【賃貸用建物】固定資産税評価額×(1 – 借家権割合 × 賃貸割合)

賃貸用のマンションの1室を持っていた場合でも、固定資産税評価額では階数などは考慮されず、建物全体から専有している面積の分を割って算出されるため、高層階ほど時価よりも低くなる場合が多いといえるでしょう。ただし、平成30年以降に建てられた20階以上のマンションは階層によって固定資産税評価額が異なりますので注意が必要です。

 

4.借家権が設定されている土地・建物の相続税評価方法

借家権が設定されている土地と建物の相続税評価額は、別々に評価、計算して算出します。
計算式は以下の通りです。

【建物部分の計算】
建物の固定資産税評価額× (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)

【土地部分の計算】
土地の相続税評価額 × (1 – 借地権割合 ×借家権割合 × 賃貸割合)

借家権が設定されていない自用地の場合は以下のような計算式で算出します。
路線価方式もしくは倍率方式で算出した土地の相続税評価額 + 建物の固定資産税評価額 × 1
つまり、借家権が設定されており、かつ、賃貸割合が高い建物を所有している場合、自己使用のための建物を相続するよりも、相続税評価額は下がります。

4-1.土地の相続税評価額は路線価方式or倍率方式で計算する

土地の相続税評価額は、土地によって、使用する評価方式が変わります。
土地の評価方式には、「路線価方式」と「倍率方式」があります。
「路線価方式」は、路線価が決められている地域で使うことができる評価方式であり、主に都会といった市街地などで使えます。路線価とは、路線(道路)に面している標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことをいいます。
「倍率方式」は、路線価が定められていない地域で使う評価方式です。

  • 土地の相続税評価額の計算方法

【路線価方式】
路線価 × 各種補正率 × 土地面積
使い勝手の悪い土地などの場合、補正率を乗じて、減じた価値を金額に反映させます。
補正率の例として、土地の奥行距離に応じた奥行価格補正率などがあります。
路線価は千円単位で路線価図に表示されています。

【倍率方式】
固定資産税評価額 × 倍率
路線価と評価倍率は国税庁のホームページで確認することができます。

4-2.借家権割合で土地の評価額は下がる

貸家建付地は相続税評価額の計算式に借家権割合が入っていることから、土地の相続税評価額が下がることが分かります。

【土地部分の計算】
土地の相続税評価額 × (1 – 借地権割合 ×借家権割合 × 賃貸割合)

また、土地だけでなく、建物部分の計算式にも、借家権割合は入っているため、建物の相続税評価額も下がります。

【建物部分の計算】
建物の固定資産税評価額× (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)

固定資産税評価額は、総務省の定めた固定資産評価基準を用いて、所在する各市町村によって、実際の固定資産評価額が個別に決められます。
固定資産税評価額は、一般的に新築時の建物価格や時価の70%前後である場合が多いでしょう。
また、賃貸マンションやアパートの建つ土地が借地の場合は、借地権割合が乗じられるので、さらに相続税評価額は下がります。
借地権割合は、全国一律で30%と定められている借家権割合と異なり、地域ごとに30%~90%の割合で定められています。
借地権割合は、路線価や評価倍率と同様に、国税庁のホームページ上の路線価図・評価倍率表で確認することができます。

4-3.不動産の評価額に影響する賃貸割合

借家権割合や借地権割合と同様に、賃貸割合も、不動産の相続税評価額に影響します。
分かりやすく表現すると、所有している不動産で賃貸中の部分が多ければ多いほど、不動産の相続税評価額は下がります。
これは、賃貸マンションやアパートといった不動産の所有者が、自由に使える部分が減り、貸主(所有者)の持っている利用価値が下がっているとみなされるためです。
賃貸割合は、賃貸マンションやアパートの空き室の割合を示し、満室の場合、100%とします。
空き室が多い場合は相続税対策の効果が減じてしまうため、注意が必要です。

【賃貸割合の計算式】
相続が発生した時点で賃貸されている専有部分の床面積 ÷ 家屋や建物の専有部分の床面積の合計
賃貸の戸数のうち、いくつ埋まっているかではなく、専有部分の床面積で計算する点に注意しましょう。

賃貸割合は、一時的な空室となっている部屋に関しては、賃貸中として計算に含めることができます。
ただし、一時的な空室の判断は、専門家でない個人では難しいといえるでしょう。
国税庁では、「賃貸割合は、原則として、課税時期において実際に賃貸されている部分の床面積に基づいて算定」としていますが、「一時的に空室となっている部分の床面積を実際に賃貸されている部分の床面積に加えて算定して差し支え」ないと回答しています。

しかし、空室の期間が課税時期の前後例えば1か月程度など、期間や範囲といった複数の要件について総合的な判断のもと、一時的な空室かが判断されるため、不安な場合は専門家に相談した方がベターです。
また、一戸建てなどの貸家の場合は、相続が発生した日に賃貸されていたかで賃貸割合が判断されるため、こちらも注意が必要です。

番外編.借家権自体は相続財産になるのか

借家権そのものは相続財産として取り扱われるかどうかについて着目して解説していきます。

前述の通り、借家権は賃借権のひとつであり、賃貸借契約を根拠に対象の建物などの使用収益の権利を取得するものです。
賃借権は、相続財産の対象となる権利のため、借家権は相続の対象であり、相続人に相続されます。

ただし借家権の対価として「権利金」などの名目にて金銭が取引される慣行のない借家の場合には借家権は評価しないこととしています。立地の良い店舗等で権利金が取引対象とされている地域では相続財産として計上する必要がありますが、一般的な賃借マンションやアパートの場合は相続財産として評価しなくて良いと思われます。

 

5.借家権が設定されている土地・建物を相続した場合の注意点

貸付けられているいる土地や建物を相続し、自身が土地や建物の所有者となれば、賃貸マンションやアパートなどの不動産貸付事業を継続するかどうかを決める必要があります。

相続税の節税だけでなく、将来を見通して、賃貸不動産の経営を継続するかを判断しなくてはならないといえるでしょう。

5-1.貸家建付地に判定されないことがあります

貸家建付地とは、貸家の敷地として用いられている宅地、言い換えると、所有している土地に建築した家屋を第三者などに貸し付けしている場合の、その土地のことをいいます。
貸家建付地の場合、価額は以下の計算式で計算することができます。

【貸家建付地の価額の計算式】
自用地としての価額 – 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合

貸家建付地と近いもので貸宅地がありますが、これらの違いは、土地に建っている建物の所有者が借主なのか、土地所有者なのかによって変わります。
土地の相続税評価は、利用区分として、「自用地」「貸宅地」「貸家建付地」に分かれ、相続税評価額の計算式が異なります。
貸宅地の場合、以下の計算式で算出します。

【貸宅地の価額の計算式】
自用地としての価額 × (1 – 借地権割合)

賃貸マンションやアパートの場合、貸家建付地と判定されますが、コインパーキングなどの駐車場として土地を貸しているなどの場合、貸家建付地として判定されないことがあります。
賃貸アパートの敷地内に駐車場があるという場合は、貸家建付地として判定されますが、アパートに居住していない第三者と駐車場を契約している場合、建物が建っていない自用地として判断されてしまう点に注意が必要です。

5-2.共同住宅が一時的な空室の時、条件を満たせば賃貸中とみなされます

賃貸マンションやアパートといった共同住宅の場合、賃貸割合は相続税評価額に影響があります。
賃貸割合は満室の場合、100%となるため、空室が少なければ少ないほど節税効果が見込めると言えるでしょう。

賃貸割合を判断するタイミングは相続開始時とされています。
相続開始時で、丁度賃借人が引越し、空き室が出ていたような場合、「一時的な空室」として、賃貸中であると判断し、賃貸割合が計算できることがあります。

一時的空室が認められるのは、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」必要があります。
チェックされるポイントとしては、以下のものが挙げられます。

  • 課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
  • 賃借人の退去後、速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
  • 空室の期間、ほかの用途で使用されていないかどうか
  • 空室の期間が課税時期の前後、1か月程度であるなど、一時的な期間であったかどうか

5-3.空室や家賃下落などの経営リスクが伴います 

被相続人の地位を承継し、賃貸用アパートやマンションの貸主となった場合、気をつけたいのが経営リスクです。

継続して賃借人がいる場合、定期的な家賃収入が見込めますが、空き室や建物の経年劣化、周囲の環境の変化などによって、家賃が下落するなどのリスクがある点を考慮に入れましょう。
また、家主として、建物の維持費や修繕費がかかってくる点も注意が必要です。
 

まとめ

今回は、借家や貸家、貸家建付地の相続について解説しました。
借家権や借地権といった賃借権も相続財産の対象となる場合があります。
また、賃貸マンションやアパートといった不動産は、相続税対策に有効な相続財産であるといえるでしょう。

ただし、借家権などの権利が設定された不動産の相続税評価額の計算は複雑場合がありますであり、自身で正確な額を算出することは難しいといえます。
正確に相続財産を把握するためにも、相続の専門家へご相談されることをおすすめします。
 

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