インボイスの実施に伴い、売上に関わらず課税事業者を選択する個人事業主が増えた一方で「消費税の申告方法がわからない」「仕入税額控除の対象となるものを詳しく知りたい」といった、消費税の申告に関する疑問や悩みを持つ方もいるでしょう。
本記事では、消費税の申告が必要な事業者と不必要な事業者との違いや、消費税の計算方法および申告方法について解説します。
1. 消費税の申告が必要な事業者とは?
消費税の申告が必要な事業者は「課税事業者」、不要な事業者は「免税事業者」です。
ここでは、課税事業者になる条件や、判断材料を紹介します。
また、消費税の申告が必要ない免税事業者のメリットやデメリットも紹介するので、参考にしてください。
1-1. 課税事業者と免税事業者の違い
消費税の申告が必要な個人事業主や法人を「課税事業者」と呼びます。課税事業者になる条件は、個人事業主と法人で異なります。
個人事業主が課税事業者になる条件は、以下のとおりです。
- 基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合
- 適格請求書発行事業者
- 特定期間(※)における課税売上高、もしくは給与支払が1,000万円を超えた場合
基準期間は、納税義務の判定の基準となる期間を指し、原則として個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指します。
(※)特定期間とは、次の期間をいいます。
- 個人事業者の場合・・・その年の前年1月1日~6月30日までの期間
- 法人の場合・・・原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間
なお、適格請求書発行事業者の場合、売上や給与支払いの額は関係ありません。売り上げに応じた消費税の申告が必要です。
一方、平成25年1月1日以後に開始する年、又は事業年度について、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、法人が課税事業者になる条件は、以下のとおりです。
- 特定期間(※)の課税売上高が1,000万円を超える場合
- 特定新規設立法人の場合
- 消費税課税事業者選択届出書を提出した場合
法人は、設立時の資本金が1,000万円未満の場合は「特定新規設立法人」を除いて、最長で設立2期目までは消費税が免除されます。一方、消費税課税事業者選択届出書を提出した場合は、売上に関係なく消費税を納めなければなりません。
一方、免税事業者とは、基準期間の課税売上高及び特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の事業者のことを指し、その年(又は事業年度)は納税義務が免除されます。
ただし、申告の対象となる期間に注意が必要です。基準期間は前々年度、特定期間は前年度です。個人事業主を例に挙げると、2025年の1月1日~12月31日までの売り上げが200万円であっても、2023年の同時期の課税売上高が1,000万円を超えていた場合は、課税事業者となります。
1-2. 基準期間と課税売上高
前述したように、基準期間は前々年度、特定期間は前年度です。
分かりにくいですが、間違えないように注意しましょう。また、特定期間は1月1日~6月30日です。基準期間が1年間なのに対し、特定期間は半年ですから、注意してください。
課税売上高とは、消費税の課税対象取引の売上高と輸出取引等免税売上金額を足したものから、その取引に関する売上返品、売上値引き、売上割戻の合計金額を引いたものです。所得税の課税売上高とは異なるので、混同しないように注意してください。
一見すると計算がとても難しそうですが、会計ソフトを利用して消費税の確定申告を行えば、消費税及び地方消費税確定申告書の「⑮課税資産の譲渡等の対価の額」に自動的に反映されます。
消費税は、国内の取引限定で課せられる税金です。ただし、国内の取引でも、消費税がかからない取引があります。
そのため、課税事業者は課税取引と非課税取引について、知っておく必要があります。
また、国内から海外へ物品を輸送して取り引きする場合は、消費税はかかりません。しかし、海外から輸入した物品を国内で引き取る場合は消費税を支払う必要があります。「海外の業者との取引は一律免税」ではないので、注意してください。
1-3. 新設法人や個人事業主の消費税の納税義務を判断するには?
個人事業主の消費税の納税義務は、「適格請求書発行事業者」になっていない限り、原則2年前もしくは1年前の上半期における売上を基準に算出されます。帳簿をつけて、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、2年後に消費税の申告が必要だと覚えておくことが必要です。
そのため、2年後の課税売上高が1,000万円を超えていなくても、消費税を納めなければなりません。売上があった年に、大まかであっても納税額を算出し、納税用のお金を取り分けておくのがおすすめです。
法人の場合、売上以外に消費税の納税時期を決めるのは、資本金です。資本金が1,000万円以上ある場合は、設立1期目から消費税の納税義務が生じます。また、「特定新規設立法人」の要件を満たした場合も、1期目から納税義務が生じます。
それ以外は、特定期間の課税売上高が1,000万円未満であれば、会社設立から2期目までの消費税の納税が免除され、申告は3期目からとなります。
課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々期から消費税の納税義務が生じるので、会社設立1期目の売上をしっかり把握しておきましょう。
2. 消費税の計算方法について
ここでは、消費税の計算方法について解説します。消費税の計算は、会計ソフトを利用したり税理士に依頼したりする方も多いでしょう。しかし、計算方法の概要を知っておくことも重要です。
2-1. 基本の計算式
2025年8月現在、消費税は10%と8%の2種類です。消費税は、国税と地方税に分かれており、10%の場合は、国税が7.8%、地方税が2.2%、8%の場合は、国税が6.24%、地方税が1.76%となっています。
それを踏まえた最も単純な計算方法は以下の通りです。
- 一般課税の場合:(売上にかかる消費税額)-(仕入などにかかる消費税額)
ただし、この計算を用いるには、まず消費税の種類ごとに計算する必要があります。
国税の計算方法は以下の通りです。
- 売上税額=(標準税率の対象となる税込売上額×7.8/110)+(軽減税率の対象となる税込売上額×6.24/108)
- 仕入税額=(標準税率の対象となる税込仕入額×7.8/110)+(軽減税率の対象となる税込仕入額×6.24/108)
地方税の税率は10%の場合、国税に収める消費税に22/78をかけた金額です。これは、消費税10%のうち、2.2%が地方消費税の割合のためです。
2-2. 売上税額と仕入税額控除について
売上税額とは、単純に売り上げた金額にかかる税額です。例えば、売上が100万円ならば、消費税は単純に10万円です。
仕入税額控除とは、売上税額から仕入れなどにかかった消費税額を差し引く仕組みです。
例えば、ある税込商品を1,100円で販売した場合、売上税額は100円です。しかし、1,100円で売る品物を税込550円で仕入れた場合、売上税額100円‐仕入れにかかった50円を差し引き、50円を納めます。
仕入税額控除の計算方法も以下のような種類があります。
- 個別対応方式
- 一括比例配分方式
課税方式と課税売上高によってどの方式が適用されるか変わってきます。
計算方法の選択は複雑なため、ご不明点がある場合は、早めに税理士をはじめとする税の専門家に相談してください。
法人の場合は顧問税理士を契約する、個人事業者の場合は、無料で行っている税理士との相談会などを利用してみてもいいでしょう。
2-3. 簡易課税制度と本則課税の違いとは?
消費税の計算方法は、 簡易課税制度と本則課税の2種類があります。
本則課税は、先にご紹介した「売上にかかる消費税額-仕入などにかかる消費税額」で計算する方法です。
仕入れに関わる消費税を、以下の3種類にわけて計算する必要があります。
- 課税売上(消費税がかかる)
- 非課税売上(消費税がかからない)
- 課税非課税売上のどちらにも係るもの(個々に判断)
本則課税制度は計算がややこしい分、以下のようなメリットがあります。
- 適用期間の制限がない
- 高額な設備投資を行った場合、過払い還付制度が適用される場合もある
特に、高額な設備投資を行った場合はメリットが大きいので利用を検討してみてください。
簡易課税制度とは、以下の計算式で消費税を算出する方法です。
- 課税売上に係る消費税額(仮受消費税)- 税売上に係る消費税額(仮受消費税)× みなし仕入率
みなし仕入率は6種類に分類されており、40%~90%まで区分されています。
簡易課税制度を利用したい場合は、以下の条件を満たしている必要があります。
- 2期前の課税売上高が5,000万円以下
- 管轄の税務署に届出書を提出
簡易課税制度を利用すれば、計算が簡単になり事務作業が軽減されます。特に、個人事業主で、自分が事務作業まですべて行う場合、簡易課税制度を利用するほうがメリットは大きくなります。
また、取引先に適格請求書(インボイス)の発行を求める必要がない、受領した請求書や納品書の保管も不要といったメリットもあります。
一方、簡易課税制度は「収入にかかる消費税×みなし仕入率」で控除額を計算するため、支出が増えたり設備投資に使用したりしても、控除額に反映されません。
このほか、簡易課税を選択したら2年間、本課税制度に戻れないので注意が必要です。
それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで選択しましょう。
売り上げが5,000万円以下の場合は、どちらも選択することもできます。
2-4. 消費税率と軽減税率を正しく適用する方法
消費税率とは、標準税率の10%を指します。一方、軽減税率とは、2025年8月現在は8%の税率を意味します。
軽減税率は、原則としてアルコールを除く「飲食料品」と「新聞」が対象です。ただし、食料品でも「外食」と「ケータリング」は軽減税率の対象外です。
その一方で、「有料老人ホームなどで提供される飲食物」や「宅配の食品、飲料」は軽減税率の対象になっています。
消費税率と軽減税率を正しく適用する方法としては、まず、食品と新聞をピックアップしてください。
そのうえで、外食とケータリングは除外します。ただし、定期的に宅配される食品は軽減税率の対象です。
このように、分類していき、わからない場合は税理士等に相談してください。
3. 消費税申告の流れと必要書類
ここでは、消費税申告の基本的な流れと必要書類について解説します。
確定申告と比べて何が違うかも解説するので、参考にしてください。
3-1.申告・納付のスケジュール
消費税の申告、納付のスケジュールは以下の通りです。
- 個人事業主:1月1日から12月31日までの1年分を翌年の3月31日までに申告する
- 法人:原則として決算日(課税期間終了の日)から2カ月以内に申告する
確定申告と消費税の申告を同時に行っても構いません。ただし、確定申告は申告期限が決められているのに対し、消費税は最終期限が定められているだけです。
例えば3月31日に申告をしても、1月1日に申告しても問題ありません。
ただし、個人事業主の消費税は3月31日が期限です。確定申告と並行して3月15日に行った場合、納税期限まで15日しかないため、注意が必要です。
資金を作るのに時間がかかる方は、できるだけ早く申告しましょう。
3-2.必要な帳簿と証憑(請求書・レシートなど)
消費税の確定申告を行う際には、消費税の計算方法に応じた書類が必要です。
このあたりは、確定申告と同様です。
請求書やレシートは納税の際に必要ありません。
ただし、納める消費税の額を計算する場合は、請求書・領収書・レシートが必要です。
月々帳簿をしっかりつけていれば、直前になって慌てることはありません。
自分で帳簿処理ができない場合は、個人事業主であっても税理士事務所に依頼してもいいでしょう。
3-3.e-Taxを使った電子申告とは
確定申告同様、消費税はe-Tax申請も可能です。
e-Tax申請を行うならば、郵送や税務署の直接申請の手間がかかりません。
e-Taxを利用すれば、消費税の電子納税も可能です。
4. 消費税申告でよくある間違いと注意点
ここでは、消費税申告でよくある間違いと注意点として、以下の3つを紹介します。
特に、消費税申告に慣れていない場合に起こりがちなので注意しましょう。
4-1. 消費税の課税・非課税・不課税の区別ミス
消費税には、課税、非課税、不課税といった区分があります。消費税の課税区分を間違えると、消費税の納税額や還付額が正確に計算できません。
また、区分を間違えると納税額が過小となる恐れがあり、税務調査で指摘され、追徴課税や加算税がかかるケースもあります。会計ソフトを利用したり、税理士に書類の作成を依頼したりするなどの工夫が必要です。
4-2. 仕入税額控除の適用漏れ・誤り(インボイス制度対応含む)
仕入税額控除の適用漏れ・誤りがあると、消費税を余計に納めたり、逆に足りなくなったりします。
特に、インボイス制度が導入されて以降、適格請求書発行事業者かそれ以外かで、請求書や領収書のチェックが厳しくなりました。
個人事業者同士の取引には、インボイスの適正業者であるか、チェックも忘れずに行いましょう。
4-3. 適用税率の誤り(軽減税率の適用判断)
10%か8%か、適用税率のミスも珍しくありません。特に、飲食物を取り扱っている業者は注意が必要です。テイクアウトか、店内飲食かでも適用税率は異なります。わからないことがある場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
まとめ
消費税の申告が必要な事業者は、売上、届け出など複数の要因で決まります。売り上げで課税事業者になるかどうかは、1,000万円が1つのハードルです。ただし、適格請求書発行事業者になると売り上げに関わらず課税事業者になります。消費税は複雑なので、可能であれば税理士などの専門業者に相談してみるのもおすすめです。
お困り事がございましたら、ランドマーク税理士法人までご相談ください。