自営業者にとって、消費税は分かりにくい税金の1つです。「消費税がかかるもの、かからないものの区別がつかない」「課税事業者となるタイミングは?」等の疑問を持っている方もいるでしょう。
本記事では、消費税の仕組みや対象となる物品、納税者の定義、インボイス制度の概要を紹介します。
これから自営業者として独立を検討している方や、売り上げがアップしてきて課税事業者になる可能性が出てきた自営業者の方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。
1. 消費税とは?
消費税とは、商品・製品の販売やサービスの提供等に対して課税される税金であり、税金を負担する方と納税者が異なる間接税に分類されます。
また、消費税は国税と地方消費税に分類されます。2025年7月現在、10%の消費税は国税7.8%、地方税2.2%、8%の場合は国税6.24%、地方税1.76%です。
ここでは、消費税の仕組みや導入された背景や集められた税の使い道を紹介します。
1-1. 消費税の基本的な仕組み
一般的な物品は、製造者・流通業者・小売業者の手を通って消費者の手にわたります。
消費税は、物品が売買されるたびに発生します。そのため、二重、三重の累積にならないように、売上に関わる消費税から、仕入に関わる消費税を引いた額を納税する仕組みです。
例えば、最終的に税込み1,100円で消費者に販売された品物の場合、消費者が支払った消費税は100円です。小売業者は税込み770円で品物を仕入れたので、100円-70円=30円となり、30円分の消費税を納税します。流通業者は、550円で商品を仕入れて770円で販売したので、70円-50円=20円となり、20円分の消費税を納税します。製造者は、550円で商品を販売したため、50円分の消費税を納税するため、合計で100円の消費税が国庫に入る仕組みです。
1-2. 導入された背景と目的
消費税は、高齢化社会を見据えた財源の確保と税の公平を目的に、1989年4月1日より導入されました。消費税が導入される前には、「物品税」があり、宝石、毛皮、電化製品、乗用車、ゴルフクラブ、お酒等、「ぜいたく品」や「嗜好品」に課税されていました。
しかし、社会が豊かになってくるにつれて、かつての「ぜいたく品」が日用品扱いとなり、何をもってぜいたく品と判断するのか、の区別が難しくなり、物品税を廃止して代わりにすべての物品、サービスに一律課税をする「消費税」が導入されたのです。しかし、物品税の一部は「たばこ税」や「酒税」等に名前を変え、存続しています。
また、少子高齢化により、20歳~64歳までの税負担が重くなることを懸念し、物品やサービスすべてに公平に課税することで、納税する世代への不公平感をなくしています。
なお、1989年に導入された際、消費税率は3%でした。1997年に5%、2014年に8%となり、2019年に標準税率10%、軽減税率8%となっています。
2. 消費税の対象となるもの・ならないもの
消費税は、物品やサービスに課税される税ですが、すべての物品やサービスに課税されるわけではありません。
ここでは、消費税の課税対象になる取引と消費税がかからない取り引き、さらに判断に迷うケースの3つをそれぞれ解説します。
2-1. 消費税が「かかる」取引:課税取引とは?
消費税法では、消費税が課税される「資産の譲渡等」を、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供」と定義しています。
したがって、商品の販売や運送、広告など、料金を支払って行う取引のほとんどは課税の対象と考えていいでしょう。また、海外から商品を輸入する際も消費税はかかります。
2-2. 消費税が「かからない」取引:非課税取引と不課税取引の違い
消費税がかからない取引には、非課税取引と不課税取引の2種類があります。
非課税取引とは、税としての性格や社会政策的配慮から消費税が課税されない取引です。以下のような取引が該当します。
- 土地の譲渡・貸付
- 有価証券の譲渡
- 商品券・ギフト券・有価証券等の譲渡
- 預貯金や貸付金の利子
- 社会保険料
- 介護保険サービスの提供
- 助産に関する費用
- 学費(学校教育法に規定する学校等に対するものに限る)
- 住宅の家賃
なお、土地は非課税ですが建物には消費税がかかります。土地付き1戸建てを購入したい場合、土地は非課税取引、建物は課税取引です。
このように、セットで購入することが多い取引で片方が非課税取引、もう1つが課税取引の場合は、混同しないように注意しましょう。
不課税取引とは、「事業者が事業として、対価を得て行う資産の譲渡等」に該当しない取引全般を指します。一例を挙げると、以下のような取引が該当します。
- 給与・賃金
- 寄付金・祝金・見舞金
- 国や自治体からの補助金や助成金
- 試供品・見本品などお金が発生しない製品
- 保険金・共済金
- 株式をはじめとする投資の配当金
- 損害賠償金
非課税取引と不課税取引は、消費税が課税されないという点では同じです。しかし、課税売上割合を計算する際の取り扱いに、以下のような違いがあります。まお、課税売上割合とは、分母を総売上高、分子を課税売上高とした場合の割合です。
- 非課税取引:分母にのみ算入する
- 不課税取引:分母にも分子にも算入しない
2-3. 注意すべき例外:課税・非課税の判断に迷いやすいケース
以下のような場合は、課税・非課税に迷いやすいので注意が必要です。
- 外注費:業務委託の場合は課税、給与の場合は非課税
- 商品券や切手等の有価証券:切手等で実際に物品を購入した場合は課税
- マンションの一室を貸した:居住用は非課税、事業用の場合は課税
なお、消費税は国内で消費される物品やサービスに対して課税される仕組みなので、製品やサービスを海外に輸出した場合は、消費税が0%となり、なおかつ仕入額の消費税は控除されます。
これを「免税取引」といいますが、単に海外へサービスを提供したり輸出したりするだけでは適応されません。
「輸出許可証」を提出したり、輸出が確実に行われたと証明したりする必要があります。
免税制度は非課税ではありません。課税されるが課税額は0%で、厳密には非課税ではないので注意しましょう。
3. 消費税の納税義務者とは?~誰が納めるのか~
ここでは、消費税の納税義務者について解説します。
消費税は、その名のとおり消費する物品やサービスを購入する際に支払いますが、支払った事業者が全額負担するわけではありません。
一度、仕組みを再確認してみましょう。
3-1.消費税を負担するのは消費者
消費税を負担するのは消費者です。
私たちは、物やサービスの提供を受ける際に消費税込みのお金を対価として支払います。
この「消費者」というのは、サービスや物を利用する利用者だけでなく、物品の仕入れをする事業者も消費者に入ります。
例えば、生産者から問屋が物品を購入する場合も消費税を含めた対価を支払い、小売店に卸す際に利益を上乗せした価格に消費税を上乗せして販売するのです。
3-2.納税するのは事業者
消費税を納税するのは事業者です。前述したように、利用者から受け取った消費税をそのまま支払うと、二重支払いになってしまいます。
そこで、売上に関わる消費税から、仕入れに関わる消費税を引いた額を納税する仕組みです。
そのため、小売店、流通業者、生産者等が納税する消費税の合計が、最終的な消費者が支払った消費税の合計になっている計算です。
なお、生産者が直接消費者に消費税込みで物品を販売した場合、生産者兼販売者が消費者から受け取った消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて納めます。
3-3.課税事業者と免税事業者の違い
課税事業者とは、基準期間の、課税売上高が1,000万円を超える事業者、およびインボイス制度における適格請求書発行事業者です。
法人、個人事業主、両方が該当します。
課税事業者に当てはまる場合は、消費税を納付する義務があります。
インボイス制度における適格請求書発行事業者は、課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の課税義務があります。
適格請求書発行事業者の届出書を出している場合は、課税売上高が少額でも消費税納税の義務があるので注意が必要です。
一方免税事業者とは、基準期間の、課税売上高が1,000万円以下で適格請求書発行事業者の届出書を出していない事業者です。
適格請求書発行事業者の届出書を出していない場合、売上によって課税事業者と免税事業者を行ったり来たりするケースもあります。
4. 仕入税額控除とは?
納税する消費税を計算する場合、仕入税額控除について知っておく必要があります。ここでは消費税における仕入税額控除について解説します。
4-1. 仕入税額控除の適用要件と注意点
仕入税額控除とは、納税する消費税の額を計算する際、課税売上の消費税額から課税仕入れの消費税額を差し引く計算です。
これは、消費税の二重、三重の累積を防ぐために計算します。
課税仕入れとなる取引には次のようなものがあります。
- 商品などの棚卸資産を購入した場合
- 原材料等を購入した場合
- 機械や建物、車両や器具備品等の事業用資産を購入したり賃借したりした場合
- 広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費など、事業を行うのに必要な費用
- 事務用品、消耗品、新聞図書等、事業を行うのに必要な費用
- 機械や建物、車両や器具備品等の修繕費
- 外部に事業の一部を外注した場合の外注費
仕入税額控除の計算方法には、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」があります。
詳しく知りたい場合は、国税庁のサイトを確認するか税理士から説明を受けましょう。
なお、仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れであることが前提です。
自社の社員に支払う給与、社員が住んでいる住居用の住宅の賃料など、非課税のものは仕入税額控除の対象にはならないので注意してください。
4-2. 仕入税額控除の実務対応と申告時のポイント
消費税の申告の際には、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出した課税事業者のうち、2年前の課税売上高が5,000万円以下の事業者が利用できる、「簡易課税制度」という制度があります。
この制度を利用すると、売上に係る消費税額に事業区分に応じて定められた「みなし仕入率」を利用できるため、仕入税額控除の計算がより簡単にできます。
課税売上高が5,000万円を超える事業者は限られるので、個人事業者や、中小法人はぜひ「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しましょう。
分からないことがある場合は、税務署の相談窓口、もしくは税理士に個別相談するのがおすすめです。
5. インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは?
インボイス制度とは、2023年10月に複数税率の採用における、不正や計算のミスを防ぐことを目的に導入されました。
インボイス制度の導入後は、適格請求書の発行や保存をしないと、仕入税額控除を受けられなくなっています。
適格請求書とは、従来の区分請求書の内容に以下の項目を加えたものです。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
適格請求書を発行するには、適格請求書発行事業者であることが条件です。
適格請求書発行事業者になるには、消費税の課税事業者にならなければなりません。
消費税の課税事業者になれば、消費税を納める義務が生じます。
インボイス制度が始まる前は、課税売上額が1,000万円以下ならば消費税の納税義務はありませんでした。
しかし、インボイス制度が実施されて以降は、適格請求書発行事業者であれば売り上げに関係なく消費税の納税が必要です。
なお、適格請求書発行事業者になる義務はありません。しかし、適格請求書発行事業者から仕入れを行わないと、仕入税額控除を受けられなくなるため、個人事業者の中には取引が続けられなくなったり、仕入税額控除分の値引きを求められていたりする恐れがあると心配している方もいるでしょう。しかし、適格請求書発行事業者への強要は下請法(下請代金支払遅延等防止法)や独占禁止法に抵触する恐れがあるため、禁止されています。
5-1. インボイス発行事業者になるには?
適格請求書発行事業者になるには、納税地を所轄する税務署長に登録申請を行う必要があります。
申請は、e-Taxからも行えます。確定申告をe-Taxで行っているならば、オンラインで申請するのが一番簡単です。
何事もなければ、登録希望日から適格請求書発行事業者になれます。
なお、「やはり適格請求書発行事業者をやめたい」といった場合は、2年後に免税事業者に転換することが可能です。
まとめ
本記事では、消費税の内容や支払い方法、インボイス制度について解説しました。
2023年10月に導入されたインボイス制度により、課税売上額が1,000万円以下の場合でも消費税の納税が必要な課税事業者になる必要が生じている事業者もいます。
課税事業者にならないと、適格請求書を発行できませんが、必ずしも適格請求書を発行する必要がない事業者もあります。
課税事業者になるかどうかは、事業内容も判断して決断しましょう。
ランドマーク税理士法人では初回無料面談を行っております。
消費税に関してお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。