
社会保険料控除は、所得税や住民税の負担を軽減する制度です。1年間に支払った社会保険料の全額が控除の対象となり、給与所得者であれば年末調整で、個人事業主であれば確定申告で適用できます。
しかし、控除を正しく受けるためには、対象となる保険料の種類や申告時の注意点を把握しておくことが大切です。
本記事では、社会保険料控除の基本から、適用対象者や申告時のポイントまで詳しく解説します。
1. 社会保険料控除についておさらいしましょう
社会保険料控除は、所得控除のひとつで、支払った社会保険料を所得税や住民税の課税所得から差し引く制度です。この控除を適用すると、税負担が軽減されるため、税制の中でも重要な優遇措置といえます。社会保険料控除の仕組みを理解し、適切に活用できるよう基本を確認していきましょう。
1-1. 1年間に支払った社会保険料の全額を控除することが出来ます
社会保険料控除では、1月1日から12月31日までの1年間に支払った社会保険料を全額所得から差し引けます。例えば、年収800万円の給与所得者が年間120万円の社会保険料を支払った場合、控除後の課税所得は680万円となり、所得税や住民税の負担が軽減されます。支払った社会保険料がそのまま控除対象となるため、正しく申告することが大切です。
1-2. 給与所得者は年末調整で社会保険料控除を受けることが出来ます
会社員やパート・アルバイトなどの給与所得者は、年末調整で社会保険料控除を受けられます。通常、給与から天引きされた社会保険料は会社が把握しており、その金額は自動的に年末調整に反映されます。そのため、特別な手続きは不要です。
ただし、会社が天引きしていない社会保険料を支払っている場合や、扶養家族がいる場合は、年末調整時に必要な書類を提出することで控除を受けられます。いずれも源泉徴収票に数字が表示されますので源泉徴収票をしっかり確認しましょう。
1-3. 個人事業主は確定申告を行うときに控除を適用することが出来ます
個人事業主は、確定申告を行うことで社会保険料控除を受けられます。給与所得者は年末調整で控除が適用されますので源泉徴収票で数字を確認できますが、個人事業主には年末調整がないため、支払った社会保険料を自分で納付書などを確認して集計し、申告しなければなりません。
確定申告では、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」を使用し、第一表の「所得から差し引かれる金額」欄に年間で支払った社会保険料の総額を記載します。また、第二表には保険料の内訳を記載します。年末調整を受けていない給与所得者と同様に、「うち年末調整等以外」の欄に該当する金額を記入してください。
正しく控除を受けるためには、支払った社会保険料の記録を保管し、申告時には正確な金額を記入することが重要です。
2. 社会保険料控除の対象となる保険料の種類を確認しましょう
社会保険料控除の対象となる主な保険料は、以下のとおりです。
- 国民年金保険料
- 厚生年金保険料
- 国民年金基金の掛金
- 厚生年金基金の掛金
- 健康保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 国民健康保険料
- 後期高齢者医療保険料
- iDeCoの掛金
これらの保険料が控除対象となり、申告時に正しく適用することで、所得税や住民税の負担を軽減できます。それぞれの保険料について、詳細を確認していきましょう。
2-1. 国民年金保険料
国民年金保険料は、日本国内に住む20歳から60歳までのすべての人が加入する年金制度です。任意で65歳まで加入できます。自営業者やフリーランス、学生は自分で納付し、会社員は厚生年金保険料に含まれています。
支払った国民年金保険料は社会保険料控除の対象となります。過去の未納分をまとめて納付した場合や、配偶者や親族の国民年金保険料を支払った場合も控除の対象です。
納付が正しく行われている場合、年に一度、日本年金機構から控除証明書が送付されます。控除証明書を確定申告時に提出することで、社会保険料控除を適用できます。
2-2. 厚生年金保険料
厚生年金保険料は、会社員や公務員が加入する年金制度の保険料です。給与から自動的に天引きされ、会社が半分を負担し、残りの半分を本人が支払います。給与所得者は、年末調整時に自動的に控除が適用されるため、特別な手続きは必要ありません。
2-3. 国民年金基金の掛け金
国民年金基金は、国民年金に上乗せして加入できる年金制度で、主に自営業者やフリーランスが老後の年金額を増やすために利用しています。掛け金は社会保険料控除の対象となり、自分以外の家族の掛け金を支払った場合でも控除を受けられます。
国民年金基金に加入している場合、毎年送られてくる控除証明書を確定申告時に提出することで、掛け金に対して社会保険料控除を適用できます。
2-4. 厚生年金基金の掛け金
厚生年金基金は、企業が厚生年金に上乗せして運営する年金制度です。現在、多くの基金は解散していますが、存続している場合、その掛け金は社会保険料控除の対象となります。
厚生年金基金に掛け金を支払っている場合、年末に送られる控除証明書をもとに、年末調整または確定申告を行うことで控除を適用できます。
2-5. 健康保険料
健康保険料は、医療費負担を軽減するための公的保険制度に基づくもので、会社員や公務員は給与から自動的に天引きされ、自営業者やフリーランスは国民健康保険として個別に納付します。いずれの場合でも、支払った保険料は社会保険料控除の対象です。
確定申告や年末調整では、国民健康保険の納付証明書の添付は不要ですが、天引きの方は源泉徴収票、それ以外は納付書から納付金額を記載する必要があります。
2-6. 介護保険料
介護保険料は、40歳以上の人が支払う保険料で、介護サービスの財源となります。会社員は健康保険料と一緒に給与から天引きされ、自営業者や年金受給者は個別に納付します。いずれの場合も、支払った金額は社会保険料控除の対象です。
国民健康保険に加入している40歳から64歳の人は、介護保険料が保険料に含まれているため、国民健康保険料を控除することで介護保険料も同時に控除されます。65歳以上の人は、原則として年金から天引きされ、控除証明書は発行されません。そのため、確定申告では年金の源泉徴収票から支払額を記入する必要があります。
2-7. 雇用保険料
雇用保険料は、失業時の生活支援や職業訓練などに活用される保険料で、労働保険の一部です。給与所得者の場合、雇用主と労働者がそれぞれ負担し、毎月の給与から天引きされます。雇用保険料は源泉徴収票の「社会保険料等の金額」に含まれているため、確定申告で再度控除の申請を行う必要はありません。
2-8. 国民健康保険料
国民健康保険料は、自営業者やフリーランス、退職後に企業の健康保険から外れた人などが支払う医療保険の保険料です。企業の健康保険や共済組合など、ほかの公的医療保険に加入していないすべての人が対象となります。
会社員と異なり、給与からの天引きはないため、自分で納付した保険料を確定申告の際に社会保険料控除として申告しなければなりません。控除証明書は発行されないため、支払った金額は自治体から届く「納付額通知書」などで確認し、確定申告書に記入します。
2-9. 後期高齢者医療保険料
後期高齢者医療保険料は、75歳以上の人が加入する医療保険の保険料です。原則として、被保険者本人の年金から天引きされる「特別徴収」によって支払われますが、この特別徴収で納めた保険料は源泉徴収票に記入されて、そこから本人の社会保険料控除の対象にはなります。本人以外には出来ません。
一方、口座振替や納付書による「普通徴収」の場合、または同居する家族などが本人に代わって保険料を支払った場合には、支払った人が社会保険料控除を受けられます。確定申告時には、支払額を証明する書類(領収書や納付通知書など)を用意しておくと安心です。
2-10. iDeCoの掛金
小規模企業共済等掛金控除に該当すると、掛金が控除対象となります。
3. 社会保険料控除の適用対象者は?
社会保険料控除は、保険料を自分で支払った人が対象です。給与から天引きされる厚生年金、健康保険、雇用保険などの保険料を支払っている会社員、パート、アルバイト、派遣社員をはじめ、国民年金や国民健康保険に加入し、自分で納付している個人事業主も該当します。
また、生計を一にする家族の保険料を負担している場合、その金額も控除の対象です。例えば、離れて暮らす親の保険料を支払う場合が該当します。
給与から天引きされていない保険料や、扶養家族の保険料を負担している場合は、年末調整で控除証明書や書類の提出が必要です。該当しない場合でも申告書の提出が求められるため、申告書の提出に漏れがないように注意しましょう。
4.控除証明書を用意しましょう
社会保険料控除を受けるには、保険料を支払ったことを証明する「控除証明書」の提出が必要です。毎年10月?11月に国民年金機構から控除証明書が郵送されます。証明書は紛失しないように保管し、確定申告時に必ず提出しましょう。
証明書が届かない、または紛失した場合は、年金事務所に問い合わせて再発行を依頼できます。再発行には通常1週間ほどかかるため、早めに手続きを行うことが重要です。
確定申告時には、控除証明書の原本を提出する必要があります。コピーは受け付けられないので、必ず原本を用意してください。
5. 控除を申告する時の注意点
社会保険料控除を申告する際には、いくつかの特別な状況において注意すべきポイントがあります。以下のケースについて、特に確認しておくべき点を紹介します。
5-1. 被扶養者の公的年金から保険料が特別徴収されている場合
扶養している配偶者や親の公的年金から社会保険料が特別徴収されている場合、年金受給者本人が保険料を支払ったとみなされるため、申告者本人の社会保険料控除とはなりません。
一方で、申告者が家族の保険料を負担している場合、控除を受けられる可能性があります。控除を適用するためには、社会保険料の支払いを証明する控除証明書や領収書などの書類を準備し、保管しましょう。
5-2. 退職後の再就職が年をまたいだ場合
退職後に再就職が翌年にずれ込む場合、社会保険料控除の申告には注意が必要です。例えば、2024年7月に退職し、2025年2月に新しい職場に就職した場合、退職から再就職までの間に支払った国民年金保険料や国民健康保険料の支払いは、勤務先の年末調整では控除を受けられません。この場合、確定申告を行うことで社会保険料控除を適用できます。
退職前に給与から天引きされた社会保険料の金額は、退職時に交付される源泉徴収票で確認できます。また、退職後に個人で支払った国民年金保険料は、日本年金機構から送付される「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」に記載されています。控除を受けるためには、これらの証明書を確定申告まで保管し、忘れずに提出することが大切です。
5-3. 過去分の国民年金保険料を支払った場合
未納の国民年金保険料を後から支払った場合、支払った金額は社会保険料控除として申告できます。数年前の分をまとめて納付した場合、支払った年の控除として適用されます。納付の際に受け取った支払い証明書や領収書は、確定申告時に提出するため、大切に保管しましょう。
国民年金保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日ですが、納付を忘れても2年以内であれば納付可能です。また、免除を受けていた場合、最大10年前まで遡って追納できます。追納後に社会保険料控除を申告することで、所得税や住民税の負担軽減が期待できます。
5-4. 家族の後期高齢者医療保険料を支払った場合
家族の後期高齢者医療保険料を支払った場合でも、その支払いが生活費の援助と認められる場合には、支払った本人が社会保険料控除を受けられます。
ただし、保険料が家族本人の年金から天引きされている場合、天引きされた本人以外の控除の対象にはなりません。支払い方法を確認し、支払い証明書などをもとに確定申告時に正しく申告しましょう。
6. まとめ
社会保険料控除は、税金の負担を軽減するために役立つ制度です。1年間に支払った社会保険料の全額を控除できるため、給与所得者や個人事業主にとっては大きな節税効果が期待できます。控除対象となる保険料には、国民年金や健康保険料をはじめとするさまざまな種類があるため、自分が支払った保険料が控除の対象かどうかを確認しておくことが大切です。
また、控除を受けるには適切な証明書類を用意し、申告時に必要な書類を漏れなく提出する必要があります。被扶養者の保険料や過去分の支払いなど、申告の際に注意すべきポイントも多いため、事前にしっかり準備しておきましょう。 お困りのことがございましたら、ランドマーク税理士法人にご相談ください。