法人として事業活動を行って所得を得た場合、法人税を納める必要があります。法人を設立したばかりだと、法人税の計算・納税方法がわからず悩んでいる方もいるでしょう。
本記事では、法人税の計算方法や申告期限、納付方法などを紹介します。
1.法人税の計算方法とは?
はじめに、法人税の納税義務がある法人の条件を解説します。
法人税とは、法人が事業活動を行って得た所得に対して課せられる税金です。個人の所得に対して課せられる所得税に該当します。法人は、実在する人間ではありませんが、法律によって人格を与えられたものです。そのため、法人の経営者でなく、法人そのものに納税義務が発生します。
なお、法人税には法人事業税と法人住民税があり、3つ合わせて「法人税等」と呼ばれています。
1-1 法人税の納税義務者
法人税の納税義務者は、法人格を有している団体です。
ただし、すべての法人に法人税が課せられるわけではありません。
以下に、課税される法人と課税されない法人の違いを解説します。
1-1-1 課税される法人
課税される法人は、株式会社や合同会社等の「普通法人」や生活協同組合、農業協同組合、漁業協同組合等の「協同組合等」の2つが該当します。
なお、信用金庫も協同組合、「医療法人」は普通法人に該当する法人です。
課税される法人は、利益が出る事業が可能な組織と考えるとイメージしやすいでしょう。
1-1-2 課税されない法人
法人であっても、課税されない団体には「公共法人」「公益法人等」「人格のない社団等」などが該当します。
公共法人とは、公共の利益のために運営されていると認められている法人です。地方公共団体、日本政策金融公庫、日本放送協会などが該当します。
公益法人は、一般社団法人、NPO法人、公益社団法人、学校法人などです。人格のない社団等は、PTAやマンションの管理組合などが該当します。なお、公益法人等と人格のない社団等は、収益事業から生じた所得のみ課税対象となります。
同じ「課税されない法人」であっても条件次第で課税される法人もあるので、覚えておくと何かと役に立つかもしれません。
2.課税所得の範囲
法人税は、「益金-損金」=所得金額に対して課せられます。企業会計上の利益に課税されるのではありません。
益金は、法人の資産を増やす収益です。一方、損金は法人の資産を減少させる原価・費用・損失です。また、「費用」として計上できるお金と、損金として認められているものが異なります。
そのため、企業会計上の利益と法人税法上の所得は一致しません。そのため、税務調整が必要です。
個人事業主から法人に設立した方には、所得税と法人税の考え方の違いに、最初は戸惑うかもしれません。法人税は、個人事業主における所得税的なポジションではありますが、所得税と同じではありません。
税理士等に経理を全面的に任せず、自分である程度行うならば、法人税の性質をしっかりと把握しておきましょう。
3.計算方法
ここでは、法人税の計算方法や税率、税額控除額を紹介します。
現在は機能が優秀な法人向け会計ソフトも充実していますが、法人税の計算には税に関する専門的な知識が必要なので、今一度確認していきましょう。
3-1 法人税の税率
法人税の税率は、固定税率(比例税率)です。所得金額でなく、法人の規模や種類によって税率が異なります。
普通法人の場合は、以下のとおりです。
- 資本金が1億円を超えている:23.2%
- 資本金が1億円以下:所得金額が年800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は:23.2%
つまり、資本金が1億円以下でも所得金額が800万円を超えると税率が1億円を超えている会社と同じになります。
公益法人・人格のない社団等の場合は、単純に所得金額が年800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.2%です。
計算方法は、年間所得×法人税率で求められます。例えば、年間所得が500万円の場合で、資本金が1億円未満の場合は、500万×15%で計算できます。
年間所得が900万円の場合は、800万×15%+100万×23.2%となります。売り上げが800万円を超えた場合は、年間所得全体ではなく、(年間所得- 800万×23.2%)です。
つまり、資本金が少ない方が法人税の税率は優遇されています。しかし、資本金が多いほど信頼度は上がります。
税理士とも相談して、資本金をいくらにするか定めるのがおすすめです。
なお、赤字決算で課税所得額がマイナスになった場合は、法人税を納める必要はありません。
そのため、法人を設立したばかりで売り上げがなく、決算が赤字の場合、法人税はかかりません。
また、法人税の税率は定期的に変わる可能性があります。最新の情報は国税庁のウェブサイトをチェックすればわかります。
また、税理士に経理の一部分を任せている場合は、税理士と情報を共有しておくといいでしょう。
3-2 法人税の控除額
法人税にも控除が設けられています。
資本金が1億円までの中小企業は、税務上の赤字が発生すると欠損金の繰越を10年間行うことができます。
例えば、法人化した年に1,000万円の赤字が出て翌年以降、数百万円の黒字が出た場合は、赤字分がなくなるまで欠損金を繰り越せるので、数年間は法人税がかからない可能性もあるでしょう。
法人化した際に赤字が出ると、数年間黒字が続いても内情は苦しいケースもあるでしょう。その際、法人税を抑えられれば、会社の運転資金を確保できます。
このほか、以下のような控除が設けられています。
- 欠損金の繰戻還付:前年度が黒字、今年度が赤字の場合、前年度が黒字だと前年度に支払った法人税の繰戻還付が受けられる。
- 交際費課税の特例:資本金が1億円までの中小企業は年800万円までの部分、もしくは接待飲食費の50%を損金にできる
- 賃上げ促進税制:従業員の給与等支給額の増加に応じて、大企業の場合は増加額の30%、中小企業の場合は40%まで税額控除される。なお、法人税の控除上限は20%です。
これらに加えて「中小企業投資促進税制」「中小企業経営強化税制」「中小企業技術基盤強化税制」「消費税の特例」などの優遇措置が設けられています。
法人化して初めて確定申告をする場合は、自社で利用できる控除がないか積極的に調べて利用しましょう。うまく利用すれば、法人税を抑えられます。
なお、控除や税制優遇に関しては定期的に制度が変わるので、常に最新情報をチェックしましょう。自分で経理も行う場合は、確定申告の時期に税理士に相談してみるのもおすすめです。
税理士に経理の一部を任せる場合は、利用できる控除の種類について説明を受けてみるのもおすすめです。
4 法人税の申告期限
ここでは、法人税の申告期限について解説します。個人事業主の場合、毎年1月1日~12月31日までの売り上げ等を計算して確定申告を行うことが、税法で定められています。
一方、法人は事業年度を自由に決められるのが特徴です。例えば、3月1日~翌年の2月29日までを事業年度にしても問題ありません。可能であれば通常期を事業年度のはじめと終わりにしておけば、確定申告の作業が余裕をもってできるでしょう。
ここでは、法人税の申告の方法である確定申告と中間申告について解説します。
4-1 確定申告
法人の確定申告では、法人税、法人住民税、法人事業税、消費税の4種類の税金を申告します。
個人事業主の場合、帳簿を基に売上から利益を算出して、所定の書類に記入して申告すれば終了しました。
しかし、法人税の確定申告の場合は、会社法で定められた機関によって承認を受ける必要があります。株式会社の場合は、株主総会で売り上げを開示して承認を得ることが原則です。したがって、小規模な法人であっても、個人事業主のように、期日ぎりぎりで書類を作成して申告はできません。注意しましょう。
法人税の申告期限は「事業年度終了日の翌日から2か月以内」です。例えば、2月29日が事業終了日の場合、申告期限は4月30日です。また、納付期限も同日になるので注意しましょう。申告期限の最終日に申告をする場合は、納付に必要なお金も用意しておかねばなりません。
なお、申告期限が守られなかった場合、税務調査による追徴課税、青色申告の取り消し、会社の信用低下などのペナルティが課せられる場合があります。また、法人で信用度が落ちるデメリットは、個人事業主より大きいです。
どうしても申告期限に間に合わない方で一定の要件に該当する場合は「定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請書」を税務署に提出すれば、申告の延長を受けられます。詳しい要件は下記をご参照ください。
ただし、申告の延長は受けられても納付の延長は認められません。申告の延長を行った場合は、おおよその見込みで納税が必要です。納付期限を2カ月以上延長すると、延滞税がかかるので注意が必要です。
4-2 中間申告
中間申告とは、事業年度の途中でその期の税金の一部を納めることです。前年度の税額が一定の金額を超えた事業者に課せられるので、法人化した初年度は課せられません。
中間申告が必要な税額は、20万円です。したがって、法人化2年目から中間申告が必要な業者が出てくるでしょう。
また、中間申告が必要なのは普通法人です。
前事業年度の法人税の確定申告書をe-Taxにより提出した法人には、社会全体の効率化と行政コスト抑制の観点から法人税予定申告書用紙を送付しないこととなっています。
なお、e-Taxで確定申告を行った場合は、メールボックスに中間申告が必要な旨のメールが届くので、確認しておきましょう。
中間申告は、予定納税と仮決算で申告が可能です。予定納税は、前年度の納税額を参考に申告納付を行います。前年の納税額を基に計算を行うので、申告に手間がかかりません。
仮決算とは、中間申告の対象期間を一課税期間とみなして仮の決算をする方法です。
中間申告は、より手間がない予定申告を選ぶ事業者が大半です。ただし、売上によっては仮決算のほうが法人税を抑えられるケースもあります。どちらの決算方法がいいのかは、税理士等に相談して決めましょう。
中間申告の申告期限は、事業年度開始の日以後6ヵ月を経過した日から2ヵ月以内です。例えば、2月29日が事業年度終了日の場合は、10月31日です。中間申告が必要な場合は、8月31日を過ぎたら予定納税の申告準備を行いましょう。
5.法人税の納付方法
法人税の納付方法は、以下の通りになります。
- 現金納付
- クレジットカード納付
- 振替納税
- ダイレクト納付
- インターネットバンキング納付
現金納付、振替納税、ダイレクト納付、インターネットバンキング納付は、納税額分の現金が必要です。一方、クレジットカード納付の場合は1回払い、分割払い、リボ払いが選べます。税金の一括払いが、難しい場合は、クレジットカード納付の分割払いを選ぶのがおすすめです。なお、リボ払いは支払額が抑えられますが、利子が高いので注意しましょう。
法人の売り上げは年度によって異なります。例えば、前年度は売り上げが高く、今年度は売り上げが低い場合は、税金の支払いに苦労する場合もあるでしょう。このような場合は、早めに税理士に相談して、支払い方法や中間申告を工夫しましょう。
まとめ
本記事では、法人税の計算方法について解説しました。法人税の計算方法は、所得税のように単純に売り上げに比例しません。また、2025年6月現在の時点で、中小企業のほうが税率や税額の控除の点で優遇されています。そのため、中小企業の条件に当てはまる法人のほうが法人税を抑えられる傾向があります。
個人事業者から法人になった時点で、経理を税理士に任せる経営者も多いでしょう。しかし、法人税の税率や計算方法を知っておいたほうが、節税方法も理解しやすくなります。
お困りごとがございましたら、ランドマーク税理士法人にご相談ください。