
親の土地に家を建てると、土地購入費を抑えられるという大きなメリットがあります。しかし、税金や住宅ローンの利用方法、将来の相続など、見落としがちなポイントも少なくありません。十分に理解せずに進めてしまうと、思わぬトラブルや金銭的な負担につながるため注意が必要です。
本記事では、親の土地に家を建てる際に押さえておきたい税金や住宅ローン、相続対策の注意点をわかりやすく解説します。
1.親の土地に家を建てる場合、土地の利用方法によってかかる税金が違います
親の土地に家を建てる場合、土地の取得方法や利用方法によって発生する税金や手続きが大きく異なります。土地を譲り受けるのか、借りるのか、あるいは二世帯住宅として利用するのかによって、贈与税や固定資産税、登録免許税などの負担が変わります。
それぞれのケースについて、ひとつずつ見ていきましょう。
1‐1 親の土地を譲り受けるとき
親の土地を譲り受けて家を建てる場合、無償で譲り受けるケースと、時価より低い価格で購入するケースがあります。どちらの場合も、子どもには贈与税や不動産取得税、登録免許税が発生するため注意が必要です。
例えば、土地の時価が2,000万円の土地を、子どもが親から500万円で購入した場合、時価と譲渡価格の差額である1,500万円が「みなし贈与」とみなされます。贈与税は累進課税制度で、贈与額に応じて10%から55%の税率がかかります。
さらに、土地を取得することで不動産取得税(固定資産税評価額の3?4%程度)や、名義変更に伴う登録免許税(固定資産税評価額の2%程度)も発生します。親には、譲渡した金額に応じて譲渡所得税が課せられる点も押さえておきましょう。
無償で譲り受けた場合も、土地の相続税評価額から基礎控除額(年間110万円)を差し引いた金額に対して贈与税がかかります。土地の名義を正式に子どもに移すことで、将来の相続トラブルを防ぎやすくなります。
譲り受ける際は、税金負担や相続への影響をあらかじめ確認し、必要に応じて税額のシミュレーションを行っておくと安心です。
1‐2 親の土地を借りるとき
親の土地を借りて家を建てる場合は、無償か有償かによって税金や住宅ローンへの影響が変わります。借地契約の条件やローン審査の可否などを事前に確認することが大切です。
無償と有償のケースについて、それぞれ解説します。
1-2-1 無償で借りた場合
親の土地を無償で借りて家を建てる場合は、通常「使用貸借」として扱われます。使用貸借は賃貸借と異なり、権利金や地代といった金銭の授受がないため、子どもに贈与税が課されることはありません。また、親に収入が発生しないため、所得税や住民税が増えることもありません。
ただし、無償で借りている土地は将来の相続時に「自用地」として評価され、借地権割合による評価減が認められない点に注意が必要です。無償借地は有償の借地と異なり、相続税の評価額が下がらないため、結果的に相続税の負担が大きくなる可能性があります。
固定資産税は本来、土地を所有する親が負担するものですが、子どもが代わりに支払っても問題はありません。子どもが固定資産税を支払った場合でも、贈与税の対象にはなりません。
一方で、住宅ローンを組む際には土地を担保にできないことがあり、金融機関の審査に影響する場合があります。そのため、事前に金融機関へ確認しておくと安心です。
1-2-2 有償で借りた場合
親の土地を有償で借りて家を建てる場合は、「賃貸借契約」として扱われ、権利金や地代の支払いが発生します。子どもに贈与税が課されることはありませんが、親には所得が生じるため、所得税や住民税を納める必要があります。
また、地代だけを支払って権利金を支払わない場合には「借地権相当額を贈与された」とみなされ、贈与税が課される可能性があるため注意が必要です。地域によっては土地取引の慣行として権利金が一般的に設定されるケースもあり、契約内容を確認しておくことが大切です。
一方で、有償で借りると借地権が発生し、親の自由な利用が制限されるため、相続時には土地が「自用地」としてではなく「借地権付きの土地」と評価されます。結果として、相続税評価額が低くなり、無償で借りた場合よりも相続税の負担が軽減される傾向にあります。
なお、権利金や地代は親の所得となるため、最終的には親の相続財産に加算される点も押さえておきましょう。固定資産税については、土地の所有者である親、建物の所有者である子どもにそれぞれ負担義務が発生します。
1-3 親の土地に二世帯住宅を建てるとき
親の土地に二世帯住宅を建てる場合は、費用負担に応じて建物の登記持分を正しく設定しなければなりません。例えば、親子が半分ずつ費用を負担したにもかかわらず、建物をすべて子ども名義にしてしまうと、差額分が贈与とみなされ、贈与税が発生する可能性があります。
また、親の持分については将来の相続時に相続税の対象となります。親子が同居していれば「小規模宅地等の特例」が適用できる可能性があり、土地の評価額を最大80%減額できるため、相続税の大幅な節税につながるでしょう。ただし、二世帯住宅を区分登記すると特例が適用できなくなるため注意が必要です。
住宅ローンについては、親子で別々に借りるペアローンや、1本のローンを引き継いで返済する親子リレーローンなども利用可能です。名義や契約内容を明確にしておくことで、ローン審査がスムーズになり、将来のトラブルも防ぎやすくなります。
子どもが一人っ子でない場合は、相続の段階で兄弟姉妹とのトラブルが生じる可能性があります。そのため、相続人となる家族間で事前に十分に話し合っておくと安心でしょう。
2. 親の土地に家を建てるメリット
親の土地に家を建てる場合、土地購入費を節約できるだけでなく、住宅ローンの借入額を抑えられるなど、金銭的に大きなメリットがあります。費用面でのメリットやローン負担の軽減について詳しく解説します。
2‐1 土地の購入費が抑えられる
親の土地を利用すれば、新たに土地を購入する必要がないため、土地取得費を大幅に節約できます。例えば、東京の都心部では坪単価100万円を超えるエリアも珍しくなく、30坪の土地を購入するだけで3,000万円以上かかるケースもあります。親の土地を利用すれば、費用をまるごと節約できるため、家計への負担が大きく軽減されるのです。
さらに、浮いた費用を建物や内装に回すことで、理想の住宅プランを実現しやすくなるでしょう。土地購入費を抑えられることは、親の土地を利用する最大のメリットのひとつです。
2‐2 住宅ローンの借入金が少なく済む
親の土地を活用して家を建てると、土地の購入費用が不要になるため、住宅ローンの借入額を抑えられます。借入額が少ない分、毎月の返済負担や総返済額を軽減でき、利息の支払いを減らせる点で大きなメリットがあります。
さらに、住宅ローンを審査する金融機関は、借りる人の返済能力と不動産の担保価値を総合的に判断します。融資額が少なければ審査条件が緩和される傾向にあるため、親の土地を利用することで住宅ローンの審査に通りやすくなるというメリットもあります。
ただし、親の土地がすでに他の融資の担保になっている場合は審査に影響する可能性もあるため、事前に確認しておくとより安心です。
3.デメリットを確認しましょう
親の土地に家を建てる場合、メリットだけでなくデメリットも存在します。住宅ローンの利用や名義の問題、相続時のトラブルなど、事前に把握しておかないと損害を被るリスクは見過ごせません。注意すべきポイントを詳しく解説します。
3‐1 住宅ローンを利用する場合は担保が求められる
親の土地に家を建てる際に住宅ローンを利用する場合、土地や建物を担保に入れる必要があります。親の土地を担保に設定できない場合、融資を受けられない、あるいは審査が厳しくなる可能性があるため注意が必要です。
金融機関によっては、土地が自己所有でないと融資を認めないケースもあるため、ローンを組む前に確認することが重要です。すでに土地に他の抵当権が設定されている場合は、融資を受ける際の順位や回収のリスクから、審査通過が難しくなることもあります。
必要に応じて、親と共有名義にする、別の担保を用意するなどの対策を検討しておくと安心です。また、住宅ローンを滞納すると親に迷惑がかかる可能性があることも念頭に置きましょう。
3-2 住宅ローンの返済まで名義変更できない
親の土地を担保に住宅ローンを組む場合、ローン完済までは土地や建物の名義を変更できません。理由としては、住宅ローンの契約で親の土地・建物が金融機関の担保に設定されており、返済中に名義を変更すると契約違反となるからです。
住宅ローンを利用する場合は、名義変更が可能になるタイミングを金融機関と確認し、返済計画に合わせて手続きを進めましょう。
3-3 相続時にトラブルが起きる可能性がある
親の土地に家を建てると、相続が発生した際に権利関係が複雑になり、兄弟姉妹との間でトラブルに発展するケースがあります。遺産の大部分が土地の場合、他の相続人が自由に利用したり売却したりできないため、不満が生じやすいのです。
対応策として「代償分割」が行われることもありますが、まとまった現金を用意できなければ、最悪の場合は自宅を手放す事態につながる可能性もあります。事前に家族で十分に話し合い、将来のリスクを共有しておくのが大切です。
4.相続対策も検討しましょう
親の土地に家を建てる場合は、相続を見据えた準備が欠かせません。相続が発生してからでは手続きが複雑になり、トラブルにつながることも少なくありません。
生前に対策を講じておけば、家族間のトラブルを防ぎ、スムーズな資産承継を実現できます。相続対策の代表的な方法を3つ解説します。
4‐1 生前贈与をする
親から子へ土地を生前贈与しておけば、相続が発生する前に確実に名義を移せるため、将来のトラブル防止にもつながります。暦年課税を利用すれば年間110万円まで非課税で贈与できますので、時間をかけて少しずつ贈与していく方法もあります。
ただし、不動産を贈与すると贈与税や不動産取得税、登録免許税などがかかり、土地の評価額によっては多額の税負担が生じる点には注意が必要です。また、2024年からは相続税の課税対象となる生前贈与の加算期間が「死亡前3年以内」から「死亡前7年以内」に延長されたため、より一層計画的に進めることをおすすめします。
4‐2 遺言書を書いて相続トラブルを回避する
遺言書を作成しておけば、相続発生後に兄弟姉妹や親族間で争いが起こるリスクを大きく減らせます。土地や建物など分割が難しい財産は、遺言で分け方を指定しておくのが有効です。
ただし、遺留分と呼ばれる「法定相続人に最低限保障される取り分」を侵害しないように配慮しなければなりません。さらに、遺言書の本文だけでなく「付言」として親の想いや背景を添えることで、多少不平等に感じる分け方でも相続人の理解を得やすくなります。
形式としては自筆証書遺言よりも、公証人が関与する公正証書遺言の方が安全かつ法的根拠能力が高いことも覚えておくとよいでしょう。
4‐3 相続時精算課税制度の利用も検討する
相続時精算課税制度を活用すると、親から子への贈与について最大2,500万円まで贈与税が非課税になります。土地の権利を早めに移転しておくことで、相続発生時のトラブル回避にもつながります。
ただし、相続時精算課税制度で贈与した財産は、将来的に相続時に相続財産として合算され、相続税の対象となる点を理解しておきましょう。一度制度を利用すると取り消せないため、メリットとデメリットを十分に理解したうえで、税理士などの専門家に相談して判断するとよいでしょう。
5.まとめ
親の土地に家を建てる場合、土地の取得方法や利用方法によって税金、住宅ローン、相続に関する注意点が異なります。譲り受ける場合は贈与税や名義変更、借りる場合は契約内容やローン審査、二世帯住宅の場合は登記や税務処理など、事前の確認が欠かせません。
また、相続トラブルを避けるために、生前贈与や遺言書の作成、相続時精算課税制度の活用も検討すると安心です。メリットを最大限に活かしリスクを回避できるよう、計画的に進めましょう。
なにか困りごとがございましたら、ランドマーク税理士法人へお気軽にご相談ください。