相続において建物や土地の評価は、税金計算の基本となる重要な要素です。ただし、評価方法は一律ではなく、建物の状態や使われ方によって異なるため、正しい知識が欠かせません。
本記事では、建物の基本的な定義や土地との評価の違いをはじめ、建物の状態ごとの評価方法まで詳しく解説します。また、固定資産税の課税明細書の読み方や節税につながる貸付の活用法など、相続発生時に知っておきたい注意点も紹介します。
建物・土地の相続評価について正しく理解し、スムーズな相続と節税に備えましょう。
1.建物を相続する前に確認しましょう
相続において建物を正しく評価するには、「建物とはなにか」「土地とどう違うのか」といった基本的な理解が必要です。土地と建物はセットで相続されることが多いものの、相続税の評価方法は大きく異なります。誤った認識のまま手続きを進めると、評価額にズレが生じ、税負担の増加や申告ミスにつながるおそれもあるため注意が必要です。
建物の定義や土地との評価の違いについて、わかりやすく解説します。
1‐1 建物の定義
相続において「建物」と認められるためには、外観や用途だけでなく、一定の構造的条件を満たしているかが重要です。建物の基準は、不動産登記規則第111条に「屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない」と定められており、相続税の評価でもこの基準に準じた判断が行われます。
具体的には、次の3つの要素を備えているかどうかが建物か否かを判断する目安になります。
- 外気を遮断する構造があること(外気分断性):屋根と複数の壁により、内部が雨風から守られている状態。
- 土地にしっかり据え付けられていること(定着性):地面に固定されており、簡単に移動できない構造であること。
- 何らかの用途に供しうる状態であること(用途性):居住や作業、物品の保管などに利用できる設備があること。
これらの条件を満たしていれば、住宅や集合住宅、事務所、農業用の倉庫など、さまざまな形態の建物が相続財産として評価対象になります。
1‐2 土地と建物は分けて評価します
相続税の計算にあたっては、土地と建物をそれぞれ独立した財産として評価する必要があります。同じ敷地内にある場合でも、評価の根拠や計算方法がまったく異なるため、別々に算定するのが原則です。
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額と同額になります。建物の評価には評価倍率1.0が適用されるためであり、基本的には評価額に変動はありません。
一方、土地の評価方法は所在地域によって異なり、路線価方式または倍率方式のいずれかが採用されます。市街地などの路線価が定められている地域では「路線価方式」が用いられ、それ以外の地域では「倍率方式」が適用されます。
具体的な評価方法は以下のとおりです。
- 建物:固定資産税評価額 × 評価倍率(通常1.0)
- 土地(路線価方式):路線価 × 画地調整率 × 地積(㎡)
- 土地(倍率方式):固定資産税評価額 × 評価倍率
例えば、建物に増改築があったり、土地の形状や利用状況に特徴があったりすると、同じ不動産でも評価額に影響が出る可能性があります。そのため、固定資産税の課税明細書や評価証明書を確認し、最新の情報に基づいて評価することが大切です。
2.建物の状態によって評価方法が異なります
建物の評価額は、すべて一律に決まるわけではありません。被相続人が自宅として使っていたのか、賃貸に出していたのか、あるいは建築途中だったのかによって、評価の方法が異なります。
判断を誤ると、申告の修正や追加の納税が必要になる場合もあるため注意が必要です。相続時によく見られる建物の状態別に、評価方法のポイントを解説します。
2‐1 被相続人が所有・利用していた建物
被相続人が自宅や事業用として使用していた建物は、一般に「自用家屋」として評価されます。この場合、相続税評価額は固定資産税評価額に評価倍率1.0をかけた額となり、基本的には固定資産税評価額と同じ金額になります。
具体例を挙げると、固定資産税評価額が3,000万円の家屋であれば、相続税評価額も3,000万円です。
自用家屋は貸付に関する減額特例が適用されず、評価方法は比較的シンプルです。正確な課税明細書を参考に、評価額を把握しておきましょう。
2‐2 過去に増改築などをしている建物
増改築を行った建物は、実際の価値と固定資産税評価額にズレが生じている場合があります。特に増改築が未申告の場合、評価額に反映されていない可能性が高いため注意が必要です。
相続税評価額は、増改築分を加味して計算します。具体的には、以下の計算式に基づいて求めます。
- 増改築前の固定資産税評価額 + (増改築費用 ? 償却費)× 70%
償却費は、増改築費用のうち使用年数に応じて価値が減少した分で、次の計算式で求めます。
- 償却費 = 増改築費用 × 90% × 経過年数 ÷ 耐用年数
- 経過年数:増改築から相続発生までの年数(1年未満は切り上げ)
- 耐用年数:建物の構造や用途ごとに国が定めた年数(例:木造22年、鉄筋コンクリート造47年)
なお、外壁の補修や壁紙の張替えなどの修繕費用は、原則として相続税評価額に加算しません。
2-3 賃貸アパートとして貸し出していた建物
被相続人が所有していた賃貸アパートは、「貸家」として評価されます。固定資産税評価額から、借家権割合と賃貸割合を掛けた分を差し引いて算出する仕組みで、貸している部分の面積が広いほど評価額は低くなります。
評価額の計算式は以下のとおりです。
- 相続税評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
- 借家権割合:借り手の権利に相当し、全国的に30%と定められています。
- 賃貸割合:建物全体に対する、賃貸中の部分の床面積の比率を指します。
例えば、固定資産税評価額が8,000万円、建物全体の床面積が250㎡、うち賃貸中の床面積が120㎡であれば、賃貸割合は約48%です。この場合の相続税評価額は、以下のとおり計算されます。
- 8,000万円 × (1 - 0.3 × 0.48) = 約6,848万円
なお、被相続人の死亡時に空室が多い場合など、実際に貸し出していない部分があると、借家権割合による減額が適用されないことがあります。賃貸借契約書や入居状況をもとに、正確な賃貸割合を確認することが重要です。
2-4 貸家として第三者に貸し出していた建物
被相続人が戸建て住宅などを第三者に継続して貸していた場合、該当する住宅は「貸家」として評価され、相続税評価額を算定する際に減額が適用されます。
貸家の評価額は、固定資産税評価額から借家権に相当する分を差し引いて算出します。計算式は以下のとおりです。
- 相続税評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合)
借家権割合は、借主が建物を使用する権利に基づき、所有者の自由な使用が制限されることを考慮して控除される割合です。全国的に30%で設定されているのが一般的です。
例えば、固定資産税評価額が1,600万円の戸建て住宅を第三者に貸していた場合、相続税評価額は次のように計算されます。
- 1,600万円 ×(1 - 0.3)= 1,120万円
このように、貸家として使用されている建物は、借家権の分を差し引いた金額で評価されます。
なお、評価減を受けるには、実際に継続して貸し出していた事実が必要です。相続発生直前に形式的に短期間だけ貸したような場合は、減額が認められないこともあります。賃貸借契約書や入居履歴などの書類を確認し、実態が明確にわかる状態で管理しておくことが求められます。
2-5 建築途中の建物
被相続人が住宅などを建築している途中で亡くなった場合、未完成の建物であっても相続財産として扱われ、相続税の対象になります。ただし、建築中の家屋には固定資産税評価額が付されていないため、完成済みの住宅とは異なる評価方法が適用されます。
このような場合は、「財産評価基本通達91」に基づき、相続開始時点までに支出された建築費用(費用現価)に70%を乗じた金額で評価します。計算式は以下のとおりです。
- 建築途中の建物の評価額 = 費用現価 × 70%
例えば、建築工事の請負契約金額が4,000万円かかる場合、
相続開始時における工事の進捗率が20%であれば
4,000万円×20%=800万円が費用現価になります。
費用現価として800万円を支出していた場合、評価額は以下のように計算されます。
- 800万円 × 0.7 = 560万円
評価額を決める際には、工事契約書や請求書、領収書など、建築費の支出を確認できる資料に基づいて費用現価を算出する必要があります。
また、建築中の家屋の評価とは別に、建築費用の支払い状況に応じて、支払い済みの工事代金と費用現価との差額を財産または債務として計上します。
建物が完成していない場合は、建築の進捗状況に応じて評価額が変動するため、完成済みの住宅と同じ評価方法は使えません。
3.建物を相続する際の注意点を確認しましょう
建物の相続では、評価額の算出だけでなく、書類の読み取りや制度の理解にも注意が必要です。固定資産税の課税明細書の確認や、適用可能な特例の有無、過去の増改築の反映状況などを見落とすと、相続税の申告ミスや想定外の課税につながる恐れがあります。
建物を相続する際に特に注意すべきポイントを4つに分けて解説します。
3‐1 固定資産税の課税明細書には2つの金額が書かれています
相続税の評価で参考にする「固定資産税の課税明細書」には、「固定資産税評価額」と「課税標準額」の2種類の金額が記載されています。
このうち、相続税の評価に用いるのは「固定資産税評価額」です。誤って「課税標準額」を使うと、実際よりも評価が低くなるため、申告ミスや過小申告につながるおそれがあります。
課税標準額は、固定資産税評価額に対して特例や負担調整率が適用されるため、通常は評価額よりも低くなっています。土地や建物によって明細書の記載形式が異なるため、確認を怠らないようにしましょう。
3‐2 建物には小規模宅地等の特例を適用できません
「小規模宅地等の特例」は、相続した土地に対して一定の要件を満たす場合に評価額を最大80%減額できる制度です。しかし、小規模宅地等の特例は土地に対してのみ適用されるものであり、建物には適用されません。 そのため、建物の評価額は減額されず、相続税の課税対象となるため、思ったよりも税負担が重くなるケースもあります。
相続税申告の際には、土地と建物を正確に区別し、それぞれに適用される制度や特例を正しく把握することが大切です。
3‐3 増改築等の評価漏れがないか確認しましょう
被相続人が生前に行った増築やリフォーム工事が、固定資産税評価額に反映されていないケースはめずらしくありません。特に工事内容を市区町村に申告していない場合、登記簿や課税明細書に変更が記載されず、評価から漏れてしまうリスクが生じます。
こうした増改築部分も相続財産として評価対象に含める必要があり、工事費用から減価償却分を差し引いたうえで、70%相当額を評価額に加算します。
「申告しなければ税金がかからない」と思われがちですが、相続税の申告では正しく反映させなければなりません。
建築確認申請や工事契約書、請求書、領収書などをもとに、現状と固定資産税評価額が一致しているか確認しておきましょう。評価漏れがあると、過少申告とみなされ、加算税や延滞税などのペナルティを科される可能性があるため注意が必要です。
3-4 建物の相続税評価額は、売却時の取得費と異なります
相続税の申告で用いる建物の「相続税評価額」と、売却時に必要となる「取得費」は同じではありません。
相続税評価額は主に固定資産税評価額をもとに算出されます。一方、売却時に譲渡所得を計算する際の取得費は、被相続人が建物を購入・建築した際の金額を基に、減価償却を考慮して計算されるものです。
これらの違いを理解せずに相続税評価額をそのまま取得費として扱うと、譲渡所得が過大に算出され、余分な税負担が生じる可能性があります。
不動産を相続後に売却する予定がある場合は、取得費の正しい算出方法を把握しておくことが重要です。売却前に税理士など専門家に相談し、トラブルや税負担の増加を回避しましょう。
4.貸付が節税につながります
建物を相続した際、そのまま空き家にしておくと、相続税の軽減措置を受けにくくなります。一方で、相続後に建物を貸し出すことで、一定の条件を満たせば「貸家」として評価額を下げられる可能性があります。
節税効果を高めるために欠かせない2つのポイント、「空室を減らす」「第三者に有償で貸す」について詳しく見ていきましょう。
4‐1 空室を減らす
建物を相続した際、賃貸用の物件であっても空室が多いと、「貸家」としての評価が十分に認められず、相続税の節税効果が限定的になる可能性があります。相続税評価を下げるには、賃貸借契約が結ばれ、安定して賃料が発生している状態が前提です。
なお、空室があっても「一時的な空室」と判断されれば、賃貸中として扱えるケースもあります。例えば、以下のような条件を満たしているかが判断のポイントです。
- 相続開始前に継続的に賃貸されていた
- 賃借人の退去後すぐに新しい入居者の募集が行われた
- 空室の間ほかの用途には使用されていなかった
- 空室の期間が1か月前後など一時的と認められる期間にとどまっている
- 課税時期後も引き続き通常の賃貸が継続されている
空室が長引けば、それだけ賃貸割合が下がり、評価額の減額対象から外れるリスクも高まります。安定した賃貸状況を維持するには、できるだけ早く入居者を確保することが重要です。
4‐2 第三者に有償で貸す
相続した建物を節税目的で貸し出す場合は、親族ではなく第三者に対して、相場に見合った賃料で貸す必要があります。親族間での貸付は実態にかかわらず無償と判断されやすいため、「貸家」として認められず、借家権割合による評価減が適用されないおそれがあります。
また、契約書の有無や賃料水準など、貸付の実態を示す客観的な証拠も重要です。形式だけの貸付ではなく、実態としての賃貸関係が成立しているかがポイントとなります。
使用していない建物がある場合は、第三者に貸すことで相続税評価額を引き下げられる可能性があるため、早めに検討するとよいでしょう。
5.まとめ
建物や土地を相続する際は、まず「建物の定義」や「土地と建物の評価を分ける」といった基本を理解しましょう。評価方法は建物の状態や利用状況、増改築の有無、賃貸の有無によって変わります。
また、固定資産税の課税明細書の内容や、小規模宅地等の特例が建物に適用されない点、増改築の評価漏れがないかも確認が必要です。建物の相続税評価額は売却時の取得費と異なるため、その違いも把握しておきましょう。
貸付による節税効果も重要です。空室を減らすなどして、第三者に有償で貸すことで評価額を下げられます。
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