農地を相続することになった場合に必要な手続きや知っておきたいこと

相続で農地を取得することになった場合、普通の相続では出てきにくい2つのことを考えなければなりません。1つが、宅地や建物を相続した場合と異なる特殊な手続きが必要であること、もう1つが、引き続き農業をするかどうかについてです。

農地は、食料の安定供給にも関わる問題につながるため、相続にあたっての手続きも少し複雑です。そこで今回は、農地を相続する場合の2つの手続きと、農業をする場合としない場合のそれぞれについて知っておきたいポイントについてまとめました。

1.農地を相続する際に必要な2つの手続きとは

相続で基礎控除額を超える財産を引き継いだ場合、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」に、所轄の税務署に相続税の申告をしなければなりません。

その際、農地などの不動産を相続したのであれば、相続税の申告以外に、不動産の名義人を変更するために、「法務局での相続登記」をする必要があります。

ただ、農地は「食料の安定供給」に関わるものであるため、不動産の中でも特殊なものと位置付けられており、各市町村などに設置されている農業委員会が関係してきます。
そのため、農地を相続した場合には、「農業委員会への相続の届出」も必要です。

(1)法務局での相続登記

農地を相続した場合は、家や投資用不動産を相続した場合と同様に、その不動産の所在地を管轄する法務局で不動産の名義人を変更する手続き(所有権移転登記)が必要です。

一般的に、農地を売買や贈与で取得するためには、農地法の定めにより、農業委員会の許可を受ける必要があります。許可を受けずに売買しても無効とされ、所有権移転登記もできません。

しかし、法定相続人が相続で農地を取得した場合は、意図的な所有権の移転ではないため、農業委員会の許可は必要ありません。なお、法定相続人でない人(被相続人の孫が代襲相続でない方法で相続する場合など)が相続する場合は、農業委員会の許可が必要になるので注意してください。

不動産を相続で取得した場合の所有権移転登記には、登録免許税がかかります。登録免許税の金額は「固定資産税評価額×0.4%」です。また、被相続人の戸籍謄本・住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本などを、所有権移転登記申請書と一緒に提出しましょう。

相続人の話し合いで遺産分割した場合は「遺産分割協議書」、遺言書による遺産分割をした場合は「遺言書」の添付も必要です。

不動産登記は農地の所有権をめぐるトラブルを防ぐことにもなります。また、次に説明する「農業委員会への届出」に、農地の相続登記の証明書が必要です。

(2)農業委員会への相続の届出

農業委員会は、法律に定められている組織で、農地に関する事務を担当しています。農地は食料の安定供給に関わるものであるため、農業委員会が農地の無秩序な開発や宅地への転用などを監視・抑止しています。

そのため、売買や相続などで所有者が変わったときには、その旨を農業委員会へ届け出ることが義務付けられています。相続で農地を取得した場合の届出期間は、「被相続人が死亡したことを知った時点から10か月以内」です。相続登記をしてから10か月ではないので注意してください。届出をしなかったり、虚偽の届出をした場合には、「10万円以下の過料」という罰則も定められています。

農業委員会は、原則として、各市町村に設置されています。しかし、農地面積が少ない地域では設置されていないこともあります。その場合は、自治体に問い合わせたりすれば、農地に関する事務を行っている担当部署を教えてもらうことができます。

農業委員会へ相続の届出をする場合は、所定の届出書とともに、法務局で相続登記済みの登記簿謄本など、相続したことが確認できる書面を提出します。法務局で相続登記をしたときに証明書を発行してもらい、その足で農業委員会でも相続の届出をすれば、何度も手続きのために時間をとる必要がなく、手間が省けるでしょう。
なお、農業委員会への相続の届出に手数料等はかかりません。

2.引き続き農業をする方が知っておくべきこと

農地を相続した場合、次に考えるのは、農地をどのように使うのかです。
引き続き農地として利用して農業をする場合と、農業を行わない場合に分けられますが、引き続き農業をする意思がある場合には、農地にかかる部分の相続税が猶予される制度があります。

(1)農地の納税猶予の特例

農地の納税猶予の特例は、農地を引き継いだ相続人が引き続き農業をする場合などに適用できる制度です。

下記の適用条件を満たした場合、農地にかかる部分の相続税が猶予され、最終的に、相続人が死亡するまで農業を続けたなどの場合には、相続人にかかる分の相続税は免除されます。

(2)適用条件

農地の納税猶予の特例の適用条件はやや複雑で、「被相続人」「相続人」「農地」のそれぞれについて、所定の条件を満たしている必要がある。

【被相続人の条件】

  • 死亡日まで農業を営んでいた
  • 生前に、相続人に農地を一括贈与した
  • 死亡日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人、または、農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、農業を営むのが困難な状況で営農困難時貸付※1を行っていて、税務署長に届出をした
  • 死亡日まで特定貸付※2を行っていた

※1営農困難時貸付とは、「障害、疾病などの理由で自ら農業を行うことが困難な状態であるため賃借権等を設定して貸し付けたもの」である。

※2特定貸付とは、「農業経営基盤強化促進法などの規定による一定の貸付」を指す。

【相続人の条件】

  • 相続税の申告期限までに農地を引き継ぎ、農業を継続している(営農困難時貸付や特定貸付を行った場合も含む)
  • 相続税の申告期限までに、相続した農地を特定貸付している
  • 被相続人から生前に農地を一括贈与され、贈与税の特例が適用されている

【農地の条件】

  • 相続税の申告期限までに遺産分割が終了している
  • 被相続人の生前に一括贈与された場合、贈与税の特例が適用されている
  • 相続のあった年に、被相続人から一括贈与されている※1

※1相続のあった年に一括贈与された場合、本来は翌年の確定申告で行われるべき贈与税の特例の申請ができていないため、贈与税の特例が適用されていなくても条件を満たしたことになります。

(3)手続き

農地の納税猶予の特例を受けるためには、相続税の申告書に所定の事項を記載し、特例の適用条件を満たしていることを証明する書類を添付して申告期限内に提出します。その際、猶予される税額と利子税の金額にみあった担保を提供する必要があります。

納税猶予が受けられた後は、3年目ごとに、引き続き猶予特例を受けるための「継続届出書」を提出しなければなりません。

猶予期間中に、特例の対象となっている農地を譲渡した、継続届出書を提出しなかったなどの場合には、猶予されていた相続税と猶予期間に応じた利子税を納付しなければならなくなります。

農地として利用し続けていれば、最終的に相続税が免除される特例ですが、猶予の条件が細かく設定されているため、特例を利用すべきかを慎重に検討するようにしましょう。

3.農業は行わない方が考えるべきこと

一方で、農地を引き継いでも農業を行う意思がない場合は、その土地をどう活用するか、そもそも農地を相続するかという問題が起きます。

農地であっても宅地であっても同じことですが、不動産を保有していると、固定資産税や維持費などがどうしてもかかってしまいます。金銭面だけでなく、不動産の維持にかかる手間の問題もあります。雑草の除去や建物の維持管理をしておかないと、近隣の迷惑になったり地域の治安悪化につながったりする恐れもあります。相続する農地・土地が遠方だと、自分で管理するのはとても大変です。

そこで、農地をどのように活用するかについて、場合によっては手放すことも含めて検討しなければならないこともあるでしょう。農業は行わない人が農地を相続する場合の選択肢は大きく3つの方法がありますが、それぞれのメリット・デメリットや注意点を説明します。

(1)売却

相続した農地を、農地として売却する方法です。

後述する「宅地に転用してから売却する」のと比較すると、売却しにくいという問題があります。しかし、住宅地としての需要ない地域では、宅地に転用しても売却できないので、農地のままで売却せざるを得ないでしょう。

農地を売却できる相手は、「営農計画を持っていること」や「必要な農作業に常時従事すること」などの要件を満たした個人や農地所有適格法人に限られています。また、売却にあたって、事前に農業委員会の許可などの手続きも必要となります。

各市町村の農業委員会や農政担当課では、農地を売却したい意思を伝えておくことで、売却先の紹介をしてもらうこともできます。詳しくは、農業委員会や農政局で確認してください。

(2)転用

転用とは、土地の用途を変更することです。

農地から宅地に変更することで、賃貸物件を建設して賃貸することもできるほか、住宅用地として売却することも可能です。ただし、農地以外のものに転用する場合は、事前に農業委員会への許可申請をしなければなりません。

市街化区域の農地であれば宅地への転用もしやすいですが、市街化調整区域など許可が下りにくい場合や、住宅地としての需要がない地域の場合は、(1)の「農地として売却すること」などを検討せざるを得ないでしょう。

宅地に転用し、自らが不動産オーナーとなって土地活用をする場合は、ワンルームタイプやファミリータイプなど、地域の需要に合わせた物件を建設することが大切です。需要のない物件や供給過剰な物件を建てたとしても、入居者が集まらず、損失を出してしまっては意味がありません。土地活用で収益が出せるかをしっかりと検討したうえで実行するべきです。

不動産事業を行うにあたっては、個人事業主としての開業や不動産事業のための法人設立が必要です。また、銀行からの借り入れによる節税効果や事業に関する経費の処理など、税金に関する知識も不可欠です。税理士に相談するなどして、より堅実に土地活用できるようにしましょう。

(3)相続放棄

宅地への転用が難しく、売却もなかなかできなさそうな場合は、最後の手段として「相続放棄」する方法もあります。ただし、相続放棄は注意すべきことが2点あります。

1つは、「相続放棄の意思表示ができる期限が短い」ことです。
相続税の申告は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」ですが、相続放棄をするためには、「相続開始があったことを知ったときから3か月以内」に家庭裁判所に届け出なければなりません。相続税の申告よりもずっと早いタイミングで、相続放棄するかどうかの判断をしなければならないのです。
もう1つは、相続放棄は「すべての相続権を放棄しなければならない」ことです。

他にも相続する財産がある場合、相続放棄するのを農地だけにすることはできず、すべての相続財産の承継を放棄するかどうかで考えなければなりません。

相続放棄には、上記のような注意点があるため、相続が開始した時点(もしくは、相続のことを考え始めるようになった時点)で、すぐに検討し始めなければならないでしょう。農地以外にもある程度まとまった相続財産があるのであれば、相続放棄せずに農地も相続したうえで、少しでも早く、売却などができるようにした方がよいでしょう。

4.まとめ

農地は、食糧の安定供給にも関わる特殊な不動産です。そのため、農地として引き続き利用する場合には相続税の猶予が受けられるメリットがありますが、相続した農地を売買・転用するためにはさまざまな制約があります。

相続は税理士に相談すべきことですが、農地を相続する場合は、農業委員会への届け出などの手続きや、そもそもどのように被相続人の財産を分割するかなどの課題もあります。つまり、農地を相続する場合は、税理士だけでなく、司法書士や弁護士の知識が必要になることもあるのです。また、引き継いだ農地をどうするかについて、相続放棄も含めて検討したい場合は、時間的な問題もあります。

農地を持っている方、農地を相続する可能性がある方は、早いうちに、司法書士や弁護士とも連携の取れる税理士に相談することをおすすめします。