法人化とは、個人事業主が会社を設立して今まで個人で行ってきた事業を法人に移行することです。
法人化すると利益によっては節税になる、社会的な信用度が高くなるなどさまざまなメリットがあります。
その一方で、法人化にはデメリットもあります。個人事業主から法人化を検討する際は法人化のメリットだけでなくデメリットも把握しておくことが重要です。
本記事では、法人化の概要や法人化するメリット・デメリットに加え、法人化がおすすめの事例を紹介します。
法人化について興味がある方や法人化について詳しく知りたい方は参考にしてください。
1 法人化とは
法人化とは、個人事業主が会社を設立して今まで「個人」で行っていた事業を法人に移すことです。別名を「法人成り(ほうじんなり)」ともいいます。法人は法律によって人間と同格の人格が認められており、以下のようなことが法人名義で可能です。
- 口座の開設
- 物品の売買・所有
- 契約の締結・破棄
- 訴訟を起こす
- 融資を受ける
- 不動産を所有する
なお、法人には代表者(社長、CEO等)がいますが、代表者と法人は全く別人格です。したがって、代表者が交代しても、法人はそのまま残ります。そのため、会社の継承や存続がより容易になるでしょう。
法人には、「公益法人」「私法人」「営利法人」「非営利法人」等の種類があります。
一般的な会社は私法人かつ営利法人に分類されます。
2 法人化をすることで節税効果が得られる
法人化するメリットとして、よく挙げられるのが節税効果です。法人特有の税金に「法人税」があります。
法人税は個人事業主ににおける所得税に該当します。所得税の税率は収入に応じて変わっていき、最大で45%です。
法人税の税率も売上によって若干の変動はありますが、原則として23.2%です。また、中小法人は2012年4月1日より2025年3月31日までの間、事業年度分の年800万円以下の部分については税率が15%に軽減されます。一方、個人事業主の場合は、課税所得が900万円以上になると所得税が33%になります。つまり、利益(所得)があるほど法人化したほうが節税になります。
例えば、賃貸物件を所有している場合、住んでいる地域で不動産の需要が増したり、需要のある物件を建築したりすれば売上が大幅が上がる場合もあるでしょう。そのような場合、法人化したほうが節税ができるでしょう。不動産以外にも利益が大幅にあがってしばらくその状態を維持できる場合や、一定の売上を長い間維持しており、親から子どもへ事業を引き継ぎたい場合も法人化したほうがスムーズに行なえるケースが多いでしょう。
3 法人化による税務上のメリット
法人化による税務上のメリットは、所得税だけではありません。ここでは、法人化する税務上のメリットを6つ紹介します。
3-1 給与所得控除により課税所得を抑えることができる
法人化すると、社長をはじめとする役員の給与を損金として控除することが 可能です。個人事業主の場合、は売上から必要経費を引いたぶんが利益となり、所得税がかかります。したがって売上が上がるほど所得税も上がり、節税にも限度があるでしょう。
一方、法人の場合は売上から役員の給与と必要経費を引いた分に法人税がかかります。役員の給与の分課税所得を抑えられるのがメリットです。例えば、認められる範囲内で高い給与を設定すれば、その分法人税を節税できます。
ただし、給与を上げるとその分役員個人に所得税がかかります。個人の所得税が高くなれば法人税が安くなっても負担が変わらない場合もあるでしょう。そのようなことにならないよう、税理士と相談して給与額を決めるなどの工夫が必要です。
3-2 役員給与を払うことによる所得分散効果で節税に
役員とは、会社法で定められている「取締役」「会計参与」「監査役」の3役を指し、会社の中核を担う経営幹部 を指します。株式譲渡制限会社なら取締役が1人でも大丈夫ですが、公開会社ならば3人以上の取締役が必要です。また、役員の数は定款によって決めることができるので、家族を役員にして所得を分散させて節税もできます。
例えば、社長を父親、役員を母と子どもなどに指名すれば役員を複数指名するデメリットも少なくして、所得を分散させて節税が可能です。場合によっては父の兄弟、母の兄弟も役員に任命することもできます。
また、給与だけでなく賞与や退職金も給与と同じように経費として計上が可能です。
役員に任命できる数や給与の額も税理士に相談が可能なので、わからないことがあったら積極的に相談してみましょう。
3-3 家族に対する給与を経費にしながら、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除を受けることができる
法人化をして家族を役員とした場合、給与の額を調整すれば配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除等を受けることができます。配偶者控除を受ける場合は妻を役員とした場合、年収を103万未満に抑える必要があります。また、本人の年収も最高で1195万円未満に抑えなければなりません。
しかし、個人事業主から法人化を検討しているケースならば、法人化した後で本人の給与所得が1000万円以上となるケースはまれでしょう。
うまく所得を分散化すれば、法人税を抑えるだけでなく配偶者控除や扶養控除まで利用できて、所得税を大幅に抑えられます。控除額は年齢によって異なるので、詳細を知りたいなら一度税理士に相談してみてもいいでしょう。
3-4 経費として損金算入するものが増える
法人化すれば、個人事業主よりも損金算入できるものが増えます。前述したように役員の給与、退職金のほか、出張手当や慶弔金、生命保険の保険料なども損金算入が可能です。
また、自宅を法人契約で役員の社宅とした場合、家賃名目で参入できます。経費として扱えるものが増えれば、それだけ所得を抑えることができて節税になるでしょう。
3-5 赤字を最大10年間繰り越すことが可能に
青色申告をしている個人事業主の赤字の繰り越し期間は3年間ですが、法人の場合は10年間繰り越せます。そのため、初期にある程度開業資金が嵩んでも、10年間はそれを繰越ながら節税が可能です。
また、不動産事業の場合は法人化してすぐに新しい物件を建てれば、そのときに発生した赤字を10年間繰り越せます。法人化しても売上が上がるほど税金は増えていきます。そのため、赤字を繰り越せるシステムは上手に利用すれば納税額を大幅に減らせるでしょう。
3-6消費税の納税義務が最大2年間免除される
消費税は2年前の売上高に対して課税が発生する仕組みです。そのため、法人設立後2年間は納税義務が免除されます。そこで個人事業主として、課税事業者であっても法人化することによって1期と2期の売上がないため、2年間は免税事業者であることができます。
ただし、法人設立時に課税事業者を選択した場合や、資本金が1,000万円を超える場合 は会社を設立した年から消費税の納税義務が生じるので気をつけましょう。
4 法人化をした方が良い人の例~課税所得800万円超の場合~
個人事業主が法人化する目安は、課税所得800万円超が目安とされています。課税所得が800万円で所得税と法人税がほぼ同額になり、課税所得が800万円を超えると法人税のほうが税率は低くなります。
そうなれば、法人化したほうがメリットが大きくなるでしょう。
ただし、課税所得が800万円超の年が1年くらいで、後は400万円代~500万円代を推移するような場合はすこし様子を見たほうが良いケースがあります。
数年分の課税所得から法人化したほうがいいのか悩んでいる場合は、税理士に相談してみましょう。
5 法人化によるデメリット
ここまで法人化によるメリットを説明してきましたが、法人化によるデメリットもあります。
「節税できるから」という理由だけで個人事業主が法人化するとかえって費用がかかったり事業がしにくかったりする可能性もあるでしょう。
ここでは、主なデメリットを5つ紹介するので、法人化を検討している方は参考にしてください。
5-1 設立費用がかかる
個人事業主として事業を始める場合は費用がかかりませんが、法人化する場合、株式会社を設立するなら最低約25万円(電子定款の場合は約21万円)が必要です。 合同会社の場合は、最低約10万円(電子定款の場合は約6万円)が必要になります。
設立費用は設立するとき以外はかかりませんが、ある程度まとまった金額がかかります。
また、設立は法律に沿って行わなければならず、必要な書類を定められた形式で作成しないと受け付けてもらえません。司法書士に依頼すれば10万円程度の報酬を支払う必要があります。また、住民票など取得するのに費用がかかる書類も必要なので、実際の金額は30~40万円くらいでしょう。
5-2 プライベートで使うことのできるお金が制限される
法人化した場合、社長をはじめとする役員と法人は「別人格」扱いになります。そのため、会社のお金を社長が自由に使うことはできません。個人事業主の場合は純利益の使い道は自由です。生活費にしたり趣味の費用に使ったりしても問題ありません。
しかし、法人の場合は会社のお金を役員が勝手に利用すると「横領」になります。役員が自由に使えるのは「給与」として与えられた分だけです。社員がおらず役員が全員家族だけの法人でも、会社の売上を勝手に使うことはできません。
法人化を決めた場合は、1ヶ月に個人で必要な額を計算して給与を決めてください。
5-3 社会保険への加入が義務付けられる
株式会社を設立した場合、規模にかかわらず社会保険への加入が必要です。なお、社会保険料は国民保険料より高額です。家族全員が会社の役員となり、社会保険に加入した場合は保険料だけで数十万円になる場合もあるでしょう。
ただし、現在国保に加入している場合は配偶者や親、子どもを扶養にいれることで社会保険料を抑えられる可能性もあります。法人税と社会保険料、個人にかかる所得税などをすべて計算し、現在支払っている税金と比べてどちらがお得か算出してみましょう。
5-4 赤字でも税金がかかる
個人事業主の場合、1年間の売上から諸経費を引いた儲けがマイナスの場合、所得税はかかりません。
しかし、法人の場合は赤字でも「法人住民税」が必要です。商売はいつでも順風満帆とは限りません。
また、儲けがあっても現金が手元にない場合もあるでしょう。
法人住民税は決して高くはありませんが、売上の低迷が数年続くと捻出が難しくなります。商売がうまくいかずに法人を廃業しても税金はそのまま残ります。赤字になっても税金を払える資産があれば問題ありませんが、「儲けがなかったら税金が払えない」「売上に波があり、数年ほど赤字が続く可能性が高い」といった場合は、安易に法人化すると資金が回らなくなるケースもあるでしょう。
なお、現在は資本金1円でも会社が設立できますが、資本金が少ないと赤字になった場合に補てんもできません。赤字が続いても法人化するメリットが大きいと感じる場合は資本金を多めに用意しておくなどの対処が必要です。
5-5 経理・事務作業などの負担が増える
法人化した場合、経理作業や事務作業などの手間が増えます。個人事業主の場合は利益はすべて自分のお金として使えましたが、法人化したら会社のお金と社員の給与をしっかりと分けて帳簿を付けなければなりません。
また、税制上の優遇措置を利用する場合も、正確に記入した帳簿が必要です。専門的な知識を持つ経理ができる人材を雇用したり経理を税理士に依頼したりした場合は、別途費用がかかります。
このほか、地元の自治体や税務署、労働基準監督署などへの提出書類が必要になる場合もあるでしょう。
例えば、今まで1人で回してきた仕事が、法人化すると人を雇わないとうまく回らない可能性もあります。
業務を外注した場合は費用が余計にかかります。この点を考慮して法人化を決断しましょう。
6 法人化のメリット・デメリットのまとめ
純粋な利益が800万円超の個人事業主は、法人化したほうが節税効果をはじめメリットが大きいといわれています。近年は資本金が少なくても法人化が可能で、手続きの簡易化も進んでいます。しかし、法人化すると社会保険への加入が義務づけられる、赤字でも税金が発生するなどデメリットもあります。売上に波がある場合は法人化を慎重に検討したほうがいいでしょう。
法人化するか個人事業主のままでいるか悩んでいる場合は税理士への相談がおすすめです。数年分の売上がわかる帳簿を持参して相談に行けば、最適なアドバイスを受けられます。